水を求め、乾いたその先に
ミーン ミン、ミーン
ジリジリと照りつける太陽。
地球温暖化が昨今言われているが、今年の夏は特に暑い気がする。
その日は35度以上の猛暑日の予想となっておりその予報通り、物凄く暑かった。
「はぁ、はぁっ」
走ってもいないのに息が上がるような暑さ。
スカートもなびかないほど、風もなくむせ返るような熱気が立ちこめる。
「ただいま〜」
私は玄関の戸を開けながら、顔をつたう汗を拭う。
両親はお店の方かな、と思いつつ靴を脱ぐ。
うちは商店街の中にある魚屋を営んでおり、親は店で接客中なのであろう。
表側の商店の入り口ではなく、裏にある住居用の玄関から帰ったのでお店の喧騒は微かに聞こえるものの、住居部分は静まり返っている。
お昼過ぎだが、灯りのない部屋は暗く陰っている。
とはいえ窓から差し込む日差しのおかげか、部屋の様子は確認できる。
強い日差しのせいで部屋の影がより一層濃く見えるが、私は汗を拭いながら部屋の電気もつけずに台所へと向かった。
ギシリ、ギシリ
築年数が高いせいか、歩く音が強く響き渡る。
台所に着いた私は辺りを見回す。
誰も居ない。
両親の他に姉と弟がいるが、二人とも出かけているようだ。
激しく喉が渇いていた私は水を求め、コップをダイニングテーブルの上に置いた。
この気温だ、恐らく水道水も生ぬるい温度となっていることは容易に想像出来る。
そう思い私は冷蔵庫を開ける。
暑い日の飲み物と言えばこれであろう。
私は麦茶を冷蔵庫から取り出しコップへと注ぐ。
……この時、私は油断していたのか暑さで頭が回らなかったのか
どちらにせよ慎重に行動すべきであった。
今となってはもう遅いが、と後悔の念が今でもつきまとうほどの恐怖を味わうことになる。
コップに波々と注がれた麦茶を躊躇うことなく私はゴクゴクと飲み干した。
ぷふぁ〜、美味しい。と脳が先回りして口に出そうとした瞬間!
「ゔあ゛あ゛あ゛ああああい゛ぁっ」
わたしの口から出たのはこの世の者とは思えないほどの、悲鳴だった。
頭の処理が追いつかず、目が虚ろになる。
なんだ、私は何を飲んだ?
「ゔあ゛あ゛あぁ」
再び私が声を発した瞬間、鼻を抜ける何かの匂いを感じた。
それと同時に私は膝から崩れ落ちる。
これは……。
これは……シイタケ!?
強烈な匂いの奥の方に、僅かに感じ取れた香り。
崩れ落ちた膝を残った余力で無理矢理立ち上がり、先程注いだ茶色い液体の入った容器を凝視する。
確かに麦茶の容器だが……、
私は鼻を近づけ、その疑念が確信へと変わる。
シイタケの香りがする!?
そう!麦茶の容器に入っていたのは干し椎茸の戻し汁。
私が麦茶と思って一気に飲んでしまったのは
干し椎茸の戻し汁。
私は自身の鼻と口から溢れ出るシイタケの香りを強制的に嗅がされながら。
涙した。
「なんでよぉ〜〜〜〜」
それは母親が料理用に使おうと思って仕込んでいた干し椎茸の戻し汁であった。
それ以来私はシイタケの匂いがトラウマとなった
とてもとても恐ろしい話である。