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消えた話  作者: レター
第1話 物語は気づけばもう始まっている
3/5

叫べど声は積もりゆく

―雪山 隼人・水希―



「寒い…」

「そうだな」



「何なのこれ…」

「何だろうな」



「さっきまで森だったのに…」

「寒くなかったな」



「どうしてこんな雪山に来てるのおおおおおおおお」



 水希と隼人は辺り一面雪景色にいた。雪は降っていないが、彼らの学生服では凍えるような寒さだ。歩を進める度に、足が雪へ埋まっていく。



「何なの、本当に何なの!訳分かんないいいいい」



 普段不思議な現象に出会うと目を輝かせる水希も、どうやら寒さには弱いらしい。隼人も、寒いのは好きではなかった。



「制服うっすくない!?何これ!こんなので今まで過ごしてきたの。生徒を殺す気!?」



 いやいや、こんな状況想定してねーだろ。



「しかし、さっきの兎と亀!あの人でなし!!」



 人じゃねぇけどな。



「こんな寒い場所に放り出しといて、何が力を授けるからこの世界で生きろよ!じゃあもっとまともな場所に放り出してよ初めから殺す気満々じゃない!確かに景色はいいけどね!!」



 言われてみれば、さっきの二匹は何だったのだろうか。俺らに何をしたのだろうか。一つ気がかりがあるといえば、今この格好で俺らが凍死する間もなく、普通に歩けていることだ。つまり、寒いといえば寒いが、死ぬほど寒くはない。



 雪を触ってみても分かるが、気温は相当低め、それなのに未だにピンピン歩いている。これが奴らの言っていた力の一つなのだろうか。



「もおおお」

「さっきからうるせぇよ、山だからもっと響くわ」

「こんな状況で喚かない方が病気よ!」



 一理あるが、非常にうるさい。水希はうるさかったり大人しかったりで、滅茶苦茶に面倒くさい。それに加えて決して憎めないほどに良い奴だから更にどうしようもない。



「ねぇ、隼人!あんたさっきから話聞いてる?」



 ずっと話かけられていたらしい。



「え、あぁわりぃ。考え事してたわ」

「もう何なのよこのバカタコマヌケ!女の子をほっといちゃダメなんだよ!!」



 水希はムキになった時はまるでガキだ。学校ではおしとやかでワガママを言わないお前を返してくれ。何で二人きりだとこうなんだよ。



「悪かったよ、そんなかっかすんなって」



 謝ってはみたものの、やはり水希はしかめっ面を続けている。



「気持ちこもってない。ていうか、第一何であんた一緒にここにいるの?何でうちが悲鳴上げてたのに降りてきちゃってんのよ」



 二人は、穴の中に落ちていく所までははっきりと覚えていた。その先は何も覚えておらず、気が付くと神殿がそびえ立つ森の中にいたのだ。まぁ、無くなった記憶といえば、ほんの一瞬だから別に気にすることでもない。



「はぁ?んなもんお前の悲鳴が聞こえたからに決まってんだろ 」

 俺は当たり前のことを言った。



「悲鳴って、そんなの普通付いて来ないでしょ」

「だから、悲鳴ってよりよ、お前を追ってきたんだろ」



「…へ?うちを追って…?」

「あぁ。お前を一人になんて出来るわけないだろ」

 それなのに、返事が帰ってこない。少し顔が赤らんでいるように見える。熱だろうか?



 しばらくした後に、

「べ、別にほっといてくれてても、うちは問題なかったし!!」

 と水希は言い切った。

 

 意味が分からない。だって、

「女の子をほっといちゃいけないんだろ?」

 それはこいつが言ったことだ。



 隼人がそう言うと、何故か水希がそっぽを向き始める。



「何でそっち向いてんだよ、話し相手はこっちだろ」

「うるさい!良いからもう良いから!」



 隼人は訳が分からない様子で顔を覗き込もうとした。水希との距離は目と鼻の先にある。



「へ、ちょっ、見いいるなあああああ!!」

 しかし、突然の大声と共に、規格外の強さで平手打ちがきた―――え、いやなんで殴られたの?ホワッツ??



