世界はいつも一つじゃない
突然当たり前の事を言い出すが、きっと僕らには、僕らがいる世界以外の空間というモノは用意されていない。
おそらくは鏡の中にもゲームの中にも入る事はできないし、本当にあると誰も信じないまま、ただ一生を終えていくものだ。
それが僕らの人生なんだと思っている。
だからと言って、今日は別にそういう悲しくて夢のない話がしたいわけじゃない。僕が提供したいのは「もしも」の話だ。
もしも世界が一つでなかったのなら、それはどこにあるだろうか。
未開の地かもしれないし、空の上かもしれない。宇宙の外側だなんて可能性に溢れている。
そんな一つでない世界で、君が主人公になれる物語があったなら。そういう話をこれから始めようと思う。迷い悩める心を持った、数多の英雄達の物語を。
-ヒーロストハーツ-
……正直言って、何が起こったのか僕には理解できていなかった。意識が戻ると、知らない土地(正面は森、背後は神殿)に僕を含めて三人の人間がいるだけだ。
一人は明日見 愛。僕は明日見さんと呼んでいる。ボブカットが実に似合っていて、こんな状況でも名前の通り愛らしさがあって可愛い。
もう一人は導衆 瑛。瑛君は、明日見さん同様僕はあまり面識は無いけれど、少し伸びた髪や眼鏡の似合う表情から見ても、賢さが溢れている。
そして三人目は、残念ながら凡人である天野 正。つまり僕だ。運動も勉強も容姿も平凡な僕が、何故物語の主人公になれそうな彼らと一緒にいるかなんて事は、今の状況ではどうだって良い。
「何なんだ?この森は一体…」
瑛君の驚愕ぶりはとても分かる。何て言ったって色鮮やかな沢山の球体が僕らの周りを囲みながら、フワフワと飛び交っているのだ。もっと周りを確認しようと辺りを見渡してみると、どうやら二人には怪我は無いようだ。というか、僕以外もう立ち上がって何かをしている―――いやいや、行動早くない?
「こ、これ!触ったらポヨンポヨンしてる!!」
明日見さんは楽しそうに球体と遊んでいた。僕も明日見さんとポヨンポヨンしたい。
まぁ、それは置いといて。今いるのはどうやら森の中のようだ。しかし、何があったんだろう、この空間だけは古い壁で囲まれている。壁は円状になっていて、僕らは円の中心にいるみたいだ。こんな神殿のような場所を、昔よくゲームで見た気がする。でも多分ここはゲームの中じゃない。僕らははっきりと自然の空気を吸っている。
所々ヒビの入っている大きな壁から目線を落としてみた。僕らの立つ地面は……壁と同じで石造りのようだが、やはり綺麗とは言えない。敷き詰められた石の隙間からは草や花が生えており、石自体は苔を帯びたりもしている。
この神殿の造りだけでなく、周りも壷や、汚い木箱だったり、何年も放置されていそうな物ばかりが置かれているだけだ。溜め池もあるが、やはり濁っている。信じられないが、伸びきった草の中には、とても大きな、見たこともない花も咲いていた。ここは、本当にどこなのだろうか。
「わぁ、たっかい!人が飛び越えるのは無理っぽいよーこれ。私なんかじゃ絶対無理!」
「利用できそうなものもパッと見だが、確認できないな」
二人も周りを見てそれぞれ判断を下したのだろう。確かに役に立つ物はなさそうだ。明日見さんの言う壁の向こう側には、木が広がり青々としているのは見えていても、そちら側へは行けそうにない。
木箱を積んでも多分、あの古さなら木自体が腐っていて、乗った重みで壊れそうだ。あくまで憶測だけど、ここがどこだか分からない以上、危険なことは多分するべきじゃない。本音を言えば、何かを試すのがちょっと怖いだけだ。
