本物の戦
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鐘の音が、白い石壁に何度も跳ね返っていた。
王城内門前。
広くはない石畳の広場に、兵と敵が入り乱れている。
倒れた槍。
割れた盾。
蹴散らされた兜。
磨かれていたはずの白い床は、もう戦場の色だった。
その中央に、ケッヒル隊長が立っている。
外套の裾だけが、風に揺れていた。
剣は低く下げたまま。
肩にも力が入っていない。
それでも。
誰一人、軽々しく近づけない。
黒装束の五人が、半円を描くように間合いを測っていた。
それだけ隊長を恐れている。
「囲んでも無駄だ」
グリードが低く笑う。
「それでも来るってか」
「当然だ」
レオンが短く返す。
「隊長を倒さねば、前へ進めない」
次の瞬間。
五人が同時に踏み込んだ。
石畳を打つ足音が重なる。
左右から二人。
正面から一人。
遅れて背後へ二人。
速い。
連携も悪くない。
だが――
隊長は動かなかった。
いや。
俺の目には、そう見えた。
ギィンッ――!!
火花が散る。
一人の剣が、根元から折れていた。
正面の男は腹を押さえて膝をつく。
背後に回った二人は、いつの間にか地面に転がっている。
残った一人だけが、隊長の喉元へ刃を伸ばした。
その切っ先が、止まる。
隊長の剣先が、相手の胸元に触れていた。
「……退け」
低い声だった。
たったそれだけで、男の顔色が変わる。
五人が引いた。
誰も命令していない。
それでも、下がった。
「……すげえ」
思わず漏れる。
強いとか、そういう話じゃない。
この人が立っているだけで、敵の勢いが鈍る。
それが、本物の将ってやつか。
だが。
敵は止まらなかった。
回廊の上。
白柱の陰。
門の左右。
黒装束が次々と現れる。
十。
十五。
まだ増える。
兵たちの顔が強ばる。
「押されるぞ!」
誰かが叫ぶ。
実際、列は揺れていた。
一枚盾が下がれば、そこから崩れる。
「列を保て」
ケッヒル隊長が言う。
声は大きくない。
だが、全員に届いた。
「前だけを見るな」
兵たちの目が上がる。
「隣を見ろ」
短い。
それだけだった。
盾が寄る。
槍の穂先が揃う。
崩れかけていた列が、ゆっくりと戻っていく。
「……立て直した」
リシェルが息を呑む。
「隊長がいるだけで、かよ」
グリードが笑う。
笑っているが、目は本気だった。
その時だった。
門前の空気が、ふっと冷える。
人影が一つ、敵列の奥から歩いてくる。
黒い外套。
細く長い剣。
外門でシンを押した男だった。
兵が、道を空ける。
味方のはずの黒装束まで、距離を取っていた。
「……格が違うな」
レオンが小さく言う。
その横で、シンが前へ出る。
無言。
だが、その背中がすべてを語っていた。
この場で、あれを止めるのは自分だと。
黒外套の男が笑う。
「また会ったな」
シンは答えない。
剣を静かに構える。
二人の間の空気が張りつめる。
その圧だけで、周囲の兵が下がった。
「エイゼン!」
レオンが叫ぶ。
振り向く。
「右列が崩れる! 埋めろ!」
見れば、盾兵が一人倒れている。
そこへ敵が流れ込みかけていた。
「無茶言うな!」
叫び返しながら走る。
でも。
足はもう動いていた。
間に合え。
石畳を蹴る。
敵の刃が、兵へ落ちる。
踏み込む。
ズラす。
刃を擦らせる。
「――フィネア!!」
斜め下から、一気に斬り上げる。
ザンッ――!!
敵の体勢が浮く。
その隙に、盾兵が入る。
列が閉じる。
槍が前へ揃う。
「埋まった!」
兵の声が上がる。
初めてだった。
俺の一撃で、戦線が繋がったのは。
息が熱い。
見える。
少しだけ。
戦い方が。
その時。
ギィンッ――!!
広場の中央で、火花が弾けた。
シンと黒外套。
二人の剣がぶつかっている。
石畳が割れ、白い欠片が跳ねた。
シンの足が、半歩下がる。
やはり、押される。
それでも、剣は揺れない。
黒外套の男は、まだ笑っていた。
「いい目になったな、若造」
その視線が、一瞬だけこっちを向く。
背筋が冷える。
鐘が、再び鳴った。
長く。
重く。
王城全体を震わせる音だった。
息を吐く。
めんどくせえ。
でも。
ここからが、本番だ。
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