 ……水希は力が強い。いや、力というよりも運動がある程度できるため、基本痛い。毎日殴られているようなものだから、少し慣れたと思っていたが、どうやらそれは勘違いだったらしい。痛みが脳を走る中、じゃやとは見事に気絶してしまった。



「…バカ」



 水希が言った言葉も、聞き取ることは出来なかった。





 目が覚めると、隼人はベッドに寝転がっていた。寝心地はとてもいいようだ。フカフカの枕に羽毛布団がマッチして素晴らしい暖かさを演出している。



 …夢か?



 そう思い周りを見てみると残念ながら自分の部屋でもなく、知人の家でもないようだ。少し甘い香りが部屋から漂っている。



「ここは…」

「目覚めたみたいね」

「え、誰」



 声の主を探してみると、この部屋のドアが開いていたようで、そこからブロンド髪の美人といっても言い過ぎでないような人が顔を出していた。歳は二十代後半といったあたりだろうか。大人びていて綺麗だ。



「えーっと、ここどこ?んで、あんたは…誰っすか??」

「ふふ、まぁ落ち着きなって。私は君の敵なんかじゃないからさ。お連れのキュートな子も今あっちにいるよ」


 

 彼女の瞳の色は青色で外国人と言ったほうが的確な姿だ。しかし言葉は分かり合える。言語は日本語なのだろうか。



「ということは、助けてくれた…っつう事っすか?あ~、何と言いますか、いきなり失礼な態度をとってしまって、すみません。水希も無事なのでしょうか?」



 隼人は少し警戒して、慣れない敬語を使い出した。歳上だとか歳下だとかは、あまり好きな表現ではない。



「はは、無理に慣れない言葉遣いなんてする必要ないよ。私にとっちゃあの子も君もお客様なんだからさ」



 あ、そうなんすね、じゃあお言葉に甘えて。



 なるべく笑顔を取り作り、

「お心遣いありがとうございます。じゃあ、そうさせてもらいます。そういえば水希あっちにいるんすよね、ちょっと様子見てきます」

 と言って、隼人は直ぐに指さされた部屋へと向かった―――無事だよな、食われてねぇよな水希!?あいつ山姥とかじゃねぇよなマジで。いや、でも美人だったよな。



「ん、まだミズキだっけ。あの子は入浴中って…行っちゃったよ。あはは、まぁ大丈夫よねぇ若いんだし!」



 そう言うと、山姥こと女はクスりと笑った。






「ふーんふふーんふらーらーららーん♪」



 水希は浴槽で陽気に鼻歌を歌っていた。今若い者達に人気の女性アーティストの曲だ。



 ドンドンドンドンドンドン!



 ダッダッダッダッダッダ!!!



「え?何??この音」



 そんな中、遠くでは何かが走ってくるような音が聞こえる。水希は鼻歌をやめ、周りを見渡すが、別に異常はない。



「段々…近く…な、何なの??」



 水希は恐怖で身を縮めた。



 ダンダンダン…



「音、消えた?」



 水希はもう一度辺りを確認した。だか、何かがいるわけでもない。軽い物音だろうと思いホッとし胸を撫でた途端、急にドアが勢いよく開く。



 ガラガラ!



「水希ぃ!無事かぁ!!」

 扉を開くとそこには文明の遺産を何一つ纏わぬ、水希の姿と彼女の浸かる風呂があった。水は透き通っていて、色んなものが良く見える。いや、見えてしまう。贅沢だ。



「あ…」

「…え?」



「あ、あのー。人違いでした」

「………」



「で、では失礼しま」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



「っ!!」

 水希が声高らかに悲鳴をあげる。



「何入ってんのよおおおおお!この変態金髪おしゃべり大根馬鹿ああああああああああああ!!!!!」

「ま、待てって水希!これには理由が!な!?俺は騙されたんだよ!!大根じゃねぇ!!!!!」



「良いから早く出てってよおおおお!!!」



 水希が様々な物を投げ、隼人はそれを得意の身体能力で避けていく。しかし、足元に転がったシャンプーのような物に気を取られている間に、何かが見事に隼人の顔面に命中した。



「おまっ、あぶねえって!!ぎゃっ!!!」



 それはまたとないクリーンヒットだったようだ。そんな訳で、隼人は再び気絶してしまった。

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