「ここ、どこなのかな。私ね、天野君たちと、どこかに行った覚えはあるんだけど、何かその辺りだけフワフワしちゃってるんだよねぇ」
「確か、天野の祖父の家に行ったはずだ。俺は無理矢理連れてこられた記憶はある」
「あはは、だよね、僕もそんな感じ。ここに来る瞬間のことだけポッカリ抜けちゃってるよ。でも、やっぱり放課後辺りまでの記憶はあるみたい」
誰もよく覚えてないのか…。でも、記憶が無くなっている訳じゃないようだ。朝ごはんがサンドイッチも覚えている。
「とりあえず思い出してみようか。頑張れば何か、いけそうだし」
「それもそうだな」
「賛成です!」
フワフワとした記憶は、段々とはっきりしたものになっていく。それはここに来る前に何があったのかを示してくれようとしていた。
あぁ、見えてきた。
そうだ。僕は幼い頃、幼馴染だった隼人と一緒に、光る何かの種を見つけた。偶然祖父の家への道中であったこともあって、僕らはそれを無理に頼んで祖父の家に植えたんだ。
それからもう十年経って、もう祖父は亡くなっちゃったけど、家自体はまだあったから、あの種がどうなったのかを僕らは放課後に見に行くことになった。
まぁ、成り行きで色々あって、僕、隼人、風咲、明日見さん、瑛君の五人で放課後に祖父の家に行くことになり、いざ辿り着いてみるとそこには、とても大きな木がそびえ立ってたんだ。
◆◆◆◆◆◆◆
僕らは祖父の家の屋根を軽々と見下ろし、緑の髪をふんだんになびかせる例の木をまじまじと見た。
「こんなに大きいと本当に何かあるかもねぇ。うちテンション上がりそう」
「探ってみっか?」
好奇心が旺盛な風咲と隼人の提案で木の周辺をしばらく調べてみると、瑛君が何かを見つけたみたいだ。
「うおっ!?なんだこれは?」
凄く驚いている声だ。
「なぁ皆、この木の後ろ大きな穴があるぞ。人が普通に入れそうだな…、どこかに繋がってるかもしれない」
その発言に期待してか、皆でこぞって木の後ろに回ってみると、瑛君に言われた通り、ぽっかりと広い空洞があった。それは大げさに言うなら熊の住処のようであった。
「なにこれ!切り抜かれたみたい!!」
風咲が大きな穴の縁を触っている。触るたびに木くずが落ちていくのが、少し危なっかしくて、それでいて悲しく見えた。
「お、大きいね。私より普通に」
明日見さんちょっと小さいもんなぁ。
「こりゃあすげぇな。正、入っちまおうぜ」
隼人も風咲のすぐ隣にいた。何で僕なのさ。怖いもの知らずかあんたらは。僕は基本危険なことはしたくない。できることなら和やかに生きたいのが本心だ。争い事は絶対にしたくない。
「だが、大きいとは言っても五人一気には入るとは思えないな」
瑛君の言うように、確かに入口は全員で入るには窮屈そうだ。少しでもやめておこうという結論にみんなが行くことを期待する。
「んー、じゃあ別れて順番に入るか?」
でもそんな事は今の一度もあり得なかった。いつも僕を巻き込む張本人の隼人はだいぶワクワクしている。
「でも一人は怖いなぁ」
それにひきかえ、明日見さんは少し不安そうだ。彼女を見習ってほしい。
でもその通りだよ。これ危ないよ。大体化け物とかがいたりするじゃんこういう穴って。やめた方が良いよ。僕は怖いのは嫌いだしね。うん、やめよう。
「じゃあうち入ってみるね!」
そう言って、風咲は躊躇無く穴へと足を踏み入れていく。
あ、は~い、ですよねぇ。そうなりますよねぇ。いや、勇気ある彼女を称えようではないですかぁ。絶対神経おかしいよ。怖くないの?何?死にたいの?
