第十三章(1):表彰式、そしてカイの願い
聖剣を置き、試合放棄を宣言したアリーナは、信じられないほどの静寂に包まれていた。
私の行動は、観客だけでなく、ルシアン様やゼフィルスにとっても予想外のことだっただろう。
でも、私の心には、カスパール君のルシアン様への純粋な願いを汲み取った、確固たる決意があったんだ。
アリーナの床に置かれた聖剣が、私の決意を静かに物語っていた。
私の試合放棄により、カイの優勝が決まった。
表彰式のため、アリーナ中央にルシアン様が姿を現す。
漆黒のマントを翻し、一歩一歩、玉座から表彰台へと向かう彼の姿は、まさに魔王そのものだった。
私はその姿を見つけると、吸い寄せられるように彼の元へと駆け寄った。
「ルシアン様、ごめんなさい、勝手なことを…」
震える声で口にした私の言葉は、アリーナの静けさに吸い込まれそうだった。
顔を上げると、ルシアン様は困惑や怒りではなく、ただ優しく私を見つめ、そっと微笑んでくれた。
「セラフィナ、よくやった。大丈夫。あとは俺に任せろ」
彼の温かい手が私の頭をポン、と軽く叩いた。
その瞬間、私の胸の奥に温かい光が灯り、張り詰めていた緊張が一気に溶けていくのを感じた。
ルシアン様は、私の選択を理解し、受け入れてくれたのだ。
その事実に、私はただただ安堵した。
表彰式が始まった。
第3位は、本来ならクラーケン・ロードとゼフィルスの対戦で決まるはずだった。
しかし、クラーケン・ロードはカイに粉々にされてしまい、肉体が再生するまで数日かかるとのことで、ゼフィルスが不戦勝で第3位となった。
第2位は私、セラフィナ。
そして、栄えある優勝はカイだ。
「優勝者は次期魔王候補となること、そして優勝賞品はこの魔界で手に入るものなら何でも好きなものを一つ!」
そのアナウンスが響く中、カイは表彰台に立ちルシアン様をまっすぐに見据え、その金色の瞳に冷たい光を宿したまま言い放った。
彼の声はアリーナ全体に響き渡り、微かな反響を残す。
「魔王の座には興味がない。好きなものを一つというなら、ルシアンと戦わせろ」
アリーナに再び、張り詰めた緊張が走る。
水を打ったように静まり返る観客たち。
ルシアン様は、カイの挑戦的な瞳を正面から受け止め、その蒼い瞳の奥に深い悲しみと、しかし揺るぎない覚悟を宿した。
静かに、だがアリーナの隅々まで響き渡るような、確かな声で答える。
「わかった。お前の願い通り戦おう」
そして、ルシアン様の瞳に深い愛情と悲しみが混じり合った複雑な光が宿る。
「カイ。いや、カスパール。お前の気持ち、しかと受け止めよう」




