chapter4 ラストダンジョン
「ヤハハハハ! アキナ、お前の戦闘スタイルはなんだ?」
「見ての通りよ、アマゾネス女騎士」
「アマゾネスだってよ!! 聞いたか? TAS?」
「何がおかしいのよ!!」
「こんなゲームに何時間かけてんだよ、初期装備一択だろこんなもん」
「はぁ!? 何それ!? 勝てるわけないじゃない!!」
「俺は、レベル2、初級冒険者装備だ。武器も探検だけ」
「バカじゃないの?」
「バカはオメェだよ」
ちなみに、僕はレベル1のタンクトップなんですけど。
『キシィ!!(ファイト!!)』
ありがとう。
話しながら歩く道。石畳で、濡れた道だ。空は曇りで、雷雲が漂っている。目の前には塔があって、石を積み重ねた円形の塔だった。緑の蔦が辺りを覆い、窓までびっしりだ。
両脇は川が流れ、左のほうに波が立つ。魚がうっすら通り、白い泡が立っていた。
「TAS、やけに警戒してるじゃねぇか。そんなにツルッとしてどうした?」
「それは関係ないだろ」
「たすさんはともかく、リタはどうするのよ? レベル2じゃ、中の敵は倒せないわよ、そんなにツルッとしちゃって」
それ俺じゃねぇか。
「は? なんでわざわざ戦ってやらねぇといけねぇんだよ。壁登るぞ、壁、このツルッツルの壁をな」
「そんなのできるわけないし、したいわけないでしょ!!」
なんでcanからwantの話になってんだよ。
「ほら、最上階の一歩手前、あそこは窓がねぇから大丈夫だ」
「できるのそんなこと?」
「まあ見てろって」
リタはにたりと笑った。金色の装備で甲高い音を奏でる。剣を腰から引き抜いて、細い剣先を塔の壁に突き立てた。石と石の間に、うまく挟まる。
「そりゃそりゃそりゃあ!!」
掛け声を残して、リタはあっさり登って行った。塔の石が崩れ、落ちてきたのを二人で避けた。蔦が切り裂かれ、川に流れていった。
「とうっ着!!」
「す、すっごいわ」
「ドヤァ!」
アキナも剣を腰から抜いた。赤い髪の毛を後ろに縛って、壁に剣先を突き立てる。どうやら、ぶっとい攻撃力のある剣で、リタのように俊敏なことができそうにはない。
「とりゃああああ!!」
ずざざざざぁ……
「いってぇ〜、まだまだーーーー!!」
ずざざざざぁ……
「きゃん!! なんで尻餅ばっかり……まだまだあああ!!」
ずざざざざぁ……
「いった〜い……って、私はアホかあ!!」
アキナは剣を地面に叩きつけた。
はあはあと息を切らしている辺り、頑張り屋さんではある。ぶっとい剣を腰に戻して、髪の毛を解いた。さらっとながれて、僕の鼻に甘い匂いがする。
「出来るまでもう少し時間がかかりそうね。それまで待ってくれるかしら?」
「いいや、僕たちは下から攻めよう」
「え、でも、上から行ったほうが早いわよね?」
「どのみち、一度は下に戻るからな。アイテムを集めないと最後の扉は開かない」
「そうだったかしら? 聞いてた話と違うんだけど」
「イベント前は登ってすぐだったが、イベント中は難易度が上がってるんだよ」
「そうなの、じゃあ仕方ないわね」
上からリタの声がした。かしゃん、と金属の音を立てて、じーっと見下ろす。
「じゃあ、こうしよう。僕が上から半分を攻略する。君たちは、下からもう半分を頼んだよ」
「あ、ちょっと待ってよ! RTA!!」
僕は知っている。お前がそう言いながらほくそ笑んでいる顔を。