箱入りの娘
―シルド城 レイスの部屋―
あぁ……退屈です。とても退屈です。
確かにこのお城はとっても広いかもしれません。色んな方が沢山いらっしゃって、色んな物に溢れています。
でも、違うのです。いくら沢山の物があっても、私にとって新しい物なんて、一つもないのです。
「はぁ、何か、新しい出来事はないのでしょうか…」
王国タテノツキの王女レイス・ハートマイトは自室の窓の外をただ呆然と眺めていた。
「空は綺麗ですね。自由が飛び交っています」
飛び交っているのは鳥だが、そんなことは気にしなかった。
彼女は王族という身であるが故に、外への外出を制限されている。王国で何が起こっているとか、流行りの物等も一切分かっていないのだ。この『シルド城』内だけが、彼女が自由に動ける範囲だった。
そうやって自身の恵まれた境遇を嘆いていると、突然、空に何か穴のようなものが出来ているのに気づいた。それは黒く、小さく、気づかなければ見逃してしまいそうだ。あの方角には、確か森がある。
「っ!?何でしょうか…?あれ」
目視では良く見えない。でも、何かが出てきた気がする。彼女はすぐさまスコープを取り出し穴へと向けた。
(あの穴から出てきた物は、もう下に落ちてしまったのでしょうか)
更に絶えず見続けていると、また新たなものが穴から発射された。覗いて見る限りでは、それらはヒト型である。数は三人、一人おかしな見た目をしている。
「ヒトが、空から降ってきているのですか!?それに、何かを顔に掛けている…?」
レイスは完全にこの状況を理解できずにいた。だって、ヒトは空から生まれる物ではない。
もう一度その光景を見ようと目を懲らしめた。しかし、次の瞬間ドアを叩く音が耳へと伝わる。
「おいレイスゥ。何時まで部屋に篭ってんだぁ?明日は年に一度のフェスタだろうが。今年は二百年記念で派手にやるってなってんだからよ、周りの準備を少しでも手伝ったらどうなんだぁおい」
そういってドア越しに話しかけてくる男はお付きの一人であるドグだ。彼はイヌ族で、真っ黒い毛並みが大部分を占めている。
「もう、ドグ。私は今それどころではないのです。空から、ヒトが落ちてきたのですから!」
レイスは全身で驚きを体現した。もちろんドア越しなので、ドグから見えるはずも無かったが、そんな事は関係ない。
「あのなぁ姫様、お言葉ですがまだ寝ぼけていらっしゃるんじゃないでしょうか?そんなもん落ちてくるならイヌだろうがヒトだろうが今頃地面でミンチになってるだろうが」
ドグはそう言いながら部屋へと入って来た。
「そうではなくて、生きている死んでいるの問題ではないのです。空から落ちてきたという事で、私は今驚いているのですから !」
頭でっかちなドグに対し、レイスは必死に講義する。
「いやだから有り得ねぇって」
あしらわれた。
「ほら、とにかくベッドから出て身支度しろよ。何で部屋だとそんなにぐうたらになるんだよお前は」
「…?部屋だから」
レイスは本能のごとく答えた。
「あー、もういい。先行ってるぞ」
言い放った矢先、もうドグは扉の外へと行ってしまった。
「もう、ドグはやたらせっかちで生真面目なんですから」
彼女は、自分以外誰もいなくなった部屋で、渋々と着替えを始めた。




