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chapter5 連携攻撃

 門を開けると、そこは大きなダンジョンだった。

 ダンジョンとは、ゲームにおける敵の巣窟である。紺色のレンガが几帳面に並べられており、紫のラインが溝に流れ込んでいる。怪しく光っている壁が、道行く先の暗がりを照らしていた。

 目の前には台があり、ガラスのドームの中に一本の鍵が置いてあった。


「ここからは私も知ってるわよ。鍵を持って、ここの大ボスモンスターの扉を開けるの」

「そうだな」

「それを2階3階と続けて、ラスボスの部屋ね」


 アキナは金色の薄着で歩いた。金色の会議を手にすると、後ろを振り向く。


「さあ、行きましょう」

「まてまて、敵の種類は覚えているか?」

「え……たしか、武装のトカゲ兵士だったかしら」

「そうだ、レベル62、武器防具ともい最高レベル」

「だからってどうしたの?」

「俺の姿をよく見てみろ。攻撃力防御力共にゼロのタンクトップだ」

「だから? TASさんならなんとかなるでしょう?」

「目が輝いているな。ある意味嬉しいぞ」


 だが、そんなわけにもいかない。戦わないことに越したことはないのだ。

 僕は、つるっとした顔を背けて、今は行ってきた門を眺めた。グレーの石で、質感、重量、ともに石だ。

 入口では、大ネズミが茶色い体を震わせていた。


『キシィ!(怖いわ!)』

「らしくないな」

『キシィ……(いじわる……)』

「ほらよ、肩に乗れ」

『チュウ〜(ありがとう)』


 僕は指でアキナを手招く。つるっとした指は、彼女の赤い髪の毛をかしげさせた。


「どうしたっていうのよ」

「よし、そろそろだ」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 門が閉まり始めた。地面と門の隙間で小さな石が砕け、白い煙が立つ。轟音が耳を覆い、アキナは金色のコテと赤い髪の毛で音を防いだ。

 大ネズミも肩の上で慌てる。


「こんなところにいたら挟まっちゃうわよ!」

「それでいいんだ、手をつなげ」

「きゃああ! 助けて!!」

『キシィ!(早く放して!)』

「まあ、待っていろ」

「きゃあああああああ!」

『キシィイイイイイイ!』(これはマジで叫んでいる声)


 バタン。


 扉が閉まった。僕たちはまだ生きている。グラフィックの中にめり込んで、門というオブジェクトの中にいるのだ。

 扉の中は石が詰まっているのかと思いきや、透明な空間で、中からだとダンジョン内の様子が透けて見えるのだ。

 鍵を取ったことでダンジョンの扉が閉まり、通路がより明るくなった。


「び、びっくりした〜」

『キシィ(右に同じ)』

「さて、ここからボス部屋へと直行する。ただ、オブジェクトの中はスキップじゃないと動けないから気をつけろよ。っほ、っほ、っほ、っほ、っほ、っほ」

「ま、まってよ!。っは、っは、っは、っは、っは」


 通路には、武装したトカゲの兵士がいた。たいそうな防弾チョッキを着て、大型の重火器を両手に構えている。通路はある程度入り組んで入るが、目的地は入口から直進することでたどり着ける。

