3話 ヒロインは空から降ってくる
「それでは早速、現し身を選びましょう創造主様!!」
萩野一鶴の決意をよそに、「天の声」は彼を急かす。
「現し身って、こっちの世界で使う
身体の事か?」
「その通りです創造主様!三体程用意しましたので好きなものをお選び頂けますよ。」
外見を決めるという事だろうか?
はてっ、そんなイベント、チュートリアルにあったかなと萩野一鶴は首を傾げる。
「では参りますよ!!」
「天の声」の掛け声と共に、世界が暗転する。昼間の森の中だった筈の景色が一転、四方八方全てが暗闇に飲み込まれる。
ぼうっと暗闇の中、萩野一鶴の姿だけが浮かぶ。
「ではでは、まず三体のお披露目から。」
声がそう言うと、暗闇に更に三体の身体が浮かび上がる。
「まずはこちら、ベーシックな人間タイプ。創造主様元々の身体との差がない分、扱いやすく、馴れ親しんだモデルとなっております。」
一つ目の体は、声の言う通り、見たままそのまま萩野一鶴本人と全く同じだった。
ただ一点、服装だけが元のパジャマとは違う。ベージュの半袖に水晶のペンダント。下半身は生地の薄そうな七分丈のボトムだけで、靴すら履いていなかった。
「次はこちら、身長の代わりに小回りを重視した小人タイプ。外見は少し縮んでいますが、お顔の方は創造主様の幼少期の頃のを参考にされております。身軽で素早く、見た目の割に腕力が多少向上していて実は男らしいモデルとなっております。」
二つ目も前述通り。しかしその外見は参考どころか、そっくりそのまま幼少期の萩野一鶴のそれだった。
服装は子供服の様なサイズの黒いシャツに、腰に飾り気のないナイフ。先程と違い靴は履いているが、パンツは履いてなく、エンジの腰巻をしているだけだった。
「最後はこちら、今回一番の変わり種、獣人タイプ。耳や尻尾が今までの中で一番発達しており、馴れるまで時間はかかると思いますが、その身体能力たるや驚きになられる事間違いなし。少し玄人向きのモデルとなっております。」
「身体選びに玄人もくそもないだろう。」
三つ目は、確かに身長や顔こそ同じだが、頭に猫耳と、お尻に猫尻尾をつけたそのまま猫の亜人だった。
服装は濃い茶色のタンクトップと同系色の長めのパンツ。足元に赤茶のサンダル、パンツの裾から覗く尻尾と両手足の爪は鋭く長い。
「以上、3点の中からお選び頂けます。どれにいたしましょう!!?」
「一番目。」
即答だった。
「なっ………!!。折角用意したのに……。せめて何がダメだったのかお聞かせ願えますか?」
「まず、二つ目の身体。メリットに対してデメリットが酷い。」
見たところ二つ目の身体の身長はよくて120あるかどうか。萩野一鶴の現在の身長は170強。この身長差は流石に許容範囲を超える。
「次に、三つ目の身体。これはもう普通に生理的にむり。」
「ガーーーーンッッ!!!!」
身長170の今年18歳になる男の猫耳。しかもそれが自分だというのだからたまらない。萩野一鶴はそこまで砕けた人間ではないのだ。
「消去法って訳じゃないけど、一つ目が一番良いかな。」
やはり馴れ親しんだ自分の身体が一番便利だ。
「そうですか……。創造主様がそう決めたならそれでよろしいんですが………。」
「何か、悪いな。」
暗闇の中から二つの身体が消える。萩野一鶴は残った、自ら選んだ身体へと手を伸ばす。そして触れ合う瞬間、暗闇はまばゆい光に包まれた。
「………………。」
気がつくと、萩野一鶴と勇者イヅルの身体は同化していた。
「無事シンクロしました。改めまして、ここに勇者イヅルの誕生ですね。」
「色々とありがとうな。」
イヅルは萩野一鶴と全く同じ声で言った。
「いえいえ、これが私役目ですから。」
「天の声」は微笑む。いや、多分微笑んだ。
「これにて、無事チュートリアルは終わります。これからあなたには様々な試練が降りかかりますが。」
「自分で作ったもんだ、望むところだぜ。」
「頼もしい限りです。」
視界が開けてくる。
「ご武運を祈ります、勇者イヅル。あなたに創造主の加護があらん事を。」
暗闇が晴れると、そこに萩野一鶴の姿はなかった。代わりに、勇者イヅルが立っていた。
「ありがとう、メロディア。」
イヅルは、彼女の本当の名前を呟く。
もう二度、語りかけてくる事のない、彼女の名を。
森には、鳥の声しか聞こえない。
そして木漏れ日が、新たな救世主の誕生を祝う。
こうして萩野一鶴は、世界を救う勇者、イヅルとなった。
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「で、とりあえず。俺は何をすれば良いんだっけ?」
チュートリアルを終え、イヅルは一息をつく。
「確か、俺の記憶が正しければこの森は『ミルスの森林』で、ここから序章が始まるはずだよな……?」
序章を含め、全13章からなる、『エルドゥグア』での勇者イヅルの冒険。
「序章はこの森で間違いないんだけど…。あれっ?。何かこの後、重要なイベントがあった様な……??」
確か、現実に起きたら結構大変そうイベント。
あれは何だったけ?と、イヅルが首を捻った時。
「キャァァァァァアァァアァァアァァッッ!!!!」
空から女の子が落ちてきた。
「えっ…?あっっ!!!!」
思い出した時には時すでに遅く、イヅルは落ちてきた少女の下敷きになった。
「あたたたたっ……。て、うわぁっ!!!!」
これがイヅルと少女の初めての出会いであった。
「何だか冴えない人を下敷きにしちゃっった!!!」
天然に口が悪く、運動が苦手で、金髪の。
「あっっ!初対面の人に冴えないとか言っちゃった!!ごっ、ごめんなさい!!」
「謝るとこ、そこじゃ……ねぇだろ………。」
世界から命を狙われる、『金龍』の巫女。
サーシャ・ララクロイツとの最悪の出会いだった。
「私、メリダと言います。よろしくね座布団替わりさん!!」