謎の女
その日、オレは村の酒場で酒を飲みながら飯を食っていた。暗黒騎士と呼ばれているオレだが当然腹は減る。オレはただの人間だ。いや、今は魔剣に呪われた人間と言った方が正確だな… 。
「ねぇ、相席してもいい? 」
食事中にオレに馴れ馴れしく話しかけてきた女がいた。見た感じ二十歳位の女だ。ちなみにオレは二十八歳だ。
「他にも席空いてるだろ? 」
「う~んとね… 、君に興味があるから!
ね、いいでしょ?? 」
女は明るい笑顔を向ける。
ここは酒場と言っても普通の人間は立ち入らない店だ。勇者や戦士、僧侶、魔法使い、武闘家など様々な冒険者が集う酒場である。そんな腕に自信がある武装した集団ばかりがいる店に入ってくる一般人など普通はいない。酒に酔った勢いで殺されたらたまったものではないからだ。こんな場所にいるという事は、この女も冒険者で仲間でも探しているのだろう。
「もし仲間を探しているのなら他を当たってくれ。 」
「えー!
私まだ何も言ってないのにー!
とりあえずは、一緒にごはんが食べたかっただけだよー。
独りでごはん食べるのって寂しいでしょ?
私も一人だし! 」
女は相変わらず明るい笑顔でオレを見つめる。
やりにくい女だ。オレはこの手の女が苦手である。どうも断りにくいというか、扱いにくいからだ。だが、決して嫌いという訳ではない。
「まぁ、飯を一緒に食うだけなら構わないが… 。」
「そうこなくっちゃ!
私の名前はサンドラ!
君の名前は? 」
女は椅子をオレの側に寄せて聞いてくる。
「オレはアレックスだ。」
「アレックスって言うんだー。
じゃ、これからよろしくね! 」
女はそう言って笑顔でオレに握手を求めてきた。
「これからって、どういうつもりだ?
オレはおまえの仲間にはならないと最初に言ったはずだが。 」
「うん! わかってる。
でも、ごはんを一緒に食べてくれるって言ったでしょ。
だから、私の仲間になってくれるまで、明日も、明後日もアレックスと一緒にごはんを食べるために付いていく! 」
冒険者が集まる酒場では何度も仲間に誘われているが、こんな強引な奴は初めてだ。
「あのなぁ… 、
オレは仲間を作る気もないし、そもそも何でオレなんだ?
他にもたくさん冒険者がいるだろ? 」
「う~ん… 、なんとなく!
それに君、剣士でしょ?
しかも相当強いんじゃない? 」
女はワクワクした表情で問う。本当にオレに興味があるようだ。迷惑な話である。
「あ、オレ弱いから。
残念だったな、諦めてくれ。」
「も~ 、君って頑固だな~ 。
こんな美人に仲間に誘われてるんだよー! 」
頑固ってお前に言われたくない。美人というのは認めるが。
「じゃあ、とっておきの口説き文句で君の仲間になってみせるよ!
ちょっと反則っぽくて、あんまり使いたくなかったんだけどね。 」
よほどその口説き文句に自信があるようだ。
「面白い女だな。
そんなに自信があるんだったら聞くだけ聞いてやる。」
「じゃあ、言うよ!
君の持っている剣の名は、ダーインスレイブ。
一度鞘から抜いてしまうと、相手の生き血を浴びるまで鞘に納まらないと言われている伝説の魔剣だよね。」
女はドヤ顔でオレに言う。
「お前は何者だ。
なぜそれを知っている? 」
「な~んでだろうね~?
それよりも私の口説き文句どうだった?
仲間にする気になった? 」
女は今までと同じように明るい笑顔でオレに問う。
「こいつの事を知っているとはな… 。
しかも、それを知っていてオレの仲間になりたいなんて、
本当に変わった女だな。
仲間にする気はないが付いてきたいなら勝手にしろ… 。
死んでもしらんがな… 。 」
「そんな簡単には死なないよ。
私こう見えて結構強いし!
それになんだかんだ言ってても、アレックスがきっと守ってくれるからね~ 。
あ!
あと「お前」じゃなくて「サンドラ」って呼んでね!
これが後にオレのパートナーとなるサンドラとの出会いであった。