前夜祭 〜子鬼の晩餐〜
酷く悪い夢を見ているようだった。
少年は怯えながら茂みに身を隠している。
目の前で起こる、目を背けたくなる様な現実。
人が子鬼に喰われていた。
それを人と形容するには、些か誤解があった。
訂正しよう。
萩野一鶴の死体が、子鬼に喰われていた。
肉を食べ、骨を砕き、血を啜る。
彼はただ息を潜め、その様子を見ていた。否、目を離す事が出来なかった。
彼はただ、『自分』が子鬼に喰われるのをただただ見ていた。
『萩野一鶴』は、『萩野一鶴』が子鬼に喰われるのをただただ見ていた。
動悸が高鳴り、涙すら出てくる。この世で最も悍ましい光景が眼前で流れる。
子鬼の名は、『ホブゴブリン』。
醜悪なる、一角の鬼の子。
彼はその子鬼の事をよく知っていた。
何故ならあの子鬼は、萩野一鶴本人が作り出した怪物なのだから。
それどころかこの森、『ミルスの森林』さえ、彼が作り出したものなのだから。
鉄血と魔法と、
貴き壁の世界。『エルドゥグア』
萩野一鶴が3年前、学校をサボってまでのめり込んだ、SRPG「神の創造世界」。
そのゲーム内で自ら創造した世界。
彼は今、その世界の中にいた。