「待て待て、俺も行くから焦んなよ」
「来るなら早くしてよ隼人。一番乗りはうちだからね」
「へーいへい」
僕には全く理解できない会話だ。
「よし、じゃあ二人が入ったら次は俺達三人だな」
「え?どうして三人??」
僕と明日見さんが小さいからだろうな。まぁ三人のほうが危険性は減りそうだよね、一人より。ここまで来たらもう逃げきれない。
「一人残すのは悲しいだろ?」
「はっ!なるほど!!優しいんだね導衆君」
「まぁな」
瑛君は得意げに眼鏡を触る。腹黒眼鏡と命名してやろうかな。
「それじゃあ気をつけてね、隼人も風咲も」
「そーだよ!水希ちゃん、気をつけてね」
二人は振り返ると、
「任せて〜。早く追ってきてよね」
「何か発見したら俺の手柄な」
なんてニヤニヤしながら言った。更に隼人は、色々使い道を考えているような事をぶつぶつ言っている。どうやら見つかるものはお金の予定らしい。
「もう隼人、良いからさっさと行くよ」
「う〜す」
そんな軽い言い合いのような事をしながらも、二人は穴へと消えていった。
◆◆◆◆◆◆◆
そう、隼人と風咲は穴の中に入っていったんだ。その後二人の悲鳴が聞こえて、しばらく戻ってこなくて、僕らも行こうって。ということはまさか…、
「ここって、木の中の世界……?」
僕が確認気味に聞いてみると、明日見さんは苦笑い。瑛君は大きなため息をついた。ですよねぇ。ほら、止めようって言ったじゃん?いや、言ってないけどさ。はぁ…、ここ、異世界ってやつなのかなぁ。最悪。
「まぁ、だろうな。ポニテと金髪のコンビは、もしかしたら別の場所にいるかもしれないな。おそらくここには別々に来ただろうし、確定に近いだろう」
瑛君はいつも通りの涼しい顔を決めていた。
いや、そうじゃないでしょ。瑛君冷静すぎない?ビックリしないの?いや、驚いてる僕が異常なのかな…。とにかく、ここは話を合わせないと。
「そうだね、風咲と隼人が先に入っていって、多分それを追いかけた」
「あぁ、何にせよ、ここを出るしかなさそうだが」
「そうなんだろうけど、見渡してみてもなぁ…」
周りを見ても抜け道のような場所はどこにも無いようで、やはり壁も上れそうにない。道はあるといえばあるみたいだけど、多分それは木が見える方向とは真逆の、神殿の本体へと入る穴だろう。つまりここは神殿への入り口手前というわけだ。
「あそこは入らないほうが良いよね…」
「最終手段、だろうな」
完全に考えが行き詰まり、ちらりと明日見さんの方を見てみると、何かを見つけたらしくぴょんぴょん跳ねていた。彼女が嬉しそうに振り返ろうとしたので目を逸らすと、
「ね、ねぇ。ちょっとこっちに来て欲しいかも!」
と声を張り上げている。もちろん飛んでいきますともお嬢さん。
瑛君と一緒に足元に気を付けて近づくと、そこは神殿の入り口に近いけど、僕らのいる場所からは壁で隠されて見えなかった部分だ。小屋のような場所だろうか。
「何か見つけたの?」
「うん…、あのね、この変な可愛いオブジェみたいなのって何かな??」
明日見さんが指をさした先には、ある動物をモチーフにしたと思われる石像があった。
「これは…、兎と亀?の石像かな。にしても古いなぁ。やっぱり苔も生えちゃってるし」
「あぁ、だが何か普通のものとは違う感じを覚えるな。触れてみたくなるような、そんな感じだ」
兎と亀ねぇ、どこかのおとぎ話みたいだ。何か懐かしいな。瑛君の言ったように、無性に触ってみたくなる。
兎のお腹真ん丸だな。
僕は少し躊躇いながら石像にゆっくりと触れてみた。
しかし、その瞬間、一瞬にして辺りが消えていき大きな光が僕らを飲み込んでいく
音にならない絶叫が、右からも左からも聞こえてくる。痛みがない。苦しみの根源は全く分からない。しかし、僕を含め三人とも、何も考えられないままにただただ呻いていた。呻くことはできた。。しばらくするとようやく、意識が戻ってきて、思っていたことが口に出る。
「な、何これ眩しいよ!私目が開けられない!!」
「天野、お前何をした!くっ、目が、目があああああっ」
「す、少し兎に触れただけだよ!本当に少し!!」
やばいやばいどうしよう。やっちゃった?触れちゃ駄目だった?眩しい目が開けれないんだけど皆どうなってるんだ!?
身体が燃やされるように熱く、宙に浮いているようだ。光はずっと僕らを包んでいて目を開くことが出来ない。とりあえずじたばたしていると、
「…我が問いに答えよ」
と、声が聞こえた。それは耳の中にスウっと入ってきて、よく響く。少しだけ、落ち着いてきた。
「何なんだこの声は。一体どこから…?」
「天野君が喋ってるの?」
「僕の声はこんなに渋くないし低くないよ!」
どうやら二人にも聞こえているらしい。
「尋ねよう」
またもその声は僕らに聞こえてくる。尋ねるって、何を?
