第三章(1):いざ魔界へ!魔王と勇者の珍道中!?
「人間界のことは、お前たちに任せる。無茶はするなよ」
ルシアン様がアルドロンさんたちに声をかけると、アルドロンさんは静かに頷いた。
その瞳には、深い信頼と、私たちへの心配が混じってる。
リリアさんが隣で可愛らしく小さく手を振ってくれた。
カスパール君は腕組みしながらも、ちょっと不貞腐れた顔で「せいぜいとっとと帰ってこいよな。…ったく、俺だって行きたかったのに」とぶつぶつ言ってる。
リルはアルドロンさんの足元にちょこんと座って、小さな手を一生懸命振っていた。
「ルシアン様、セラフィナお姉ちゃん、いってらっしゃい!」と可愛らしい声で叫ぶ。
ローゼリアちゃんは私の手をギュッと握って「セラフィナちゃん、寂しくなったら連絡してね!美味しいスイーツ送るから!」と、まるで旅行にでも行くかのようなノリ。
いや、魔界だよ!
ちょっと寂しいけど、またすぐ会えるよね!
***
例の異界へのゲートへ到着。
あー、このゲート、なんか既視感…!
以前、このゲート付近に近づいたとき、急に体力を奪われてグッタリした経験を思い出したんだ。
あの時は死ぬかと思ったから、今回もちょっと覚悟してたんだけど…。
「セラフィナ、ちゃんと指輪はつけているか?」
「もちろんです!!」
ルシアン様がくれた、あの漆黒の宝珠をあしらった指輪が右手の薬指でキラリと光る。
それに、ルシアン様とお揃いの漆黒のマントも羽織ってる。
これで瘴気対策はバッチリ!
完璧な防御だ!
「準備はよろしいですか?」
ゼフィルスがルシアン様と私に尋ねる。
私は、二人を見てうなずいた。
「さあ、行くぞ」
ルシアン様が重厚な扉のようなゲートに手をかざすと、扉はまるで魔法のように静かに開いた。
そして、ルシアン様は私のことを自分のマントにくるんで、ぎゅっと抱きしめてくれた!
「魔界への移動は、少々荒れる。俺が守る」
きゃー!
推しに抱きしめられながら異界突入とか、ご褒美すぎる!
この密着感、最高!
ルシアン様の胸板、硬くて安心感が半端ない!
これで魔界の瘴気もへっちゃらだね!
私の顔はきっと、にやけっぱなしだっただろうな。
***
ちょっとグルグルしたけど、ルシアン様が抱きしめてくれていたから大丈夫。
むしろもう終わり?
ってあっという間だった。
ゲートをくぐると、意外にも灯りがちらほらあって明るいじゃないか!
もっと何もない真っ暗な空間だと思ってたのに…。
まるで夜景みたいでちょっと幻想的。
「あれ?ルシアン様、もっと真っ暗な場所だと思ってました!」
私が素直に言うと、ルシアン様は遠い目をして呟いた。
「俺が最初にとばされてきたときは、暗闇だった」
…え?
もしかして、ルシアン様、最初に飛ばされてきたとき、一人で暗くて何も無い場所で、ずっと耐えてたの!?
それって、ものすごく孤独で、心細かったんじゃない!?
私の推し、苦労しすぎだろ!
胸が締め付けられる…!
思わずウルウルしちゃった私を見て、ルシアン様は私の頭を優しく撫でてくれた。
彼の大きな手が、私の髪をそっと梳く。
「今は、みんながいる。そして、お前がいる」
ルシアン様の指にはめられた漆黒の宝珠と、私の聖剣に嵌め込まれた深紅の宝珠が、まるで呼応し合うように、人間界にいるみんなの方向をぼんやりと照らしているのが見えた。
ルシアン様は、その輝きをじっと見つめて言ったんだ。
「…俺はこの暗闇にとばされてきた、だが、お前たちが宝珠を持っていてくれたおかげで、光が見えたんだ」
ああ、尊い!
この一言で、私の涙腺は完全に崩壊。
こんな優しい言葉、反則だよ…!
この人を守るためなら、どこへでも行く!
どんな困難だって乗り越えてみせる!