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7:祭りの雰囲気に当てられる少年。初めての演劇を見る

 俺と親方が、草刈りよりも退屈なレンガを敷く作業を続けた一週間後、祭りの当日になった。

 俺の仕事は、祭りと言うこともあって休みになった。


「俺、祭りに行ってくるよ」


 家の玄関で靴を履いて、俺一人外に出る。

 これまでも、村の祭りや都の祭りに何回も参加しているが、大教会が主催する祭りは俺の人生で初めてのことだった。どんなことをするのか分からないということもあって、結構楽しみにしている。


「この前、セイが天使に成れるって言ってたし……天使のお披露目会みたいな感じになるのかな」


 祭りの内容を考えながら、都に続く道を歩いて行く。

 草原の中を歩いていると、都の方から風が抜けていく。その風はほんのりの甘い香りや肉を焼いた臭いを漂わせていた。


「そういえば、祭りの食べ物は何があるんだろうな~」


 昼ご飯を食べた直後だが、美味そうな香が鼻孔をくすぐって腹の虫が鳴きに鳴いていた。

 手で腹を押さえないと腹痛をはっきりと感じられるほど腹が空いていた。

 俺は、もうのんびり歩いていられずに都に向かって走り出していた。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 猛スピードで都の市場に着いた俺は、上りに上がった気分でどうにかなりそうだった。

 今日の市場は、祭りと言うこともあって一味も二味も違った。屋台の隣に屋台、そのまた隣に屋台。カラフルな屋台がいつもより凄く増えていて、両脇にある屋台の通り道には普段見ないような豪華なドレスを着た人や、いつも見る人がいた。


「ソーセージに、ホットドッグ……なんか棒状の美味そうなやつ!」


 歩きながらでも食べやすいモノや普段は食べられないような料理が多かった。俺は腹の虫に抵抗できずに目についた食べ物を買い食いしていた。草刈りをして貯めたお金の絶好の使いどころだった。

 見たこともないモノを売っている屋台に目を輝かせながら通りを歩いていると、俺の知っている店が目に入った。


「サンドウィッチ屋の兄ちゃん!」


 俺は、元気よく店に走っていって、カウンターに身を乗り出して立ち止まった。

 ほぼ友達と言っても過言ではない、サンドウィッチ屋の元気な店員の作るスペシャルメニューを食べたくてうずうずしていた。


「おぉ! 来てくれたか!」


 店員は俺を見るなり、活気のある声で俺を迎えてくれた。


「すげ~ぜ! お祭り!」


「そうだろ! そうだろ!」


 俺は祭りの活気に負けないくらいの勢いそのままに、金をカウンターに叩きつけて注文する。


「兄ちゃん! スペシャルデラックスサンドウィッチ一つ!」


「そう来ると思ったぜ! はいよ!」


 祭り限定のスペシャルメニューの提供は驚くほど速かった。俺が注文して一拍と待たずにカウンターに置かれていたのだ。


「はえ~! 流石だぜ!」


「お前が来ることは、日が昇るよりも明白だったからな! ガハハ!」


 元気な店員は、俺が思い通りに来てくれて嬉しかったのか豪快に笑っていた。


「ありがとよ!」


 俺は、早く祭りを周りたいという衝動を抑えられないまま、イチゴやオレンジを甘そうなクリームで包み込んだサンドウィッチを持って市場のその先に駆けだす。


「おい! 良いこと教えてやるよ!」


「良いこと?!」


 周りたかったが、良いことと言われちゃ立ち止まるしかない。


「広場で何やら演劇が行われるらしいぞ!」


「おいおいおい、マジかよ!」


 演劇がどういうものなのか、具体的には分からなかったが、ダチが言うんだ。面白いものに決まってる。早速、広場に走っていく。


「ゼェ…ゼェ…着いた~………」


 広場に着いたが、全力で走って行ったせいで体力の限界が来ていた。

 広場には、屋台で買ったのであろうボールやお面をかぶって遊ぶ子供やその保護者で賑わっていた。見た感じ、演劇とやらはまだ始まっていなさそうだった。


「き、休憩……」


 俺は休憩のために広場の隅にあるベンチに腰を下ろす。

 そして、俺の疲れを癒してくれる食材たちに感謝するのだ。


「いただきます!」


 休憩がてら、さっき買っておいたサンドウィッチを食べる。


「うめ~~~~!」


 サンドウィッチに挟まれた上品な甘さのクリームを、イチゴとオレンジの酸味がさらに引き立たせていて、甘いのに食べやすかった。


「これ、セイにも食ってほしいな」


 セイの分も買いに行こうとする。


「さぁさ! 演劇が始まります! 良かったら見ていって!」


 広場の中央にある噴水を挟んだ奥の方から、絶賛俺が気になっている言葉が耳に入る。

 俺の興味が、演劇の方に向けられる。セイの分は後ででも買えるでしょ。と楽観的な考えで、若い男の声がする方向に足を運ぶ。

 広場で遊んでいた多くの子供も、演劇が気になるのか、用意されていた椅子に腰かけて保護者の人と楽しそうに話していた。


「さぁ…今宵始まるはヒーローの物語。ヒーローを目指す少年少女は、まだ未熟で……苦悩、葛藤の末に悪を倒す。そんな物語」


 若い男の話す言葉には妙に引かれるものがあって、俺は大きなステージにくぎ付けになっていた。

 初めて見る演劇は凄く楽しめた。喋るぬいぐるみと出会った少年は、敵と戦い。仲間が増えて、敵と戦っていくが、敵にも事情があり戦えなくなる主人公たち。悪役の世界に連れてこられて、その悲惨な世界に絶句するが、困っている者たちを助ける主人公二人。主人公たちに感化された悪役の一人が話を持ち掛けて、協和を目指す。悪役のボスと、ぬいぐるみ側のボスを説得して協和へと繋がる。そんなストーリーだった。


「面白かったな~…」


 空にオレンジと藍色が混在する時間。演劇を見終わった俺は、余韻に浸ったままサンドウィッチ屋に足を運んでいた。


「兄ちゃん! もう一個スペシャルデラックスサンドウィッチくれ!」


 お金をカウンターに置きながら注文する。


「おっまた来てくれたのか! 嬉しいねぇ~!」


「そのサンドウィッチが美味しくて……友達にも、食べてもらいたいなって」


 俺の話を聞いた元気な店員が、顔をほころばせながら悪い顔をしていた。


「な、なんだよ」


「いや……ほらよ! できたぜ! サービスしとくぜ!」


 そう言ってカウンターに置かれたサンドウィッチは、イチゴとオレンジが俺の時よりもふんだんに追加されていて、めちゃくちゃボリュームがあって美味そうだった。

 俺はサンドウィッチを受け取って、去っていく。


「聖女様によろしくな~!」


 不意に元気な店員からセイの話題が出てつまづく。


「せ……聖女のことじゃね~よ!」


 照れ隠しでその言葉を吐き捨てるが、店員は俺を優しく見つめて笑っていた。

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