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第一章(2):魔界からの訴えと、変わらぬ絆


白亜の城の広間に通されたゼフィルスは、ルシアン様を認めると、再び深く頭を下げた。


彼の周りには、微かに魔界の空気が漂っている。なんだか緊張感が半端ない!



そして、その只ならぬ雰囲気に、ルシアン様を囲むように同席していた私たち勇者たちも、思わず息を呑んだ。



「魔王ルシアン様、この人間界まで、はるばるお迎えに上がりました」


ゼフィルスの言葉に、ルシアン様の表情がさらに厳しくなった。


お迎えって……まさか、魔界に連れ戻しに来たとか!?


私の胸が、嫌な予感でざわめく。





「……やはり、お前が来たか。魔界は、今どうなっている?」


ルシアン様の問いに、ゼフィルスは悲痛な面持ちで顔を上げた。


その端正な顔立ちに浮かんだ苦悩は、魔物というよりは、むしろ忠実な家臣のそれだった。



「魔王様がご不在になられてより、魔界は混乱の一途を辿っております。 統率を失った魔物たちが、互いに争い、各地で小競り合いが絶えません。このままでは、かつての秩序が完全に失われてしまいます。どうか……どうか魔王様、魔界にお戻りください!」


ゼフィルスの言葉に、ルシアン様は静かに目を閉じた。


自分が人間界に来たことで、魔界に混乱が起きることは、以前から危惧していたことだった。



やはり、そうだったか……。



魔界は、ルシアン様という絶対的な存在が不在となったことで、均衡を失い始めていたのだ。


その重い現実が、広間に沈黙をもたらす。





その訴えに、ローゼリアちゃんとカスパール君、そして私も思わず顔を見合わせた。


ルシアン様が魔界に戻る……?


それって、私たちとの別れを意味するの!?


そんなの絶対に嫌だ!



「ルシアン様、帰らないでください!」


ローゼリアちゃんが、私の心の叫びを代弁するように思わず叫んだ。



カスパール君も「フン、魔界の事情など、俺たちには関係ない」と、いつもの強がりを言いつつも、ルシアン様の隣に立つ私をちらりと見た。


ああ、カスパール君も心配してくれてるんだね!


ツンデレめ!





「セラフィナ、心配するな。俺が、お前を置いていくはずがないだろう?」


彼は私の方を振り返り、その蒼い瞳で優しく微笑んだ。 その微笑みに、私の心臓はきゅん、と音を立てる。


すると、ルシアン様は私の腰にそっと手を回し、そのままぐいっと引き寄せた。


え、待って、近い!


そして、私の髪に顔をうずめ、深く息を吸い込んだ。


「ああ、セラフィナ……お前がいるだけで、俺は満たされる」



まさかの、堂々たるイチャイチャが、ゼフィルスの目の前で、そして皆が見守る中で繰り広げられた。


私も思わず恥ずかしくなり、顔が赤くなる。


耳まで熱い!


「ル、ルシアン様……皆が……見ています……!」



カスパール君は顔をしかめ、「おい、魔王。場所をわきまえろ」と小声で呟いた。


だが、その声にはいつもの怒気はなく、どこか呆れと諦めが混じっている。


ローゼリアちゃんは「セラフィナちゃん、ルシアン様がべったりだねー!」と嬉しそうに、まるで可愛い妹の恋を応援するお姉ちゃんのような顔をしている。


アルドロンさんも、静かに微笑んでいる。


みんな、見慣れた光景って顔してるな!?


おいおい、私だけじゃないのか、この羞恥プレイに耐えているのは!





その様子を呆然と見ていたゼフィルスは、目を見開いて硬直していた。


彼の灰色の瞳は、まるで砂漠に降る雪を見たかのように信じられないものを見る目をしている。



あの、絶対的で冷徹だった、かつての魔王様が、一介の人間である勇者と、こんなにも親密に……!?


彼の忠実な付き人だったゼフィルスにとって、この光景はあまりにも衝撃的だったんだろう。



忠臣、大混乱!


彼の頭の中では、きっと「魔王様、キャラ崩壊」という文字が嵐のように駆け巡っていたに違いない。



しかし、その硬直から覚めると、ゼフィルスはゆっくりと私に視線を向けた。


その瞳には、困惑と、そしてかすかな期待が入り混じっていた。


そして、ゆっくりと、しかし確実に、その場に跪いた。


その姿は、まるで女王に忠誠を誓う騎士のようだ。



「あ、あの魔王様が……!これほどまでに心を許される存在……貴女様は、よほどの御方……」


ゼフィルスは、深々と頭を下げ、私に敬意を表した。


その姿は、まさに完璧な執事の所作。



「……奥様」



その言葉に、私は思わず「えええええええええっ!?」と叫びそうになった。


ゼフィルスの発言に、広間の空気が一瞬凍りつき、そしてローゼリアちゃんの可愛らしい噴き出し音が聞こえた気がした。



「ゼ、ゼフィルスさん!?わ、私、まだ結婚してません!奥様なんて、めっそうもないです!」



慌てて否定する私を横目に、ルシアン様は私の肩を抱き寄せ、その言葉を反芻するように静かに呟いた。



「……奥様、か……」



彼の蒼い瞳が、どこか遠くを見るように、しかし真剣な光を帯びていた。


ひぇっ、まさかルシアン様、本気にしてる!?


私の心臓は、ドクン、と大きく跳ねた。



これは……ゼフィルスの予想外の一言が、ルシアン様の新たなスイッチを押してしまったのか……!?

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