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転生したら推しが魔王様になってた件~②魔界に行っても推し活は健在です!  作者: 銀文鳥


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第九章(3):ルシアン様の“純粋さ”


ルシアン様の腕の中で、私は少しだけ身体を離し、彼の顔を見上げた。彼の蒼い瞳が、私を優しく見つめ返している。



「ルシアン様…あの、率直に聞いてもいいですか?」



私の声に、ルシアン様は困惑したように首を傾げた。


彼の眉間に、小さな皺が寄っている。



私は、少しだけ躊躇しながら、ずっと心に引っかかっていた疑問をぶつけた。



「ルシアン様は、いつも私を抱きしめてくれたり、手を繋いでくれたりしますよね。でも、…その、それ以上のことをしてこないのは…もしかして、私の魅力がないからでしょうか?」



私の言葉に、ルシアン様は信じられないものを見るように、大きく目を見開いた。



その驚き方は、まるで初めて聞く言葉であるかのように純粋で、私が想像していた以上だった。


彼の口元が、わずかに開いたまま固まっている。



「それ以上のこと…?セラフィナ、それ以上のこととは一体何だ?俺にとって、相手を抱きしめ、相手の髪に顔をうずめる行為が、最も深い愛情を示す表現だと思っていたが…それ以上のことがあるのか?」



魔王ルシアン様の返答に、今度は私が驚きで固まってしまった。


まさか、彼が知らないなんて。頬が、カッと熱くなるのを感じる。



「ええ…知らない…ですか…?」



私の問いに、ルシアン様は困惑した表情で首を横に振った。


彼の漆黒の角が、微かに揺れる。



「俺は、ガイアの統制が厳しかった時代に生まれ育ち、思春期も勇者として生きてきた。ガイアは特に俺たち勇者に、一般の者以上に品行方正、清廉潔白であることを強く求めた。もし、お前の言う『それ以上の行為』があるのだとしても、俺は、そのような知識は一切持っていない」



ルシアン様の言葉に、私は呆然とした。


そんなこと、あるんだ…。



「俺だけではない。アルドロンも、カスパールも、他の勇者たちも皆、そのような知識はないはずだ」


私ははっとした。そういえば、アルドロンさんのところには子どもがいなかったな、と。


もちろん、夫婦だからといって、必ずしも子どもがいるとは限らない。


いろいろな形の夫婦があっていいはずだけど…



それに、ガイア様の統制が厳しくても、民間人たちは子どもを作って人口を維持していたはずだし、ヴェクスの後で人口は激減したけれど、それ以前はそれなりに人口が維持されていた。


勇者として生きてきたことが、彼らがそのような知識を持たない決定的理由だったのだろう。



彼らは、常に世界の危機に立ち向かい、私欲を捨てて戦い続けた。


その使命感と厳格な規範の中で、恋愛や異性との親密な関係を深める機会など、ほとんど皆無だったに違いない。



私自身の記憶としても、たしかに「セラフィナ」としては、その手の知識は持っていなかった。



この知識は、佐倉花としてのものだ。



でも、佐倉花時代だって、恋愛経験なんてなかった。


11歳でルシアン様に初恋をしてから、ずーっとルシアン様のことしか考えていなかったんだから。



それでも、漫画やアニメ、小説、それ以外にも、嫌でもそういう情報が耳に入ってくる世の中だったし、学校だって、友達が彼氏との話を赤裸々に聞かせてくれたりしたから、私としては、それなりの知識はあった。


(ああ、でも、ルシアン様にはとても言えないし、見せられないけど、いわゆる「薄い本」とかで、えありす先生の公式設定とは別に、ファンの人が描いてくれた二次創作で、ルシアン様のあんなことやこんなことが描いてあるのを読んだことがあるんだよな…。しかも、ルシアン様とカスパール君のそういう内容が多かったし…)


私は心の中で密かに冷や汗をかいた。


これは、絶対にルシアン様には言えない秘密だ。





ルシアン様は、私の困惑した表情を見て、さらに首を傾げた。



「セラフィナ、一体どうしたんだ?そんなに驚くことなのか?」


彼の純粋な問いかけに、私は思わず噴き出しそうになった。


まさか、こんなことで私が照れてしまうなんて。



でも、彼に教えるべきなのだろうか?


これはきっと、私から伝えるべきことだ。



「ええと…その、ルシアン様。それは、恋人同士が、お互いの愛情をより深く確かめ合うための…とても大切な行為なんです」


私は、顔を真っ赤にしながら、なんとか言葉を選んだ。



ルシアン様は、私の言葉を理解しようと、真剣な眼差しで私の顔をじっと見つめている。


彼の蒼い瞳が、わずかに揺れたように見えた。



「愛情を…確かめ合うための…行為…」



ルシアン様が、ゆっくりと私の言葉を反芻する。


その表情は、戸惑いと、好奇心と、そしてほんの少しの…期待が混じり合っているようだった。



「…では」



ルシアン様が、私の顔に手を伸ばし、私の頬にそっと触れた。


彼の大きな、少しひんやりとした手が、私の熱を持った頬に心地よい。


そのまま、彼は私の髪に顔をうずめようと、ゆっくりと身体を傾けてきた。



(違う!そうじゃないんだよ、ルシアン様!)



私は慌てて、彼の肩にそっと手を置いた。



そして、勇気を振り絞って、つま先立ちになり、彼の頬にそっと自分の唇を押し当てた。





チュッ、と軽い音が響く。





「…っ!」





ルシアン様の身体が、ぴくりと震えた。



彼の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。


私も、生まれて初めてのキスで、顔中が熱くなり、心臓がバクバクと高鳴っていた。



これが、私にできる精一杯だ。


経験のない私にとっては、彼の頬にキスをするのが、今の私の全てだった。





「これ…が…」





ルシアン様は、頬に触れた私の唇の感触を確かめるように、呆然と呟いた。


彼の蒼い瞳が、驚きと、そして微かな熱を帯びて、私をじっと見つめている。



「とりあえず…これが、そういう行為の、その、一歩目、みたいな…」



私は、しどろもどろになりながら答えた。


顔は真っ赤で、うまく言葉が出てこない。



ルシアン様は、何も言わずに、ただ私を見つめている。



彼の瞳の奥に、新たな知識と、それに対する興味、そして私への深い愛情が渦巻いているのが分かった。



(まさか、推しがこんなに純粋だったなんて!そして、私が教える立場になるなんて!)





私の推しは、やっぱり最高に尊い。



明日からの準決勝も頑張らないと!

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