表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハコニワ〜創造主、異世界にて起きつ〜  作者: 新町三平
序章 創造主、異世界にて目覚める
3/6

2話 森の中の決意

 


 生まれて初めて、自分が怪物に食べられる所を目撃した萩野一鶴のその後の行動はというと、ただの現実逃避だった。



 ただの現実逃避。昼寝というやつである。

 この場合、正確には二度寝というべきか。



 兎に角、萩野一鶴は眠る事にした。眠る事によってこの悪い現実から逃げるように、幽体の状態で横になる。



 心の中で願うのはただただ、悪い夢よ醒めろという、その思いだけだった。











「それにしたってショッキングな場面でしたね、イヅル様。」




 うつらうつらとしていた一鶴の意識が覚醒する。



 人の声が聞こえた。

 否、人の声が今の自分に語りかけて来たのだ。



 幽体である萩野一鶴に。





「そんなにビックリしなくても、別に幽体だからって見えないとは限らなくないですか??」



「誰だよ、、俺に話しかけてくんのは……?」



「そんな怖い顔しないでくださいよ、何がご不満なんですか??」



「不満……??」



 萩野一鶴が今抱えているのは、そんな小さな問題などではなかった。



「ふざけんじゃねぇよ……、何が不満だよ……目が覚めたら森の中で……何故か体から幽体離脱してて……ゴブリンに本体を襲われてっ、あまつさえ自分の体が食われんのをっっ!俺はっ!!!指を咥えて震えて、見てる事しかできなかった!!!!!!」




 萩野一鶴は吠える。度重なる非常事態と理不尽に対する、憤怒を。




「そうですね、私も見ていました。」



「何なんだよっここはっ!一体なんだって俺がこんな目に会わなきゃいけないんだよっ!!怖えし、何もわからないし、寝ようとしても、早く目を覚ませって思っても何も変わらねぇ……。」




 語りかける声に向かって怒りと戸惑いをぶつける声が、段々と力が弱くなっていく。




「分かってんだよ、何となく……。認めたくないけど……分かっちまったんだよ。」




 目から涙がこぼれる。





「夢じゃぁないんだろ……?」




 これがどうしようもない程、自分の身に起きた現実だという事を萩野一鶴は理解していた。受け入れる事はしなかったが、最初から確かに知っていた。





「なぁ…あんた何か知ってんだろ??だったら教えてくれよ……?」




 萩野一鶴は問う。




「ここは何処なんだ……??」




「ここは、鉄血と魔法の世界『エルドゥグア』。」




 声が答える。


 萩野一鶴はその答えを知っていた。




 子鬼の造形を見たとき、彼は確信していた。




「あなた様が一番よく知っている筈ですよ、創造主イヅル様。」






 この森は、この声は、この世界は、このストーリーは、






 全て、彼、



 萩野一鶴がかつて作りあげたものだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 鉄血と魔法の世界『エルドゥグア』



 四つの大陸と三つの海の周りをぐるりと高き大瀑布が囲み、魔法あり、魔物あり、亜人族ありの世界。




 3年前、萩野一鶴がSRPG「神の創生世界ハコニワ」内に受験勉強そっちのけで作りあげた世界。





「エルドゥグア」を舞台に、

 王国連合、帝国、四大亜人族との三つ巴の戦争を、この世界に転移された異界の勇者が止める物語。





 全13章に及ぶ大冒険。

 萩野一鶴が自らの理想を追求し続けたRPG。




 現実を忘れるほどに没頭し、創造した世界。





 萩野一鶴の為だけに存在する世界。







 そして彼は今、その世界に存在している。






「なんの冗談だよ……?。自分の作りあげた世界に転移させられるなんて………。」



「ようやく落ち着きましたか、イヅル様??」



「………とりあえず、ここが何処なのかは分かったよ。でもなんで俺がここに…?」



「それもイヅル様が考え出したストーリーではありませんか。」



「はっ??」




「あなたこそ、この世界に長く続く千年戦争を止める為に、異世界より招かれた勇者なのですよ!!」



「いやっ……だからそれはゲームの中の設定であって……。つまり俺が勝手に考えたストーリーだし、現実の俺とゲームが混同って、、あれ?。なんかこんがらってきたな??。」



