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消えた話  作者: レター
第1話 物語は気づけばもう始まっている
4/5

誰のための平和

「ふんふーんふふーんふふん♪」



 レイスは上機嫌だった。何故なら、明日のフェスタでは少しだけ外に出る事が出来るからだ。勿論、お付として、ワンとドグが付いてくるわけだが、それでも街の空気に触れる事ができるのが彼女には喜ばしいことだった。



 足でリズムを作るのは結構好きだ。スキップをしてみたり、回ってみたりと城内の廊下を歩き回っていると、エメが飾り付けをしているのを見つけた。



「あ!エメさーん!!」



 エメ・スターリング。名前を呼ばれた彼女はウィルアやフォースと幼馴染みであり、小さな頃からレイスとも付き合いがあった。レイスの数少ない女友達の一人でもある。



「あら、レイス。もう起きたのね」

 彼女は時計を見ると少し驚いていた。



「もう起きてたのねって、もうお昼間近の十時ですよ?流石にこの私でもきちんと目覚めます!」

 そう胸を張ってみたが、いつもは後一時間は寝ている。



「ドグが起こしてくれたの?彼も大変ね」

 エメは朗らかに笑みを浮かべてた。



「な、何故お分かりに…?まさかドグが言いふらしたのでしょうか!?」

「何故って、いつものことでしょ?早く朝食を食べてきなさい。これから忙しくなるんだから」



 完全に見透かされているようだ。エメは人のことをよく見ている。幼いころから彼女は皆との距離感を保つのに上手だった。



「なっ!全てお見通しということですね。まるでお母様みたい…」



 レイスはオーバーリアクションを取る。だが、分かっていても多少なりとも驚いたのは事実だ。どうしたらそんな風になれるのかを教えてほしい。



「ふふふ、何年あなたを見てきたと思っているのよ。ほら、急がないとドグに怒られちゃうわよ」

「十年以上経ちますね。時の流れというものは早いものです。少しお喋りをしていただけなのにこんなにも時間が…」



「おいレイス!!!どんだけ待たせんだ飯が冷めちまうぞ!!」



 エメと談笑していると、突然、食事部屋付近でドグの怒鳴り声が飛んできた。



「ひぃ!い、今行こうと思ってたいたのです、そんなにさとすことはないでしょう!?」

「うるせぇ!食いもんは熱が大事なんだよ。ほらこっちださっさと来い!」



 ドグがこちらへ猛スピードで迫り、レイスを勢いよく掴んで連れて行く。



「わ、私は囚人か何かなのでしょうか!?」

 彼女はズルズルと引かれ、なんとも哀れな姿だった。囚人というよりも、母親にしかりつけられる幼児のようだ。



 レイスはエメに助けを求めようと目線を送ってみたが彼女は笑顔で優しく手を振っている。

「そんな…」



 若干呆れながらも手を何度か左右に振っていると、レイスはドグに部屋の中へと連れていかれた。



「あの子もマイペースねぇ本当。平和な生活ってこういうものなのかしら」



 エメは遠い空を見ながら軽い溜息をついた。



 大丈夫かしら。




―シルド城 食べる部屋―




 ドアの奥に入るとやはり、そこには見慣れた小さなテーブルと一つの椅子、そして一人分の食事が机上に並べてあった。そしてレイスの身体は流れるように席へとつかされる。



 もう何年も見てきたであろう良く分からない絵画や、綺麗な柄の壁。他にも雰囲気を出すために付けられた装飾品という意味のない物が沢山あるだけだった。



「あら、ドグ。また姫様を無理矢理連れてきたのかい?」

 机の近くにワンが立っていた。彼もイヌではあるが、毛並みはドグとは真反対の真っ白だ。二匹は兄弟らしいが、誰もパッと見でそうは思わないだろう。



「あぁ?いっつも俺が作るあったかーい料理を食わせてやってるからお前には分かんねーかもしれねぇが、飯ってのは温度が命なんだよ!」

 確かに、出された食事は少しだけ熱が冷めている様子だった。



 命までいくのですね…。



 ドグは本気の目で料理の志を伝えたが、ワンはそれに対して首をかしげる。これはワンが料理が出来ないからだろう。