 紫の通路の光に照らされながら、道中にいるトカゲたちの声を聞いた。


『今日も今日で働く俺たち〜』

『毎日毎日僕らはダンジョンの〜』

『も〜いくつね〜る〜と〜、お正月〜』


 なるほど、イイ光景だ。

 アキナと大ネズミを担いだ僕たちは、あっさりと、ダンジョンの中腹まで来てしまった。壁のオブジェクトの中で、一旦休憩を取る。

 僕は大ネズミを右肩から左肩に移動させた。アキナは両手をついて、スキップの準備をしている。


「そのネズミさん、名前はあるのかしら?」

「ない」

「じゃあつけましょう」

「断る」

『キィイ!(ナンデヤネン!)』

 謎の関西弁。

「そうねぇ、さおりちゃん、とかどうかしら」

「なんでよりにもよって人間っぽい名前をつけちゃうんだよ」

「いいじゃない、強そうだもの」

「強い? そういう名前なのか?」

「まあいいわ。今日は、さおりちゃん」

『キシィ!』

「そろそろ行きましょ、っはっはっはっはっは!」

「っほっほっほっほっほっほ!!」


 世間話をしていると、ダンジョンの奥からトカゲたちが。紫の皮膚をした、いかついモンスターだった。両手には大型の重火器、三人横並びをしている。


『おかしいな、さっきから戦闘音がない』

『そんなわけねぇダラベチャ、じきにたどりつくっちゃら』

『ちょっとまて、今壁の中からなんか聞こえなかったか?』

「っほっほっほっほっほ」

「っはっはっはっはっはっはっは」

『いや〜、そんなわけねぇだろ」

『キシィ!!(子猫ちゃんよ!!)』

『なんだ、ドブネズミか』

『キシィ!?(なんですって!?)』

「っはっはっはっはっは」

「っほっほっほっほっほ」

『もし壁の中にプレイヤーがいたんなら、それはもう変態だ、相手はするなよ』

『『了解』』


 オブジェクトの中は、ダンジョンの中がよく見えるが、ほとんど空洞だ。入るときはひやっとする人間もいるだろうが、入ってしまえバドということはない。ただ、こうスキップするだけのダンジョン攻略は、少し歯ごたえもない気がする。

 思いをはせながらも、ボス部屋の扉をすり抜けた。

 部屋に降り立ち、アキナが出てくるのを待つ。つるっとした顔に出迎えられて驚いていた。

 さおりは僕の方で自慢げな顔をしている。


「到着っと」

『キシィ!(ボス戦ね!)』


 天井は高かった。紫だったダンジョンから一転、昔の陶器のような光沢のある青い色をしている。僕の顔ほどではないが、つるっとしたタイルで覆われた、レンガの積まれた広場だ。

 壁には四方向に滝が流れていて、青く輝いている。下は水瓶のようになっており、下から青い円錐の足場が上を平面にして浮かび上がってきた。水面に頂点を着くと、どういう原理がバランスを取っていた。


 僕たちは、おもむろにそのステージに足を乗せた。


『ラストダンジョン1、ランスロッドの動く城』


 上空から、懐かしい座薬型ドームの声がした。

 突如、頭上を暗い影が、空気を切り裂きながら、巨大な何かが階層の中央に降り立ったのだ。

 円錐の台をくりぬいて、四つ足の噴水みたいな機械が立ち上がる。鳥かごのように、中には砲弾やエンジンなど、様々な重機を組み込んでいた。


「ちょっと! ボスキャラが出てきたわよ!? 何踊っているの?」


 アキナが目を丸くして僕を見ている。その前では、僕の華麗なタップダンスが披露されていた。

 たたたたっ、たた、たたたたっ。


「よし、できた。乱数調整完了」

「なにを調整したのよ」

「これで、敵の攻撃パターンが、1、1、1、2、3、1、2、1、3になる」

『ジョジョジョジョジョジョーーー!』


 鉄化け物が、大きく足を上げた。二足歩行になって、前足に本を縦横無尽二振るう。縦、縦、縦、横、斜め、縦、横、縦、斜め。


「あれ? もしかして、攻撃の方法が固定されているの?」

「ああ、今の内にや——」


 僕のキャラクターカメラが吹っ飛ぶ。アキナと床の青いタイルが、一瞬で遠くに離れていった。僕のキャラクターを、ボスキャラの前足が吹き飛ばしたようだ。


「たす!!」

『じょじょじょじょじょっっじょ!!』

「そんな……レベル1であんな攻撃耐えられるわけないわ」

『っじょっじょっじょっじょっじょ〜!!』


 鉄の化け物は前足を叩いて喜んでいた。


「くそ! いっちょまえに喜んでるし!!」


 アキナは剣を構える。攻撃力のありそうな剣が、僕の下で動いているのがわかった。

 たまには、空中をふわふわしてみるのもの楽しい。攻撃で跳ねあげられた僕のキャラクターは、無重力を漂うに、四肢を振り乱しながら吹っ飛ばされる。

 さて、そろそろ解除するか。

 死んだふりというやつを。


「着地っと」

『じょじょじょ!?』

「えっ、生き返ったの!? というか、どうやってそんなに高いところに!?」

「死んだふりしてただけだ。このボスキャラは、この場所が弱点。死んだふりをジャンプスライディングコマンドでキャンセルすると無重力になる都いう力学があるんだよ」

「しらなかった……」


 僕の目の前には、ボスの頭。といっても、鉄柱にピンクの宝石が埋まっているだけで、これを木の枝で殴ると簡単にこのボスの討伐を終えることができる。本来ならば、強力な技で攻撃して、ようやく頭をさげる。

