プロローグ
とりあえずスタートします。
異世界アルーノガスト。
古来より強大な力を持った魔王が勇者に倒され平和が保たれている世界。
そんな世界にあって第164代魔王は悩んでいた。
「儂は・・・、儂は死にとうない!」
過去163回、先代に至るまでどんなに強大な力を持った魔王であっても勇者に倒されてきた。
決して勇者の力が魔王を上回っていたのではない。
寧ろ魔王の力が圧倒的に上だったろう。
しかし過去の戦いにおいて全て魔王が敗れてきたのであった。
それは世界の摂理としか言いようがなかった。
故に魔王は来るべき勇者との戦いが死刑執行の如く感じられ悩んでいたのであった。
「どうだ、何か使えそうなものが出てきたか?」
配下の女魔導師に藁にもすがる思いで尋ねた。
「それが今回は何の魔力も帯びていないこの書物が一冊だけでした」
女魔導師は申し訳なさそうに答え書物を渡してきた。
確かに魔力のまの字も感じられない安っぽい書物だ。
中身も見たこともない文字で書かれておりさっぱり分からない。
この世界の摂理として魔王が勇者に勝てないなら別世界の道理で何とかならないか?
そう考え配下の女魔導師に異世界召喚魔法を使わせたのだが出てくるのは使えそうもないガラクタばかり。
空き缶、ペットボトル、牛乳パック、残飯、壊れたトースター、壊れたテレビ、使い古しの運動靴、割れた花瓶と明らかにゴミ以外の何ものでもないものばかり。
今回もハズレのようだ。
念のため鑑定を掛けてみる。
『就職情報誌』
やはりハズレだ。
既に勇者はこの魔王城の近くまで来ており乗り込んでくるのは時間の問題であった。
万事休す。
このまま大人しく死刑執行を待つしかないのか。
ガックリと肩を落とす。
力の抜けた手から就職情報誌が落ち数ページがめくれた。
『前職不問、日給八千円、やる気のある人』
点けっ放しにしていた鑑定が文字を読み取る。
虚ろな目でそれを見ていた魔王の頭に天啓が降りた。
「そうだ!」
書付にサラサラと文字をしたため魔王の玉座の上に置くと脱兎の如く走り出した。
「魔王様!まさか敵前逃亡されるのですか!お待ちください!」
「逃げるのではない。辞めるのだ!」
後ろから追ってくる女魔導師の声に答える。
魔王の玉座の上に置かれた書付にはこう書かれていた。
『辞職届け、一身上の都合により辞職します。探さないでください』
かくして元魔王の長く苦しい転職の物語が始まるのであった。
基本的にドタバタコメディーを目指しますが容赦なく人死にも出る予定です。