「自分達の本職は料理人じゃなくて、あくまでも兵士って事を忘れないようにね」

「んなもんは分かってるに決まってんだろ」 



 ドグが兵士ですか…。



 レイスは、いつもは駄目な自分を支えてくれる家族のような感覚としか、二匹に対しては感じていなかった。あくまで兵士という現実は彼女自身には遠すぎるものだった。



「でも、こんな平和な世の中では二人とも私の世話くらいしか仕事がなくて大変ですよね。他にあっても雑用などでしょうか」

「…あ?平和って」



 ドグの反応は少し奇妙だった―――何か、間違っている事を言ってしまったのでしょうか?



「お前な、俺達は今せんそっ」

「そうですね。本当毎日毎日暇で仕方ありませんよ。姫様も成長を見守る事だけが日々の楽しみになってしまって、まるでお爺ちゃんのようです」



 ワンがドグの話を遮る。いつものことだ―――ワンの話しぶりから伺うに、どうやら間違ってはいないようですね。



「確かに、私もどんどん大人になっていますものね。心も身体もご覧の通りでしょう!」

「あぁ、ガキの頃と違いがわからねぇや」

「自分からはノーコメントでお願いします姫様」



 な、なんなのですかこの言われようは!?―――確かに、容姿はそこまで変わっていないのかもしれない。でも、ちゃんと背だって伸びたし、胸も少しばかり、サイズ感などは分からないが、邪魔になる位にはなったはずだと、レイスは大人にちゃんとなっていると抗議したかったが。



「もぉ、二人とも知りません!私は早く食べて皆と準備をしてきますから」

 多分これ以上は、あっさりテキトーなことを言われると予想し、降参することにした。

「さっさとそうしてくれ」

「かしこまりました」



 全く、予想通りで困ってしまいます、プンプン!



 それからレイスは食事を早急に済ませごちそうさまと言うと、口をプクッと膨らませながら、またエメの元へと向かっていった。



 部屋にはワンとドグが残るだけである。

「……」

「いつからだろうな」



 先にドグが口を開いた。



「何がだいガングロ」

「これは地毛だ黙ってろシロシロリン。…そうじゃねぇ。俺が言いてぇのはな」



「姫様が早起きしなくなったのは……だってことかな?」

「んだよ、分かってんじゃねぇか」



 ドグはワンの面倒くささに飽き飽きしていた。面倒くさいというよりも分かっていることをとぼけるところが気に食わない。長く一緒にいると、その部分の悲しさが際立ってしまう。自分の代わりに平然と嘘をつくワンのことを、やりきれない気持ちでドグはそのままにしてしまっている。



「まぁ。そおそらくは国王や王妃と一緒に食餌を過ごせなくなってからだろうね。姫様は王国の皆さんを愛していますから。肉親と言ってしまえばなおさらだよ」

「……肉親な。ドルジバさんもルフェリアさんも忙しいからなぁ、食事の時間はいつもバラバラか」



「そうだね」

「そう考えると今俺が出してやってる料理ってもんは、どんなに温かくても意味ねぇのかもしれねぇな」



 ドグの目には少し寂しさが浮かんで見えた。



「意味が無いことはないさ。まぁでも、その辺は姫様に聞かないと分からないのかな」

「こんなもんが、ドルジバさんの望んだあいつの平和なのか?」



「知らないって事が幸せな時もあるもんだよきっと。ドグのお花畑みたいな頭と同様でね」

「俺には分からねぇ世界だなぁ」

「分かってしまった時、その世界は悲しみに満ちてるもんだよ」



 少し後ろ向きな考えだとは思うが、ワンの言う通りなのかもしれない。



「その言い分だとレイスがもっと可哀想じゃねぇか」

「だから、自分がやる事は一つさ」



「そうならねぇようにする……か」

「貧乏くじを引いたもんだよ。まぁ姫様をお守りできるなら、何だって構わないけどさ」

「……面倒くせぇなぁ」



 テーブルの上に残された、綺麗に食べ終えられた皿を見て、ワンは深いため息をついた。

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