 萩野一鶴は頭をひねる。首を傾げる。




「えっと、だから異世界に転移されるのはゲームの中の話しだし……それが本当に起こる訳ねぇし……。そもそも、その設定考えてからもう3年も経つし……。んっ?時間は関係ないのか??。」




「何をごちょごちょ仰っているのかは分かりませんが、今この時点で、あなた様がここに存在するのは紛れもない事実なんですから受け入れてください。」



「いやっ、だから何でゲームの世界の設定で、現実の俺が転移されなきゃいけないんだよっ!!!」



「あなたがそう望んだんじゃありませんか?」



「俺が望んだ……??」



 萩野一鶴は思い出す。昨日の事。ここ最近の事。



「いやっ異世界転移願望なんて俺にはない筈……」



 思い出す。3年前の事。



「でもあの頃はどうだ……?。少しでもそんな事、考えてもいなかったか……?」



 他でもない萩野一鶴自身が3年前、確かに彼の理想をねじ込んだのがこの世界だ。



「でもそれはやっぱり……3年も前の話しで……。」



 何で今更。どうして3年たった今なのか。



 それにこの物語自体、3年前にとっくに全クリしている。




 勇者イヅルの冒険は、3年前に終わった筈なのだ。




「何で今更……??」




「そんな事、私は知りませんよ。でも確かな事は、あなたはこの『エルドゥグア』の創造主様だという事。」



 声は一息ためる。




「そして今ここにいるあなたこそ、この世界を救う勇者、イヅル。創造主様がこの世界に顕現せし現し身。」




「現し身って……。さっき俺の体喰われたんだけど……。」



 あのイベントは確か筋書きにはない筈だ。




「何を仰っいますかイヅル様。先程、子鬼共に食べられたのは、向こうの世界のお身体。こちらの世界のお身体はちゃんと用意いていますとも。」



 向こうの身体。それすなわち、萩野一鶴の現実で使っていた身体。



「えっそれでも喰われちゃ不味いじゃん!。俺の現実での身体なくなっちゃたじゃん!!」




「まぁでも、この世界では使いませんし。」



「もしかして俺って、もう戻れないの……?」



「さぁ?」



「さぁって…………。」



 身体を喰われる以上の絶望である。



「私にだって分からない事はありますよ。所詮、私なんてチュートリアル用の「天の声」ですから。」



 ここに至りようやく声の主の正体が明かされる。メタ発言気味に。



「まぁでも、創造主様ならその辺もなんとかなるんじゃないですか?」



「なんで転移させられたのかも分かんねぇのに、分かる筈ねぇだろ……。」




 現実に帰る方法も、現実に戻った時の体も、今の彼には存在しない。



 壊れかけた心は立ち直っても、止めを刺された気分である。



 それでも、




「やってやるよ………。」




「はいっ??」




 彼の心は固まった。




「やってやるってんだよ。俺が作った世界だ、俺の手でクリアしてやる……。」



「おお!!ではついにっ…」


「勇者イヅル、ここに誕生だぜ。」




 帰りたい。でも、方法が分からない。


 ならばやる事は一つだけだ。




 方法が分かるまで、

 なんとしてでも生き延びてやる。




 この世界で、自分の引いたレールを自分で辿ってやる。



 自分の手のひらの上で転がるなんて、さぞや滑稽な事だろう。


 それでも彼は、目覚めた時よりもいい顔をしていた。




「創造主様なめんなよ。こんな世界、一週間で全クリしてやる。」





 情報ならある。いや情報しかない。だが、





「一度救った世界だ。二周目はもっと上手くやってやるぜ。」







 少年は決意する。






 突如飛ばされた異世界で、



 自ら創りあげた理想の世界で、




 例えそれが望まぬ冒険でも、





 必ずやり遂げてみせる。







 未練があった。やり残した事があった。やり直しの途中だった。




「絶対に帰ってやる。」







 理想の世界から、一度挫折した現実へ。







 少年はこうして、この世界で生きる事を決意した。






















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