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第四章(2):サキュバス騒動と推し魔王の真意


着替えの部屋で、妖艶な魔物の女に服を着せられながら、なんだか複雑な気分になっていたら、外からルシアン様の声が聞こえてきた。


心臓がドキンと跳ねる。



「セラフィナ、着替え終わったか?」



すると、あの女の魔物が、とびきり甘ったるい声で応える。


「ええ、魔王様。セラフィナ様のご用意ができましたわ。まあ、とってもおきれいで…」


まるで蜂蜜がとろけるような、媚びた声だ。



歯の浮くようなセリフをサラッと言ってのけるあたり、さすがプロだ!


顔には満面の笑みを浮かべているけど、その瞳の奥にはギラギラしたものが隠れているのが、私には見えた。



でも、ルシアン様は全く動じていない。



「もう下がっていい」



ルシアン様がそう言うと、女の魔物はなんだか名残惜しそうに、まるで金魚鉢から出たくない金魚みたいに、なかなか出ていかない。


その長い指が、私の新しいドレスの裾を未練がましく撫でたのが分かった。



すると、痺れを切らしたゼフィルスが、ビシッと低い声で命令した。



「もう下がれ」



ゼフィルスの一言に、女の魔物はピクッと体を震わせて、悔しそうに唇を噛みしめ、しぶしぶ部屋を出ていった。



よし、ナイスゼフィルス!


ファインプレーだよ!



そして、ゼフィルスも「しばしごゆっくりと。何か用があればお呼びください」と、深々と頭を下げて部屋から出ていった。





***





ルシアン様と二人きりになった途端、緊張感が一気に緩んで、ドッと疲れが出た。


肩の力が抜けるのが自分でも分かった。



ルシアン様は、私の新しい衣装をじっと見つめて、その蒼い瞳を細めながら「綺麗だ」と優しく言ってくれた。


「セラフィナ、よく似合っている」



私が着ていたのは、漆黒のシルク生地に深紅の刺繍が施された、シンプルなロングドレスだった。


首元は少し詰まっているけど、胸元はゆるやかなVネックで、鎖骨がちらりと見えるデザイン。


いつもポニーテールにしている私の赤い髪は、今日はすとんと背中に降りていて、その漆黒のドレスによく映えていた。



彼の視線が、私を包み込むように優しくて、心が温かくなる。



でも、私はさっきの妖艶な魔物の女のことが気になって、ルシアン様にそれとなく聞いてみたんだ。


「あの……ルシアン様。さっきの女の方、すごく綺麗でしたね……」



わざとらしくないように、さりげなく尋ねたつもりだったんだけど、ルシアン様は全く動じることなく、超ストレートに答えた。



「ああ、あの手の女の魔物は、色目を使ってくる」



あまりにも率直な答えに、逆に私が驚いちゃったよ!



え、ルシアン様、そんなこと言っちゃっていいの!?


まるで「ああ、よくあることだ」と言わんばかりの態度で、彼の表情は少しも乱れていない。



「あやつらは、淫魔(サキュバス)の類だからな」



サキュバス!?


ってことは、あの美人さんはそういう魔物だったの!?



私の頭の中で、いろんな想像がぐるぐる駆け巡る。


ルシアン様のことだから、強硬手段に出る魔物もいたんじゃないかって、心配でたまらなくなる。


魔王様相手とはいえ、そういう系ってしつこいんじゃないの……?



続けてルシアン様が、



「あの女はサキュバスとしての能力は低い。魔界の女の中では一番害がない奴だと思い、セラフィナの世話を頼んだ。だが、間違いだったな。セラフィナ、世話係がいなくとも大丈夫か?」



「そんな、大丈夫です!いつも自分でやっていますから。それより、ルシアン様、大丈夫だったんですか!?能力が低いとはいえ、サキュバスですよ!?」


私が思わず前のめりになって聞くと、ルシアン様は涼しい顔で答えた。



「俺は、精神力が強い。さらに言えば、魔王だ。だから大丈夫だ」



すごい!



さすが私の推し!



どんな誘惑にも屈しないなんて、鋼の精神力だ!



彼の瞳の奥には、揺るぎない意思の光が宿る。



でも、それだけじゃなくて……ルシアン様は私の右手の薬指に輝く漆黒の指輪をそっと撫でながら、ニヤリと笑ったんだ。



その笑みは、まるで悪戯を企む子供のようで、ちょっとだけ人間味が感じられた。



「それに……宝珠の光でお前が人間界で楽しそうに推し活をしているのが見えていたからな。そんな魔物など興味が湧くはずがない。早くお前に会いたいとばかり思っていた」



きゅーーーーーん!!!



まさかの推し活バレからの、愛の告白!?


ルシアン様、どんだけ私に会いたかったの!?


嬉しすぎて、またしても私のオタク魂が大爆発!


顔がカッと熱くなるのが分かる。


もう、こんなこと言われちゃったら、どこまでもついて行くしかないじゃないか!


彼の言葉が、私の心臓に直接語りかけるように響いて、鼓動が速くなる。

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