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1:サボり魔少年、幼馴染聖女に話しかける!

 とある宗教国家の木とレンガでできた都で、住民の目を釘付けにする女の子が歩いていた。


「わぁ…聖女様だ!」


「ほんとだ! 可愛い!」


 都の市場の方から女の子たちの黄色い声が聞こえる。その声は憧れの存在へ向けられる声だった。他にも、女の子に続いて多くの人々が、「聖女様」「聖女様」と呼ぶ声が聞こえる。


「聖女…か」


 そう呟く俺——アンコ・ヒジリは、街の中心から離れたところにある木陰で休憩していた。

 街中まちなかで華やかに歩いている女の子は、幼馴染のセイ・コンケイト。俺と同じ15歳だが、あいつは聖女と呼ばれている。


「おい、アンコ!いつまで休憩してんだ!さっさと働け!」


 今は昼時、草刈りとか言うしょうもない仕事に飽き飽きして親方に嘘を言って休んでいた。

 しゃがんで作業するから腰は痛いわ、終わる気配がしないわでやる気がなかったのだ。


「チッ。へいへい、あともうちょっとしたら働くよ」


「ちょっとってどのくらいだ!それもう今日で5回ぐらい聞いたぞ!」


「やべ…」


 ボオっと家々の隙間から見える市場の様子を見ている間に親方がしびれを切らしたみたいだ。このままじゃマジでボコボコにされる。

 まぁ、ずっと真面目に草刈りしてるのに、仲間が長いこと休んでいたら怒りたくなる気持ちも分かる。


「で、でもよ。親方、今はこんなにお天道様が俺たちを見守ってくれている!親方も昼ご飯でも食べないか?」


 親方のガチ説教は聞きたくないし、地味な草刈りの仕事もしたくなくて誤魔化す。

 両手を広げて、天を仰ぐような大げさな身振りをするが、いけるか…?


「お前ってやつは…いつもいつも、よくそんな言い訳が思いつくもんだな」


 親方は右手で頭を押さえて呆れていた。


「…でもまぁ、良いだろう。今から休み時間だ」


「ぃやったあああ!」


 休み時間が増えるのが嬉しくて、俺は飛び跳ねた。

 親方は真面目で、休み時間とか仕事が終わる時間をきっちりと守る。親方のその性格を気に入って、俺はまだこの仕事を続けられているのかもしれない。


「アンコ!この金で俺とお前の昼飯買ってこい」


「喜んで!」


 俺は親方が懐から出した金の入った小袋を受け取って、市場へと駆けだした。

 俺はこの時間が一番好きだった。親方のパシりになるのが嬉しいんじゃない。小さいころに遠い存在になったセイに会えるからだ。


「あいつ…聖女様が街に出向くと、いつも休んでるよな」


 草木が生え散らかしている土地を抜け、住宅街を抜け、俺は意気揚々と市場に着いた。

 市場はいつも通り多くの買い物客で賑わっていた。

 だが、多くの買い物客や店員の中で、一際注目される人物が市場を歩いている。その人の名前は聖女——セイ・コンケイト。俺の幼馴染で、髪型がクリーム色のショートで、足首を隠すほど丈の長い修道服を着た皆の聖女だ。


「聖女様、こんにちわ」

「聖女様! これサービスだぜ!!!」

「聖女様ぁ! この花冠、聖女様のために作ったんだぁ!」


 豪華な服を着た貴婦人や店主、小さな女の子。市場の人たちから…国中の人たちから愛される存在が、お天道様もぶっ倒れちまいそうなくらい眩しい笑顔であらゆる人たちに対応していた。


