第12話「レティシアの苦悩」
勇者さまがマリンと一緒に帰ってきた。
どうやら守護勇者、守護聖龍契約をしたらしい。
「わたくしと勇者さまの絆、愛の証……守護聖龍の剣・聖が砕けた……なのにどうして勇者さまはわたくしのところに来てくれないのですか? どうして放置するのですか? 勇者さま……」
それから数日が経った。
城下町の民たちの噂によればイリスと仲良くデートをしていたらしい。
「ゆ、勇者さま? おかしいでしょう? もっと他にやることあるんじゃないですか? 会うべき人がいるんじゃないですか? ほら、わたくしとかわたくしとかわたくしとか」
それから一週間が経過した。
今度はイリスと守護契約をしたらしい。
気のせいでしょうか、前より勇者さまとイリスの距離が近くなったような気がするのですが。
「……勇者さまどうして……わたくしの、ところに……」
「レティシア? どうしたのだ? 顔色が優れぬが」
「お父様、勇者さまは何かわたくしについて仰っていましたか?」
「勇者レッドか? そうだな」
王宮での昼食中にうわ言のように呟くわたくしのことをお父様は気にかけてくれた。
わたくしはお父様の顔を見ながら勇者さまについて聞いてみることにした。
会いに来なくても勇者さまはわたくしのことを考えてくださっている。
そう信じてお父様が話すのをわたくしはジッとお父様の顔を見つめるながら待った。
「あー……まあ、なんだ。心配していたぞ」
「左様ですか!?」
「左様だ」
歓喜。
歓喜、歓喜、そして歓喜! 勇者さまはわたくしのことを考えてくださる。
それだけでも天にも昇る心地だった。
それだけでも満足できるはずなのに龍の欲とは留まることは知らぬようでわたくしは更に勇者さまがわたくしのことを考えてくださってるという事実を欲した。
「他には――他には何か仰っていませんでしたか!?」
「ほ、他にか? 他には……特に言っておらぬな」
「そう、ですか……」
「そ、そうだ! 思い出したぞ! 聖龍剣が折れたとき、レティシアとの契約が解除されたことを悲しんでいたぞ!」
「左様ですか!? 勇者さま、勇者さま……」
特にないというお父様の言葉に体全身で気持ちが沈んでいくのがわかった。
そんなわたくしを察してかお父様は頭を捻って、記憶を搾り出してくれた。
勇者さまがわたくしを想って悲しんでくださる。
それだけでも胸が締め付けられる気持ちで勇者さまに会いたくなってきた。
「レティシア? どこに行くのだ?」
「少し用事を思い出しましたので失礼しますわ、お父様」
「そうか……気をつけてな」
「はい、ありがとうございますわ。お父様」
わたくしが椅子から立ち上がりテーブルから離れるとお父様が声をかけられた。
わたくしは振り返ってお父様に微笑みながら伝えた。
お父様のわたくしの!ください身を案じる言葉に御礼を申し上げてその場を後にした。