悪魔の魔術師
その日、オレは町のギルドで仕事を探していた。ある程度大きな町になってくると冒険者に仕事を紹介してくれるギルドというものが存在する。そこで紹介される仕事の内容は様々である。迷子の猫探しから宝探し、貴族の暗殺や魔王の討伐なんてものもある。ただ、仕事の内容には、それぞれランクが付けられており、請け負う事ができる冒険者にもそれぞれランクが与えられている。つまり、自分のランクより高いランクの依頼は請け負う事ができないのだ。ちなみにオレはSランクである。
「よぉ、久しぶりだな、なんか良い仕事はないか? 」
「久しぶりだね、アレックス。
もう前の報酬は使いきったのかい? 」
オレにフランクに話しかけているギルドの受付はオレの幼馴染のジルという男である。
「ま、いつ殺されるかわからんし、派手に金使ってるからな。」
「そっか。
でも、僕には君が倒される姿が想像できないんだけどね。
それに、今、君がここにいるってことは、Sランクの勇者たちを倒したって事だろ? 」
「あ~ 、あのガキどもの事か… 。
あれでSランクとはな… 」
「まぁ、冒険者のランクがSまでしかないから仕方ないさ。
それはそうと、アレックス。
君の横にいる美人は誰だい?
君と一緒にいるって事は普通の冒険者じゃないだろ。」
「あ~ 、こいつはサンドラ。
なんか知らんがオレにつきまとっている女だ。」
「サンドラ… 。
聞き覚えのある名前だなぁ… 。
って!
サンドラってまさか!! 」
ジルはその名前にひどく驚いている様子だ。
「サンドラさん!
あなたのギルドプレートを見せてもらってもよろしいですか! 」
いつも穏やかなジルがひどく興奮している。
「ん? いいよー。 はいっ! 」
サンドラはプレートをジルに見せる。それはプラチナのプレートであった。ギルドの登録者はランクに応じて、それぞれに違った金属のプレートが与えられる。プラチナのプレートはSランク。つまりオレと同じランクという事だ。この女、ただ者ではないとは思っていたが… 。
「Sランクの冒険者で名前がサンドラという事は… 。
アレックス、君は大変な人と仲間になったんだね… 」
そう言ったジルの顔面は蒼白であった。
「どうしたんだ、おまえ?
顔色悪いぞ… 」
「アレックス… 、
君は彼女が何者か知らないのに仲間になったのか?! 」
「いや、オレは仲間って認めてないんだけどな。
こいつが勝手に付いてきてるだけだ。」
「えー!
ひどいよー、アレックス~。
いつも一緒にごはん食べてるって事はもう仲間じゃん! 」
「じゃ、ごはん仲間だな。」
「仲間は仲間だもんね! 」
いつもの調子でサンドラと話をしているとジルは小さな声でオレに言う。
「悪魔の魔術師サンドラ… 。
その黒魔術は世界の均衡を覆すことができる程の脅威だと聞いている。
サンドラ討伐はSSランクの依頼にも挙がっている程だぞ… 。」
「お、そうなのか?
お前、結構強いって前に言ってたけど本当だったんだな。 」
「やっと私の実力がわかった?
それにしても、私を倒す依頼なんて出てたんだー。
全然知らなかったよー。」
「君たちは事の重大さに気づいていないのか!
君たち二人が手を組んだと知れたら、前代未聞のSSSランクになるかもしれないんだぞ! 」
ジルはオレたちを心配しているようだ。
「ま、どうせオレは元々SSランクの討伐対象だったからな。
今更って感じだけど… 。」
「え? アレックスってSSランクの討伐対象だったのー? 」
「サンドラさんもアレックスが何者か知らないで一緒にいたのか… 。
彼は神出鬼没の暗黒騎士アレックスだよ… 。」
ジルは呆れたようにサンドラに伝えた。
「アレックス!
君ってあの有名な暗黒騎士だったのー!
私、超感激! 」
サンドラは魔剣の事は知っていたようだが、オレの素性は知らなかったらしい。
「ま、お前がオレと一緒に居て、足手まといにならない位、強いんだったら仲間になってやっても良いぞ。」
「私の中では、もう仲間なんだけどね!
それより「お前」じゃなくて「サンドラ」って呼ぶこと! 」
「あ~、はいはい。
わかったよ、サンドラ。」
全く危機感のないオレたちに対し、ジルは忠告をする事をもう諦めてしまったのか? 何事も無かったかのようにこう言った。
「で、今日はどんな仕事をお探してるんだい? 」