そんな事を聞いてみる間もなく、声は言葉を続けた。
「貴様らヒトの子は」
「我らの力を欲するか?」
声の主は、二人いて、低く、渋い声と、高く、幼い声のようだ。
「…え?僕らが?」
「力だと?」
んーと、とりあえず、質問されたら答えというか、返事をするべきだろう、でも何と答えれば言いのだろうか?
「はいか、いいえですか?」
明日見さんが謎の声へと話しかける。それだ、それをまず聞こう。
「その通りだ。選ぶが良い」
あ、まんまなんですね、別に捻りも無く。だが、力と言われても、一体どんな力かわからない以上、うかつにものを言うことはできない。
あ、まんまなんですね、別に捻りも無く。だが、その力の内容が分からない内は、あまり無闇に答えを出したくはない。
「んー、私は良く分からないけど、欲しいです!」
ヘイガール?キミハナニヲイッテイルノダネ!?
「いやいや、明日見さん。そんな、どんな物かも分からないし、危険な可能性もあるから、こういうのは話し合って決めたほうが……」
「んー、でもさ、貰えるか貰えないかなら貰うべきな気がする。それに力って言っても、使う人がしっかりしてれば大丈夫だよ!」
えぇ……。根拠って言う根拠とか何も無いし曖昧だし。
「え〜っと、瑛君はどうなの?の」
どこにいるか分からないが、とりあえずいそうな方へ顔を向ける。彼ならきっとまともな意見を、
「いや、俺も明日見の意見に同意だ」
「え、嘘っ」
逃げ場がなくなった気がした。
「こんな良く分からない場所に放り出されたんだ。生きていくために必要なのかもしれないだろ」
彼の場合は、かなり真剣なようだ。
「た、確かに…」
二人の言葉は説得力さえなかったが、何となく心を動かされるもので、多数決を取るなら僕の負けだ。
「あのー、話終わった?」
高い声の方が様子を伺ってきた。ごめんなさい、ずっと待っててくれましたもんね。
「え、あー、はい!終わりました!是非ください!!」
僕は二人に委ねてみる事にした。
「ほう、なかなか思い切りがいいではないか」
「これは期待ができるねぇ」
いや、思いっきり悩みましたけどね。良いですよそんな気遣わなくても。雰囲気作りのためかもしれませんけどね。どっちにしろ、意外と優しいのかな?
「お、お願いします!」
僕らが答えを出すと同時に、膨大なエネルギーの様な物が身体中を巡っていくのを感じた。
「パルナ!!!」
そう高い声の方が叫ぶと、全身に痛みのような物が伝わってきて、身体が動かない。麻痺だろうか?とりあえずアホみたいに痛い。痛いのだ。さっきとは違いはっきりと激痛が走る。息が苦しく、吐いてしまいそうだ。
僕らは、苦痛をこらえるように、声を振り絞って悲鳴を上げた。こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ、女子の声というのはついカラダオドルになりかける。この我慢した感じが、危険な兵器だ。
「身体が…壊れる」
痛い痛い痛い痛い痛いきつい、冗談抜きで痛い。頭もボーっとしてきた。死ぬんじゃないこれ?いやいやいやいや冗談でしょ?嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「案ずるでない。死にはせん」
いや、痛いんだって苦しいんだってこれ。死ななくてもめっちゃきついんですけど、そんな低い声で言われても説得力無いんですって。あ、でも少しずつ痛みが引いてきたぞ。それでもアホみたいに痛いけど。
「ふはははは、では。貴様らの選択、しかと受け取った」
「その力がこの世界に何をもたらすか、それらは全てそなた達次第」
何か始まったぞ。低い声が先に、高い声が後に続いて交互に語り出した。
「世界を平和に導くことも出来るだろう。だが、道を誤れば、貴様らが明日を見失えば、いづれその力に飲み込まれてしまうだろう」
「心に勝つのは難しい」
「だが、心を持っていることは何よりも喜ばしい事だ」
「この世界で上手く生きよ、さすれば明日は終わらない」
その言葉の意図は、まだ僕らには分からなかった。いや、多分いつまで経っても分からない気がする。僕はあまり賢くない。