 これが裏技というやつだ。

 だが、僕が木の枝を握ろうとしたその時。あいつの声が聞こえてきた。


「居合切り、燕返し、羆落とし、火炎弾、半月斬撃、飛翔転生、六防錆咆哮、雷撃破、誘惑のダンス、仁王像の拳、アイススラッシュ、突風、トリプルアタック、5連続レベル3ファイアー、レベル8アイスボム、ビックウェーブ、ソニックブーム、右ストレート、ドレイン、ハイパーボム」


 後ろを振り返ると、階層の扉が開き、上の会へと続く階段が見えていた。その前には、エクスカリバーを持ったリタの姿が。約束では、半分まで攻略するという話だったのだが。あまりにも早すぎる。

 僕は彼の考えが少しだけわかった。

 もともと、チームを組むつもりなどなかったと。


「21連撃、エクスカリバー斬撃!!」


 リタはエクスカリバーを振り抜いた。衝撃波が発生する。斬撃の形をして、解き放たれた。彼の金髪は揺れ、光沢のある鎧も輝いている。

 斬撃波は黄色い津波のように押し寄せて、僕とボスキャラごと真っ二つにしてしまった。

 僕のキャラクターは吹っ飛ばされ、床に伏せた。


「リタ! 急に何すんのよ!!」

「手伝ってやったんだろ?」


 リタの言った通り、鉄の化け物は真っ二つに割れていた。僕はその上を情けない感じでふわふわと飛んでいる。

 アキナはぶっとい剣をリタに向けていた。


「あんた今何したの? 連携攻撃はせいぜい4〜5が最大のはずよ?」

「連続技さ、バグじゃないけど、乱数を操れば簡単にできるよ」


 確かに、その通りである。連続攻撃は、自分の会得している技を一定の確率で追加する攻撃方法だ。乱数が調整できれば、何度も繰り出すことも可能である。

 だが、そんなことより、問題はある。

 今の攻撃で僕のヒットポイントが削れたのだ。いま、僕のヒットポイントは0。同じパーティーのメンバーであれば、攻撃は当たらないはずである。

 リタがアキナの後ろについた。

 逃げろ、アキナ。


「スキル、暗殺」

「がはあ!」


 リタのエクスカリバーがアキナの胸を後ろから貫く。ゲームの中とはいえ、その様はリアルである。


「あれ? 気づいちゃった? もう、君たちはパーティーを外しておいたからね」

「な、なんで……それじゃあ、クリアできない……」

「見てくれよ、アキナ。君の代わりに僕のパーティーメンバーになった、エクスカリバー君だ。よろしくね」


 やはり、か。


「武器はプレイヤーじゃないわ……」

「やっぱり知らないのか。いいかい? 実は、この塔の二階のボスキャラの部屋は3人メンバーが揃っていないとバグを起こすんだ。どういうものかっていうとね?」


 いないパーティーメンバーをアイテムで補ってしまうバグ。


「エクスカリバーがパーティーメンバーに組み込まれちゃうんだよ。すごいだろ?」


 リタはエクスカリバーを引き抜き、こちらに近づいてきた。


『キシィ! キシィ!』


 さおりがリタの前に立ちはだかる。大きいが人間に比べると小さい体で、ボスキャラを倒したリタを威嚇する。


「あ〜、よかった。君こんなところに居たんだね?」

『キシィ!?(何よ!?)』

「実はさ、バグって扱いが難しくて、君がパーティーメンバーになっちゃったんだよね〜。ほら、一緒にいこ」

『キシィ!(近づかないで!)』

「か、噛んだね? いいだろう、別にヒットポイントがゼロでも生存させる方法は知っている」

『キシィ!!』

「いいさ、足掻くがいい!! 僕の肩の上で!!」


 あと少しで立ち上がれるんだ。無事でいてくれ。


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