ブラックドッグ
その日、オレたちは夜中の墓地にいた。なぜそんな時間にそんな場所にいるかと言うと、ギルドで仕事を請け負った為だ。仕事の内容は、夜な夜な人を襲う赤い目の黒犬、ブラックドッグの退治するといった内容である。オレたちはブラックドッグがよく出現するのは、夜中の墓地だという情報を手に入れたのでこんな場所にいる。
「ねー、アレックスー?
本当にそんな赤い目をした黒犬なんているのかなぁ? 」
サンドラは少し依頼内容を疑っているようだ。
「嫌なら帰っても構わないが。」
「いや、別に嫌とかじゃないんだけどねー。
ただ、犬を退治するのに依頼がAランクっておかしくない? 」
サンドラの言う事は最もである。何か裏があるからAランクの仕事なのであろう。その事はオレ自身も薄々感じてはいる。
ガルルルルルゥ~
噂をすれば、依頼目的の黒犬が現れたようだ。一匹だけではないようだが、情報通り全ての犬の目が赤いので間違いはなさそうだ。この犬を殺すのは簡単だが、どういうわけか? ほとんど殺気を感じなかった。オレはダーインスレイブではなく、もう一本の剣を鞘から抜いた。
「我が主よ。
我ではなくそいつを使うか… 」
ダーインは少し機嫌が悪そうにオレに語り掛けて来る。
「あれーー?
アレックス、魔剣使わないのー? 」
もう一本の剣を見たサンドラは残念そうにオレを見ている。
どうやらサンドラはこの剣については、どんなものなのか把握していないようだ。おそらく専門外なのだろう。この剣の名は『エッケザックス』。何度戦っても刃こぼれすらしない聖剣と呼ばれているものだ。ちなみにダーインはオレがこの剣を使うことを非常に嫌っている。
「その剣から放たれているのは光の力… 。
あなた達は墓荒らしではないのですか? 」
黒犬は唸るのを止めたかと思うと、突然女性の声で喋りだした。
「ああ、別に墓を荒らすつもりはない。
それよりもお前らは何者だ?
ただのモンスターでは無さそうだが… 」
「私達は死者の安眠を守る者。
いわゆる墓守です。
あなた達が墓荒らしではないのなら危害を加えるつもりはありません。
どうかお引き取り下さい。」
「では、なぜ人を襲う?
黒い犬が人を襲っているという話を聞いてここに来たのだが。」
「……… 、
おそらくそれは『ヘアリージャック』の事でしょう… 。
あれは私達とは全く異なる狂気に満ちた存在です。」
「なるほど… 。
で、そのヘアリージャックはどんな奴で何処にいる? 」
「どこにいるかはわかりません… 。
ただ、夜中の街の十字路などに現れると昔から聞いています。
それから、人の姿に化ける事もできるようですね。
私達にも、これ以上の事はわかりません… 。
ここに眠る死者達に用がないのであれば早くお帰り下さい。」
そう言うと黒犬達は姿を消してしまった。
振り出しに戻り、また最初からわざわざ探すのは面倒くさいと思いつつ、オレたちはヘアリージャックを探すため町に戻ることにした。黒犬の言葉通り、敢えて人通りが少ない道を中心に目標を探す。そして、裏路地の十字路に差し掛かった時、一人の怪しげな女が現れた。
「あら、夜中にこんな所をカップルが歩いているなんて… 。
宿でもお探しでしょうか?
もし良ければ案内しますよ… 」
女は不気味な笑みで話かけてくる。こんな不自然な出会い、溢れ出ている殺気からして、十中八九こいつがヘアリージャックであろう。
「えー!
私たちってカップルに見えちゃうんだー!
結構嬉しいかもー!! 」
何を呑気にそんな事を言っているんだ、この女は… 。
「でも、悪いけど死んでもらうよ!
ヘアリージャックちゃん! 」
サンドラは急に真剣な表情になり女に攻撃を仕掛けた。彼女の持っている杖から発せられた魔法は女に命中し爆発を起こす。しばらくして煙がおさまると、そこには赤い目をした毛むくじゃらの黒い犬の姿があった。かなりの大きさである。
「ククク…
死ね死ね死ね死ねぇええええええええええ!!! 」
ヘアリージャックはそう叫びながらサンドラに向かって行く。その殺気や身のこなし方、確かにAランクが付いていても文句はない強さであろう。
「へぇー 。
私の魔法を喰らってそれだけ元気だなんて、
やっぱ君、ただ者じゃなかったんだね!
それならこれはどう? 」
サンドラは超早口で魔法を唱えた。
「ブラックファイヤー!! 」
魔法が発動されるとヘアリージャックの全身は炎に包まれ灰となっていった。
「ねぇ、アレックスー!
どうだったぁ? 私の魔法! 」
サンドラはいつも調子でオレに話かける。
「まぁまぁだな。 」
予想外のサンドラの強さにオレは正直驚いてしまったが冷静を装ってみる。
「えーーーー!!!
まぁまぁなのー!
でも、いっか! 」
一瞬、残念そうな表情をしたサンドラだったが、少しオレに認められた事が嬉しかったようで、どことなく表情は明るい。
「……… 、
我が主よ… 。
サンドラという娘、敵にするとかなり厄介だぞ。」
「そのようだな… 」
それは、魔剣『ダーインスレイブ』にそこまで言わしめるサンドラの実力を知った依頼であった。