光が少し弱くなり、目を僅かに開く事ができた時、彼らのシルエットが見えた。
「兎と…亀」
のようだ。
「も、もう消えちゃうんですか?」
明日見さんが尋ねると、亀はニコリと微笑む。
「待て、その授けた力とやら、それはいったい何なんだ?」
瑛君は二匹に必死に食いつこうとした。だが、彼らはその行動を軽くあしらう。
「貴様はまだ若い。その頭で自分の思うように生きてみるが良い」
「さすれば時期に分かる、長き青春を謳歌するのだ」
「いずれまた会おうぞ」
「勝手な奴らだな…」
全く答えでもないし、意味も分からなかったが、瑛君はこれ以上は聞かないつもりのようだ。それからすぐに、僕らを包み込む光と、その2匹の姿は消え、目の前にはまた別の視界が広がっていた。
どうやら神殿の外に出されたらしい。さっき中から見たように、外には草木がまだらよりも少し多めに生えている。空からの日差しはとても強く、何だか夏を感じさせた。
あぁ、お日様があったかいな。
「…」
「…」
「とりあえずだ。森を抜けるか」
僕らは見知らぬ出会いの後、森のどこかに放り出されてしまった。どこへ行けは良いのかも分からず、どこが答えなのかも分からずだ。
「そうだね。あっ、二人を探さないと。そして、木の外って言うか、僕らの世界に戻る」
正は地面に付いた膝を上げて起き上がる。身体の汚れをある程度払いながら、その辺を見回してみる。
「落ちた場所が同じなら、どこか先へ向かっている可能性もあるな」
瑛君はもう見回すどころか周りを散策しているらしい。流石すぎるよ。
「水希ちゃんだけなら心配だけど、えーっと、隼人君?がいるなら大丈夫だよね!」
「うん、隼人はああ見えて結構賢いから心配ないよ」
不安そうな明日見さんに見つめられればそう言うしかない。馬鹿じゃないと思うよ。
明日見さんと話していると、
「そうだな、抜けるには…神殿が後ろ側にあって、この見た目だと少し開けている目の前を真っ直ぐに行けば、大きな都のようなものがあったはずだ」
と言って、瑛君が指さした先には確かに少し開けていて、どうぞ通ってくださいという道があった。
これは僕でも分かりそうだ。
にしても。
「よく、どこに何があったとか覚えてるよね」
いや、どうしてあの場所にいたのかも分からないのに、何で分かるんだ?
「私、何も覚えてない…」
「……一度長く目を閉じてみろ。神殿の外に出てから、頭の中に景色が浮かぶようになっている。ぼやけていて、はっきりとはしないが、多分ここに来る時の景色だ。どうやら俺達は空から降ってきたらしい。生きている理由が分からないがな」
その言葉の言うとおり、目を閉じてみると、どこからか落下している光景が見えた。本当に空から落ちてきたのか。でも、あれ?何かちょっと景色が見えた以降は、誰かの太ももとパンツが眼に入ってるんだけど。
いやいや、ちょっと待ちなよ。どうしてパンツばっかりが頭の中に浮かぶんだ?落下中の光景が、スカートの中のパンツ。今僕らは制服で、スカートを履いているのは明日見さんだけ……。僕は名探偵になれるかもしれないな。あぁ、いやそんなことを言いたいんじゃないよ。うん、何かもう全てにごめんなさい。生きててごめんなさい。
「見えたか?」
「え?う、ううううん!見えたよよよ!!すごいねええこれ!!!」
「本当だ!凄い景色だったんだね!」
明日見さんもどうやら景色が見えていたよ。
明日見さんと瑛君は、二人の見た景色を繋ぎ合わせているようだ。もちろん僕も聞かれたけど、
「うん、僕もそんな感じ!」
って、言うしかなかった。だって、パンツしか見た覚えがないなんて、言えないじゃん。
「まぁ、大体のことは分かったな。とりあえずは前に進むぞ」
そう言うと彼は前へ進んでいった。とりあえず、発言権も無いから彼に付いて行こう。僕らはそのまま、不安な足取りを押し殺しつつも、森の外へと進んでいった。
空は青く雲は少ない。何だか、長い冒険になりそうな予感がした。
前に書いていた作品を修正してまた出させていただきました。
読んでいただきとても嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。