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9:巻き込まれる少年

 ヒローナは、落ち着いた声で自己紹介をし、続ける。


「祈れはしないけれど、人の役には立ちたいんだ」


 淡々と話す声の中には、自分はそう成りたいという願いが込められている気がした。

 祈れない人は初めて見たが、彼女の願いに『強いな』と感じた。仕事が怠いという理由でよくサボっている俺には眩しかった。


「俺の名前は、アンコ・ヒジリ。言っとくが、まだ信用したわけじゃないぞ」


 憧れはあるが、それで彼女を気に入るかは話が別だ。いきなり俺をさらった怒りが消えたわけじゃない。

 心の中でも反抗しつつ、ヒローナの手に俺の手を置く。

 俺の手を握る彼女の手は、女の手とは思えないほどしっかりしていた。その手は農夫みたいに、毎日何かしらのモノを強く握り続けている人の手みたいに柔らかさは無く、しっかりと握ってくれる安心感があった。


「あんた、農家の人か?」


 注意深く彼女の服に何かないか見ていると、グリップの一部分が見えた。グリップは大部分がマントに隠れていて、隅々まで見てようやく気付いた。


「ふっ。違うよ。役に立ちたくて、頑張っていたらこうなっただけさ」


 ヒローナは軽々と言うのだった。


「おっと。話に夢中になってしまった。急ぐぞ!」


 彼女は俺の手を握ったまま、教会に向かって走り出すのだった。

 彼女の足の速さに、俺の足がついてこられるはずもなく、ほぼ引きずられていたが全力で走る。


「急ぐって言っても、何に急いでんだよ!」


 俺は当然の疑問を投げつけた。ヒローナは何か目的があるのだろうが、何も知らない俺は振り回されている感じがするからだ。


「まぁ、行けばわかるさ。ヒントとしては聖女についてだ」


「な…教えてくんないのかよ」


 シッ。と言ってヒローナは俺の口を手でふさいだ。

 俺たちは庭を抜けて、大教会の裏に来ていた。茂みから顔を出すと、近くには軽装備の軍の二人組と、出入り口の扉が見えた。


「ふん。情報通りだな」


ふんふん(情報)?」


 彼女は集中しているのか、茂みから出ている俺の顔を引っ込めさせた。


ふん(んだよ)…」


 俺が見たところまでだが、軍の二人組は互いの死角を補う様に扉付近を歩いていた。正直なところ、その扉に入るのは無理だと思った。いくらヒローナが化け物じみた身体能力をしていたとしても、訓練された軍の人二人には勝てないからだ。


「今のうちに眠ってもらっておいた方が良いよな…でも、荒事は避けろとか言われているしなぁ…」


 ヒローナが何か呟いた。

 彼女は、俺の口を塞いでいた手をどけると、どこかに移動しようとしていた。


「君はここで待ってて」


 まさか。と俺は嫌な予感がしていた。


「お、お前…あいつ等と戦うつもりか?」


 俺は小声で言って、彼女を冷静に諭す。が、彼女は闇夜に消えて行ってしまった。

 暗闇の夜、大教会に不法に侵入して茂みに隠れる俺。もうおうちに帰りたかった。

 萎えると同時に、あの女にドン引きしていた。聖女に会うためだけに、大教会に不法侵入して、衛兵まで倒そうとするか普通…。


「であるからして―—」


 お家に帰りたかったが見つかるわけにもいかず、身動きの取れない俺はヒローナが何とかするまで、まだまだ続いていたローブを羽織った爺さんのありがたい言葉を聞くことにした。


「儀式の準備が整いましたら、祈りましょう。聖女に。女神に!」


 祈るのか? 聖女はみんなに祈るものじゃないのか…?

 セイとは真逆のことをのたまう大教会の中でも偉そうな爺さん。


「ぐわぁ!」


「だ、誰だお前は!?」


 直後、ドン。と鈍い音が鳴った。聞こえる衛兵の悲痛な声。

 茂みに隠れっぱなしの俺は何が起きたのか分からなかった。

 俺は恐る恐る茂みから顔を出す。

 視界に映る光景は、力なく倒れている二人と俺に近づく黒い影。


「お、お前まさか…殺したのか? 侵入するためだけに…」


 俺は怖かった。訓練された衛兵を不意打ちとはいえ倒せて、目的のためなら障害となる者も殺す彼女が。


「何か勘違いしていないか? 彼らには眠ってもらっただけだよ」


「へ?」


 俺の頭は真っ白で、どういう事なのか分からなかった。


「まぁまぁ。誤解を解くためにも、あの二人を隠すのを手伝ってくれ」


「嫌だね」


 死んでいるかもしれない人を隠すのは、彼女の犯行を手伝う気がして気が進まなかった。


「まぁ…そうか。なら手伝わなくて良い。でも、誤解されたままは困るから近くで、君の目で確かめてほしい」


「それなら…まぁ……」


 その妥協案はまだ自分を許せる範囲内で、仕方なしに倒れる二人の衛兵の近くに、内心ビクつきながら行く。ヒローナの言う通り気絶しているだけならまだ良いが、もし死んでいたらと思うと怖くて足取りはおぼつかなかった。


「寝てる…だけか」


 二人の衛兵の近くでしゃがんで、衛兵の鼻に指を近づけると、指に鼻息が当たった。衛兵はバカそうな顔を浮かべて寝ていた。


「な? 眠ってもらっているだけだろ?」


「そうだな」


 誤解が解けて少し上機嫌そうな彼女は、衛兵を引きずって茂みの中に隠す。


「それでは、大教会の中へと乗り込もうじゃないか」

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