貴族の剣
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「……おい、聞いたか?」
訓練場の隅で、ひそひそ声が聞こえる。
「なんかよ、見習いの中に“特別扱い”されてるやつがいるらしいぜ」
「は? そんなのありかよ」
「しかも北部出身だってよ」
「マジかよ……」
……あー、これ。
完全に俺のことだな。
やめてくれよ。
目立ちたくねえのに。
「おい」
後ろから声がした。
「お前だな」
うわ、来た。
振り返ると、そこにいたのは――
いかにも“貴族”って感じのやつだった。
整った顔、無駄のない姿勢、手入れの行き届いた装備。
そして何より――
空気が違う。
「……誰っすか」
「レオン・ヴァルハルト」
名乗り方からして違う。
堂々としてるっていうか、迷いがない。
「お前が例の見習いか」
「例のって?」
「とぼけるな」
少しだけ、眉が動く。
「ケッヒル隊長に直々に見られていると聞いた」
あー、それな。
「まあ、そんな感じっす」
めんどくさいから適当に答える。
「……なるほど」
レオンは、じっと俺を見る。
まるで値踏みするみたいに。
「大したことはなさそうだな」
は?
「いやいや、いきなり失礼じゃね?」
「事実を言ったまでだ」
こいつ、普通にムカつくな。
「北部出身と聞いて納得した」
あー、はいはい。
そういう感じね。
「悪いが俺は忙しい」
レオンは木剣を構える。
「だが、一つだけ確かめておく」
……嫌な予感。
めちゃくちゃする。
「お前が“本物”かどうかだ」
「いや、だから俺別に――」
「構えろ」
は?
「いやいや、無理無理。俺まだ見習い――」
「関係ない」
一歩踏み込まれる。
速い。
「来い」
うわ、マジかよ!!
慌てて棒を構える。
その瞬間。
――消えた。
「っ!?」
次の瞬間、目の前に剣。
速すぎる。
反射で振る。
カンッ!!
弾いた。
でも、重い。
腕が痺れる。
「……ほう」
レオンの目が、わずかに変わる。
「今のは悪くない」
いや、こっちは必死なんだけど!?
「だが――」
二撃目。
さっきより鋭い。
「ぐっ……!」
受ける。
ギリギリ。
でも――
なんか、見える。
軌道が。
「……?」
自分でもわからない。
でも、体が勝手に動く。
スッ――
三撃目を、流す。
「なに?」
初めて、レオンの表情が崩れた。
「今の……」
知らねえよ。
こっちが聞きたいわ。
「もう一度だ」
いやいやいや。
待てって。
さすがに無理――
「そこまでだ」
低い声が割り込む。
ケッヒル隊長。
いつの間にか、すぐ後ろに立っていた。
「……隊長」
レオンがわずかに姿勢を正す。
「遊びは終わりだ」
「遊びではありません」
「俺がそう判断した」
空気が変わる。
さっきまでの軽さが、一瞬で消えた。
「ヴァルハルト」
「はっ」
「お前は優秀だ」
「ありがとうございます」
「だが――」
隊長の視線が、俺に向く。
「こいつは例外だ」
……は?
「現時点ではな」
レオンの目が、完全に変わる。
さっきまでの余裕が消える。
「……なるほど」
小さく呟く。
「ならば」
木剣を下ろす。
「いずれ、証明させてもらう」
ああ、これ完全にあれだ。
面倒なやつに絡まれたやつ。
「逃げるなよ」
去り際に、そう言われる。
いや、逃げたいんだけど。
めちゃくちゃ。
「……はぁ」
ため息が出る。
なんでこうなるかな。
「いい顔だ」
ケッヒル隊長が言う。
「は?」
「面倒そうな顔だ」
「実際面倒なんですけど」
「慣れろ」
無理だろ。
こんなの。
でも――
なんか、ちょっとだけ。
悔しいと思った。
さっきの一撃。
完全には捌けなかった。
「……あいつ」
「気になるか」
「まあ、ちょっとは」
正直なところだ。
「なら、強くなれ」
隊長が言う。
「嫌でも関わることになる」
……うわ。
それ、確定ルートじゃん。
終わった。
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