Chapter6 エンディングだぞ、泣けよ
僕は知っている。この先の展開を……
『ラピッグG、最後の宝石『青色の思い出』を手に入れたのですね』
「はい、女神様。私が、この世界の王となる男です」
『わかりました。では、あなたにこの世界の半分をお譲りしましょう』
簡潔な会話をして、塔の上の雲は、暗く、そして厚くなる。星空はその隙間からちらほら見えるけども、たぶんこの暑さには理由があるのだ。
リタの隣に、座薬型ドームが現れる。長年の気候で色の変わった黒い石の床に、音もなく降り立つ。塔の形は、上から見ると櫓のように簡単な作りであったが、屋上に行くにつれ広がるように面積は広かった。
彼はそれを見てエンディングを確信していた。金髪を書き上げて、額の汗を金の鎧で拭った。ふきとれきれない汗が頬を濡らし、金色の鎧が薄く光った。
ドームからは光が投影され、僕が思ったように、黒い雲へと映像が投影された。それも、この世界に来てはじめに見たような、ちゃっちいものではない。
上空へ、ラピッグG全体の空に、映像が投影された。
『我々は、長い歴史の上で、ようやく一つの文明の終着点を見つけたようです。ファンタジーのこの世界で、重機という秘宝を目覚めさせたモンスター達は、ようやく矛を収めたのです。青い宝石は、そのための思い出を、皆に思い起こさせました』
暗い雲に、地平線が描かれた。草原と空と、それを分断する地平線が。世界が二つに分かれて、さらにそれが二つになっているのかと、プレイヤーはそう思うだろう。
そこから光が降り注ぎ、過去の物語の回想が始まる。
モンスターの王子、移住した人間のお姫様、二人は結ばれたが、争いの中で離れることとなったという。青い思い出の宝石を、ラストダンジョンに飾り、勇敢な英雄を待ったのだとか。
想い溢れる世界は、もう争うことはない。
あとは、エンディング終わるまで、プレイヤーは誰一人動かない世界だ。
それが続くだけである、本来ならば……
「久しぶりだな、リタさんよお」
僕は、膝間つく彼の後ろから剣を差し出した。首の横を通して、顎先に触れさせる。間食はヒヤリとしただろうし、僕の聞き覚えのある声にもヒヤリとしただろう。
リタはじとっと左を眺めた。剣先が明らかに、先ほど葬っただろうネズミのものだからだ。
「な、なぜエンディング中に動けるんだ、貴様!」
「お前はクリアーするスピードを競う人間だからなあ、エンディング中に動く必要はないから知らなかったんだろう」
『ああ、世界は美しい。私たちの願いが叶うのならば、これ以上の幸せはない』
「そ、そもそも! お前はすでに俺が倒したはずなのに。どうなっている」
「89回全滅バグだ」
「全滅、バグだと?」
「そうだ、そのバグで、僕はゲームの外に出ることができた。」
89回全滅バグ。連続で89回、ゲームオーバーになることで発生するバグである。
このバグは、ゲーム自体に大きな負荷をかけるため、VRゲームではご法度とされている技である。そのため、知らないものの方が圧倒的に多い技でもあるのだ。
「ありえない!! 」
「お前の連携技をバクで解体して攻撃回数を増やしたんだよ」
「だがどうやって89回も連続で!?」
「死んだふり全滅キャンセリングバグで、僕のキャラクターの戦闘不能をキャンセリングした。その影響で、僕のヒットポイントは0だけ残る」
「0って、残ってないじゃないか!!」
ちなみに、リタの攻撃をボスキャラクターと同時にやられたことで、自分の戦闘不能を上書きした。僕はヒットポイント0のままステージ内を行動することができ、今ダメージを受けても減るヒットポイントがないため無敵というわけである。
「ゲームというのはな、イベントを起こす際、メモリーにイベントを記録して消去することで、一連の流れを完了するんだよ。だが、もしボス戦と全滅が重なったら? 普段、二つのイベントを同時に消す必要がないゲーム側は、片方しか消さないってわけさ」
「だからどうしたってんだ!? 関係ないだろそんな話!!」
「メモリーの容量を越したイベントを起こした場合。そのプレイヤーはゲームから一越させられ、このゲームの全てのフラグ(現象)を操ることができるようになるんだよ」
「そんな、馬鹿な話があるか!! このゲームのメモリー容量を知らないのか!? VRオープンゲームだぞ!? オンラインゲームだぞ!?」
「だから、ちょっと工夫したのさ」
全滅バグ、というのは、過去に話題になったことがある。その時は、僕の世界では本当に初期のゲーム機を使っていた。そのため、イベントを記録するハードのメモリー自体が何GBもない時代だ。
ただ、リタに関しては重大なミスを二つほど犯していた。彼はまだそのことに気づいていない。
「お前は、三つのミスを犯した」
「ミス、だと?」
「一つ目は、お前が僕にはなった21連携攻撃だ。それを、俺が利用しないはずがないだろ?」
単純計算で21のバグが重なっていることになる。そこに、更に手を加えて、数十倍にしてやった。
「二つ目は、僕がTASであること。大抵のことはできる。メモリーは数TBあるが、バグにバグを重ねれば、大抵のゲームは容量が吹っ飛ぶもんだ。かなり面倒だったけどな」
「だから俺はお前を全力で警戒したんだ!! あぁ!? どうなんだよ、おい!!」
俺はリタの頬に剣を押し当てた。
剣先の冷たい温度を彼の頬に教えてやった。僕は、お前にされたことに、少しばかり本気で怒っているだけの話だ。怒りの暑さと、剣の冷たさは反比例して、頬に張り付く。優しい僕でも、さすがに火がついた。
「三つ目は……やっぱいい」
三つ目は、俺を怒らせたことだ。なんて、こんな時に言うセリフじゃないか。
『そして、世界は救われましたとさ。めでたしめでたし』
僕は、エクスカリバーを握りしめた。
「お、おい……報酬の半分をやる、だから手を組もう! な! な!?」
「エンディングだぞ、泣けよ?」