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第一章(1)新たな来訪者と、魔界からの使者

【シリーズ第二部】


「転生したら推しが魔王様になってた件~①三千年の時を超えて会いに行きます!」の続編となります。 


登場人物たちの背景や物語の展開を深く理解するためにも、よろしければ先に第一部からお読みいただけると幸いです。


前作はこちらからお読みいただけます: https://ncode.syosetu.com/n8840kn/


白亜の城では、私たち五光の勇者、アルドロンさんの妻のリリアさん、そしてリル、皆で幸福な日常を謳歌していた。


広い城の中には、私たち以外にも、聖騎士団から派遣された者や、城の管理を任された人々など、たくさんの顔ぶれがいて、城全体が常に活気に満ちている。



ルシアン様との穏やかな日々は、私の「推し活」にさらなる彩りを添えてくれるし、ローゼリアちゃんとカスパール君の間に流れる甘酸っぱい空気も、城に温かい光を灯しまくってる。


アルドロンさんとリリアさんの、深く結ばれた愛情も、私たちに安らぎを与えてくれる。まさに、平和ボケ寸前!



ルシアン様は、かつて聖騎士団の王アシュレイ様に対し、「我々はもはやガイアの勇者ではない」と明確に伝えたけれど、世間では相変わらず、私たちを「五光の勇者」と呼んでくれる。


聖騎士団とも良好な関係を築けているし、新たな世界の秩序と平和は、着実に形を成しつつあった。





そんな中、ルシアン様とアルドロンさんを中心に、この世界に新しい「魔法学校」を創設する計画が進んでいた。


三千年前、私たち勇者がいた時代には当たり前だった魔法だが、ルシアン様がヴェクスと共に異界へ旅立ってしまったこともあり、次第に廃れていった過去がある。


今やほとんどの者が魔法を使えなくなり、その技術は失われかけていたのだ。


ガイア様の過度な支配から解放された今、人間が自由に魔法を学び、創造性を育むための、希望に満ちた場所になるだろう。


ルシアン様は、リルがこの学校に通うことを勧め、アルドロンさんも「お前のような聡明な子には、きっと最高の学びの場になるだろう」と微笑んでいた。




リルは、最初は慣れない城の生活に戸惑っていたみたいだけど、今ではすっかり馴染んで、城のあちこちを元気に走り回っている。


ルシアン様やアルドロンさんが読み聞かせをしてあげたり、私が日本で流行っていた遊びを教えたりすると、キラキラした瞳で楽しんでくれるんだ。


特に最近は、新しくできる魔法学校の話に夢中で、ルシアン様から魔法の話を聞くのが日課になっている。





城の食卓も、毎日が華やかだ。


リリアさんは色鮮やかな料理をたくさん作ってくれるし、私も時々、日本で食べられていた料理を再現してみる。


味噌や醤油がないから完璧にはいかないけど、似たような食材を探して試行錯誤するのが楽しい。


この前は、ルシアン様が私の手つきを見よう見まねで、驚くほど器用にお寿司を巻いてくれた時には、みんなで大爆笑だった。


ルシアン様は普段クールなのに、たまに見せるそういう一面が、たまらないんだよね。






そんな中、城に緊迫した報告が舞い込んできたんだ。


魔界と人間界のゲート付近の村で、奇妙な魔物の目撃情報が相次いでるって!



「その魔物は、きちんとした燕尾服のような服を身にまとい、非常に礼儀正しい態度をとっているとのことです。ですが、いかんせん魔物であるため、村人はひどく怖がっていると……」



報告を聞いたルシアン様の表情が、わずかに曇った。彼の蒼い瞳が、遠くを見つめるように細められる。


なになに?


「……そして、その魔物はどうしている?」ルシアン様は静かに尋ねた。


「はい、それが……『魔王様がいらっしゃる白亜の城はどこですか?』と……そう尋ねて、こちらに向かっているようです」


その言葉に、ルシアン様の表情に、何かを確信したような色が浮かんだ。そして、ポツリと一言。



「ゼフィルス……ついに来たか……」



ルシアン様の口から漏れたのは、聞き慣れない魔物の名前だった。


彼の表情は、どこか懐かしさが入り混じった複雑なもの。


え、誰それ?



「ゼフィルス……?ルシアン様、その方、一体どなたなんです?」


私が思わず尋ねると、ルシアン様は教えてくれた。



「……俺が魔界にいた頃の、付き人の一人だ。ゼフィルスは、極めて忠実で、優秀な魔物だから心配はいらない。人間界にいる俺へ、どうしても会って伝えたいことがあると、魔界から直接、思念を送ってきたのだ。あれほど生真面目な彼がそこまで言うのだから、よほどの急用だろう。」


ルシアン様の脳裏には、かつての魔界での日々が、まるで走馬灯のように駆け巡った。


忠実な彼の言葉に嘘はないだろう。



魔界からの使者。


しかも、ルシアン様の元付き人。


その言葉は、私たちに新たな予感を抱かせた。


平和になった世界に、一体何をもたらすの!?


期待と、そして微かな不安が胸に広がる。





ルシアン様は、人間界と魔界を繋ぐゲートを確かに閉じたはずだ。


彼は、ゼフィルスが通過する時だけ、ゲートの通行を許可したと説明してくれた。


通常、通行にはそれぞれの世界の許可が必要とされる。


人間界から魔界へ行こうとする者は、今のところ誰もいないが、もし現れた場合は、私たち勇者たちの許可が必須だ。


これは人間界の安全を守るためであり、魔界に無用な混乱を招かないための措置でもある。


その逆もしかり、魔界から人間界へ来る者たちについては、現魔王であるルシアン様の許可が必要となるんだ。





そして、その日の夕方。


白亜の城の門が、静かに開かれた。


そこに立っていたのは、噂に違わぬ、きちんとした燕尾服のような衣装を身にまとった一体の魔物だった。


彼の肌は薄い灰色で、陽の光を浴びるとわずかに銀色がかって見える。


細身の体にぴったりとフィットした漆黒の燕尾服は、仕立ての良さが一目でわかる高級品で、胸元には深紅のバラのコサージュが控えめに飾られている。



その顔には、魔物特有の紋様が浮き出ているものの、それらはまるで優雅なタトゥーのようにも見える。


しかし、何よりも目を引いたのは、彼の瞳だった。


それは、澄んだ灰色の瞳。


まるで静かな湖の底を覗き込んでいるかのような、深い色をしていた。


鋭い爪を持つ手が、恭しく胸元で組まれている様子は、まるで高級ホテルのベテラン執事のようだ。



「……魔王ルシアン様がいらっしゃると伺い、はるばる参上いたしました」



彼は、深々と頭を下げた。


その声は、重厚だが、どこか敬意に満ちている。


そして、どこか場慣れした、流れるような抑揚があった。



魔界からの使者、ゼフィルス。


彼が白亜の城を訪れた目的とは、一体何なのか!?


ルシアン様との再会は、一体どんな展開を迎えるのか!?


彼の見た目と、その裏に隠された真意に、私たちは興味津々だった。



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