掃除機におまかせあれ!
俺の部屋にある掃除機はスゴイ。
何がスゴイかって、そりゃあ一番驚くのは、何でも吸い込んじゃうことだろう。
埃や髪の毛はもちろんのこと、例えば、部屋の床にうっかり放置したままのコピー用紙や、テレビのリモコン、さらには衣類まで、その掃除機は吸い込んでしまうのだった。この間なんかは、厚さ五センチほどの辞典までも吸い込んでいた。
さらに便利なのは、その吸引したものが掃除機の中に溜まらないようになっていることだった。埃も何も溜まらないから、ゴミ箱に捨てる手間もかからない。
でも、その代わりに弱点もある。それは一度吸い込んだものは、もう二度とそこから取り出せないということだった。だから、現金やカードなどをうっかり掃除機で吸い込んでしまったら、もう二度とかえってこないということになる。
まぁでも、俺が本当に大切にしているものは、テーブルの上や引き出しの中に置いてあるし、掃除機のヘッドにさえ近づけないように気をつけていれば大丈夫なわけだから、俺は物をなくしてしまう心配なんて全くしていなかった。
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いつものように部屋の掃除が終わり、掃除機のスイッチを止めた。
そのとき俺は、この掃除機を何か他のことに使えないかと思った。
つまり、何かに悪用できないかと考えたのだ。
だって、せっかくこんなに便利で珍しいものがあるのに、それをただ部屋の掃除のためだけに使うなんて、もったいないではないか。
色々考えているうちに、俺は妙案が浮かんだ。なので早速、それを実行してみることにした。
***
その日の夜、俺は美術館に忍び込んでいた。
全ては計画通りだ。美術館の警備員は今、俺が見舞ったパンチのおかげで、夢の中にでもいるのだろう。
俺は予定通り、掃除機のスイッチをONにした。
音を立てながら、掃除機は動きはじめる。
掃除機のヘッドを、俺は、壁にかけてあった絵画へと近づけた。
掃除機の吸引力によって、絵画はいとも簡単に姿を消していった。掃除機の中に吸い込まれていったのである。
俺は館内を移動しながら、同じことを繰り返した。そのため美術館には、もう展示品は一つも残されていない。全てこの俺の掃除機が吸い込んでしまったのだ。
掃除機のスイッチをOFFにした。
きっと、翌日の朝にでもなれば、この事件は明るみに出るだろう。それが新聞やテレビなどで広まってくれれば、さらに世間を驚かせることができるはずだ。
俺は今にも大声で笑いそうになるのを堪えて、とりあえず家に帰るために、掃除機を抱えながら走って逃げた。
***
俺の目論見通り、翌日のテレビのニュース番組で、事件のことが大きく取り上げられていた。
俺はそのことを、自宅のテレビを見て知る。
「何者かが美術館に侵入し、一夜にして全ての展示品を盗んでいったようで……」
番組のリポーターは、少し興奮気味にそう語っている。
俺は嬉しくて、笑いが止まらなかった。
「フフフ~ン♪」
鼻歌を歌いながら、俺はいつものように部屋の掃除を開始した。掃除機のスイッチをONにして、右手を動かす。
キュイーン。
掃除機は音を立てながら、せっせと働いてくれる。部屋中にあった埃や髪の毛は綺麗さっぱりなくなっていて、床の上はピカピカである。
俺は掃除機から手を離した。
部屋を見渡してみる。とても綺麗だった。おかげで心までスッキリしたように感じる。俺はとても満足だった。
ふと振り返ると、掃除機のヘッドが俺の足元のすぐそばにあった。スイッチはONにしたままだ。
「あっ」
気づいたときには、もう遅かった。
俺はスイッチを止める間もなく、掃除機に身体を吸い取られてしまっ――。