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2:食材に感謝を

 セイと別れた後、俺は昼飯を買いに市場に戻っていた。

 周りの店から漂う焼けたパンの匂いが俺の鼻孔をくすぐる。


「どれにしようかな~」


 飲食店だけじゃない、市場には服やアクセサリーなどの屋台も多く並んでいる。


「腹にたまるもの…たまるもの…」


 飲食店を一通り見て回るが、どれも小さいものを6個入りとかで売られているものが多かった。一撃で腹にたまるくらいパワフルな食べ物はまだ見つからなかった。


「あっ…」


 少し残念に思いながらも見て回っていると、インパクトのあるお店が目に入ってきた。


『超デカい!おいしい!安い!サンドウィッチ!!!』


 物凄く強気な言葉で謳っている店があった。俺はその店を見つけると、自然と足が向かっていた。


「おっ! いらっしゃい!」


「どうも」


「俺のサンドウィッチ食べてくかい? ボリュームあっておいしいぞ!」


 サンドウィッチ屋の店主は屈強そうな元気なおっさんだった。


「ハハッ。看板に書いてありましたもんね」


「おおよ! それが売りだからな!」


 俺は店にあるメニュー表を見て注文する。


「んじゃこの、スマイリービッグサンドウィッチ二つで」


「あいよ!」


 注文を聞いた店主は作り始める。その手際は見事なもので、腕が四本あると錯覚するぐらい速かった。


「お待ちどうさん!」


 勢いそのまま、店主が出来上がったばかりのクソデカサンドウィッチを手渡してくれた。

 二つもあって片手じゃ持てず、脇に抱えるしかなかった。


「ありがとな! 元気なおっさん!」


「また来いよ~!」


 俺は金を払って仕事場に意気揚々と帰る。


「遅いぞアンコ! どこで油売ってた⁈」


「いや~すまんすまん親方、良さげな食べ物見つからなかったんだよ」


 へらへら笑いながら、木陰で読書に耽っていた親方に二つあるクソデカサンドウィッチの内一つを渡す。


「それじゃ食うか」


「飯だ飯~!」


 俺は早速サンドウィッチを口に運んだが、待て、と親方に止められた。


「まずは『いただきます』だろ」


「いや~そんな面倒なことしなくていいでしょ」


 冗談半分で言うと、親方に頭をひっぱたかれた。めちゃくちゃ痛かった。

 そこまでムキになって叩かなくても良いのに!


「よかあねぇ! 食材に感謝しなきゃいけねぇだろうが!」


「くっそ。いて~よ! 力知らずが!」


「うるせぇ! お前がふざけたこと言わなきゃ避けられたことだろうがよ」


 ジンジンと痛む頭を押さえながら親方を睨むも、親方の言っていることが正論過ぎて何も言えなかった。


「おら、食うぞ」


「…へいよ」


 俺たちはクソデカサンドウィッチを膝上にのせてから、胸の前で4を一筆書きで書くように右手を動かす。それから、目を閉じて両手を合わせ、祈る。


「「いただきます」」


 祈ると、体がほんのり温かくなり、木陰は少しだけ薄くなる。


「食材に感謝するのは分かるんですけど、なんで祈ったら良い気分になるんすかね」


「さあな。きっとこの食材たちに思いが伝わってるんだろ」


 親方の言ったことは妙に納得が言った。俺だって誰かに感謝されると良い気分になるし、良いことをしても良い気分になるからだ。心が温まる。

 そんな俺の気持ちにこたえるかのように、温かい風が雑草を揺らしながら、俺の肌を撫でる。鼻孔を抜けるほのかな草どもの臭い。

 俺と親方は、踊る草木や市場で賑わう人たちを遠目に見ながらクソデカサンドウィッチを食うのだった。

 日が落ちて空が夕焼け色になった時間。


「アンコ! 今日はここまでだ!」


「やっと終わったあああああ」


 中腰でずっと作業しているせいで、足腰がガタガタだった。

 今日の仕事が終わった解放感で、ズボンが土に汚れることをなんて気にせずに尻もちをつく。


「アンコ、お前若いのに体力ねぇな~」


「う、うるせぇ。そういう親方は足腰どうなんだよ」


「もちろん……くそ痛い」


「やっぱそうじゃね~かよ」


 ガハハ。と今日一日の仕事を終わらせた俺たちは盛大に笑い合うのだった。

 一日中草刈りしていてもまだ生い茂っている草木に腹は立つが、こうやって苦しみを共有して笑い飛ばすときがたまらなく楽しい。

 さて、と。ほとんどない荷物を整えて、俺たちは帰路に就く。

 親方と一緒に帰る途中、市場の近くにある掲示板が目に入る。いつもは祭りの宣伝や、求人票、『祈りましょう』とかの謳い文句が書かれたポスターが貼られているが、今日は一味違う紙が貼りつけられていた。


「わ…ワンテド…?」


 掲示板には『WANTED』の文字と、その下に似顔絵があった指名手配書だった。絵の下には、『捕らえたものには神の恩恵を』とか書かれていた。


「ウォンテッドだ。お前それぐらいは知っておいた方が良いぞ」


「へいへい…わーったよ。にしても捕まえたら神の恩恵だけかよ……」


 金がもらえたらやる気でるのに。と言おうとしたところで親方に頭をぶたれた。


「いってーよ! 今日で二度目だぞ!」


「またお前がふざけたことを言うと思ったからだ」


「んだよ。ふざけたことって…」


 全く納得いっていなかった。神の恩恵とか言う方が俺はふざけていると思った。金ならちゃんと見えて、使えて…実感があるのに、恩恵とか言う見えないし実感もしにくいモノの方が良いとか理解できなかった。


「あのなぁ……俺は神の恩恵を得たことないんだが。俺の友達のそのまた友達が神の恩恵を得て、何もかもが絶好調になったってのを聞いたことがある」


「ほとんど他人じゃね~かよ。信じられるか! そんな話」


 親方はため息をつきながら、指名手配書の絵に描かれたオレンジ色の髪をした女を見る。


「恩恵とか得られるけどよ……お前は捕まえようとすんなよ」


「…? なんでだよ」


「こういう紙を貼りだされる奴は大体凶悪犯だ。お前はまだ若い。未来がある。捕まえようとして、返り討ちにあったら元も子もねぇ」


 そういう親方は、やさしい目つきをしていて、俺のヒリヒリと痛む頭を撫でてくれた。撫でる手は固くて心地よくはなかったが、悪い気はしなかった。


「じゃあな、アンコ。気を付けて帰るんだぞ」


「言われなくても。じゃあな、親方」


「「また明日」」


 俺と親方の家は別々の方向にあるため、ここでお別れだ。

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