「セイ!」


「…っ!アン!」


 俺の声が遠くからでも届いたのかセイが振り返って手を振ってくれた。

 俺もその反応に応えるようにセイに駆け寄っていく。


「おい、そこのお前!止まれ!」


 聖女と俺の間に、鎧に身を包んだ一人の巨漢の護衛が割り込んだ。奴の着ている鎧はこの国の軍が採用しているもので、護衛だとすぐに分かった。

 目の前の障害に、俺は立ち止まる。


「な、なんだよ。護衛さんよ。俺はただセイと世間話を―」


「ボロボロの服の奴が、走ってきたら誰だって止めるだろ」


「うっ。確かに」


 今の俺の服は、確かに汚かった。でもそれは草刈りをしていたせいだ。普段はこんな、土汚れにまみれていない。


「ガレン。許してあげてください」


「しかし聖女様!」


「ガレン。彼は私の友達です。お話をするぐらいなら良いじゃありませんか」


「…わかりました」


 セイの説得で、ガレンと言う護衛は引き下がる。


「さあ、アン。場所を変えましょ♪」


 そう言うセイの後について行って、市場に隣接する広場に来ていた。広場には追いかけっこする子供や大道芸を披露する芸人と様々な人がいた。


「さあ、座りましょ」


「おう」


 セイに促されて、広場の端にあるベンチに座る。

 なんか、デートっぽくて気分が高揚する。後ろに護衛さえいなければもっと良かったのに。


「こうして二人で話すもの久しぶりだね」


「最近セイを見かけなくて……会えなかったもんな」


 俺らは幼馴染だが、会う機会は少なかった。その理由は、幼少期…セイが六歳になるころに、都の偉い連中がセイを聖女として連れ去っていったからだ。

 その日以来、毎日のように一緒に遊んでいた俺たちは離れ離れになってしまった。

 今日みたいにセイが都に出てこない限り話す機会も遊ぶ機会もない。


「何か忙しいのか? 俺と違って」


「うん。そうなんだよね…」


 彼女は一瞬曇った表情をした。聖女がどんな仕事をするのか、全く想像もできない俺には、苦労も、共感してあげることもできない。

 セイが抱え込まないように、やさしく言う。


「どうしたんだ、俺に言ってみ。偶にしか会えなくても、俺らは友達だろ」


 苦労が分からなくても、共感できなくても、分かってあげたかった。

 視界端に映る護衛の鎧、聖女がいることに気づきつつある市民。言いづらいこともあるのかもしれない。


「私、勉強できなくってさー。アンは掛け算とか割り算とかできる? やったことないかな? あれすごく難しいんだよ」


「掛け…算…?」


 突然俺の知らない単語を、セイは口にした。


「おバカな聖女とかお笑いもんだよねー。ウフフ」


「え~聖女様おバカなの」


 いつの間にか近くにいた少年が口走る。


「こら! 坊主。聖女様に向かってなんて失礼なことを!」


 後ろに立っていた護衛が、少年クソガキをつまみ上げて威圧していた。

 傍から見ていた俺でも震えあがりそうなほどの護衛の大人げなさ。案の定、つままれた少年は涙目になっていた。


「ガレン……その子を放してあげてください」


 セイはジト目で護衛を見ながら、呆れた声で言った。


「ですが聖女様」


「ですがも何もありません。ただの冗談ではありませんか」


「す、すみません…」


 護衛は肩をすくめて、つまみ上げていた少年をそっと地面に降ろす。


「怖かったよ~! ママ~~!」


 よほど怖かったのだろう。解放された少年は、目元を赤くはらしながら風のように去っていった。


「聖女の印象を下げるようなことを言った私にも非はありましたが……ガレン、やりすぎです。あなたは騎士としては頼りになりますが、警戒しすぎです。もう少し肩の力を抜いてください。」


「肝に銘じます!」


 セイはため息をついて、ゆっくりと立ち上がる。


「すみません、アン。もう時間が来てしまって…私たちは大教会に戻らなければいけません」


「…そうか。もっと話していたいけど……俺も親方の昼飯買わなきゃだし、仕方ないか」


「そうですね」


 セイは、俺に小さく手を振ってから、護衛を連れて大教会に戻っていく。


「勉強! 頑張れよ~!」


 小柄でも、女の子でも胸を張って頑張るセイに、俺は手を大きく振って見送った。

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