きのこたけのこ戦争
ひだまりのねこさま主催の自主企画『集まれエッセイ企画』に参加させていただきました<(_ _)>
(言ってみたかっただけ)
頭を空っぽにしてお楽しみいただければ幸いです。
皆さまも一度は聞いたことがあるだろう。
『きのこたけのこ戦争』
平和であるはずの日本国内に存在する内戦だ。
1980年頃から始まったこの内戦は、2023年現在も終わることなく全国で燻り続けている。
知らない人のために(居ないとは思うが)説明しておくと、明治から発売されている『きのこの山』と『たけのこの里』というお菓子のどちらが美味しいのか? どちらが好きなのか? というテーマで、あらゆる媒体を通じて繰り広げられてきた熱いバトルのことだ。
国民を二分する意見の食い違いはこの先も決して終わることがないのだろう。
はい突然何の話だと思われるかもしれませんね。
実は先日五百円分のお買い物券をいただきまして!!(大歓喜)
普段なら迷わず主食のパスタを買うのに使うのですが、せっかくの創作活動三周年を迎え、エッセイジャンルの自主企画を開催しているというのに、それでは哀しすぎるだろうと思ったのです。
よし、何か話のネタになるものを買おうとなったのですが、ちょうどネットで、日本の『きのこたけのこ戦争』が今海外で話題になっているという記事を読みまして。
世界情勢が混沌としている状況の中、日本の平和な内戦にツッコミを入れたくなる気持ちはわからなくもないなと苦笑いしていたので、今回はきのこたけのこを買おうと決めました。
最初に言っておくとですね、私はずっと『たけのこの里』派です。誰かに聞かれる度にそう答えてきました。
でもですね、ふと思ったのですよ。
私は本当に『たけのこの里』派なんだろうか、と。昔からの惰性で何となくそう思い込んでいるんじゃないかって、そう思ったのです。
たしかに『たけのこの里』は好きですよ? けれど、子ども時代から結構時間は経っている。大人になって味覚が変わっていてもおかしくないじゃないですか。
皆さまもありますよね? 子どもの頃苦手だったのに、大人になってから好きになったモノ。
であれば、もしかしたら好みが変わっているかもしれない。
それ以前に、二つのお菓子をちゃんと意識して食べ較べたことが無いじゃないかと反省したのです。
これからも日本で生きてゆくならば、何度も聞かれるであろうこの話題に明確な答えを用意しておきたい!!
私はお買物券をしっかりと握りしめてスーパーへ向かいました。
「あれ? そういえば値段知らないな……」
気付いたんです。実は私、買ったことが無いのですよ、『きのこの山』と『たけのこの里』
私のことを可愛がってくれていた叔母さんが、明治に勤めていたので、私の家にはいつも山のように明治のお菓子があったのです。だから買う必要が無かった。
そういった事情もあって、我が家では、お菓子のことを『明治』と呼んでいました。
「悪いけど明治取ってくれる?」
「しょっぱい明治頂戴」
「この明治美味しい」
なんて会話が普通に行われていました。ちなみにノーマルの板チョコは『ストレート』と呼んでいました。理由? 知りません。
そんな環境で育ったので、幼かった私は、明治は無料なんだと本気で信じていたくらいです。
当然、その中には『きのこの山』と『たけのこの里』もありました。
私は『たけのこの里』が好きでしたので、いつもたけのこばかり食べていて、ほとんどきのこを食べた記憶がありません。思い出はいつもたけのこの里と共にあったのです。
「値段も知らないし、きのこの山の味も憶えてない」
私は自分の無知さに愕然としました。そして新たな問題が浮上したのです。
はたして五百円分で両方買えるのだろうか?
昨今の値上がりで庶民には手が届かない高嶺の花になってしまっているのではなかろうか? 税込み250円以内でないと両方買うことが出来ません。
250円……微妙な値段です。なんとなく278円なような気がしてきました。根拠はありませんが。
「まあ行ってみればわかることだし」
不安に押し潰されそうになりながらも、お菓子売り場に到着します。
ありました。
あれだけ血みどろの戦いを繰り広げられているとは思えないくらい、両者の位置は近くにありました。隣同士です。事情を知らない外国人観光客が見れば、仲の良い姉妹に見えることでしょう。
いや、もしかしたら当人同士は仲が良いのかもしれません。周囲が勝手に盛り上がっているだけで、実際は仲良しなのかも?
「ねえ、君たち、本当は仲良しさんなの?」
『…………』
答えてはくれませんでしたが、品出しをしているおばさまに微妙な視線を向けられたような気がします。
でも、そんな些細なことはどうでもいいのです。
問題は値段ですから!!
合格発表を怖々見るように視線を少しずつずらして……ってやりたかったんですが、商品よりもでっかい値札にバーンッと大きく書かれています。何なら商品よりも先に目に入ってきちゃいましたよ。
税込み213円……大丈夫でした。
まずは一安心。
『きのこの山』と『たけのこの里』を買い物かごに入れます。
「ふふふ、良かったね、離れ離れにならなくて」
私の買い物かごの中で、心なしか嬉しそうな二人。身を寄せ合っている姿はまさに仲良し姉妹。覆いかぶさるように上に乗っている『きのこの山』お姉ちゃんが身を呈して妹である『たけのこの里』ちゃんを守っているように思えて泣きそうになりました。
感情の高ぶりが収まるのを待ってからレジへ向かいますが、その前にお買物券の確認をすることは忘れません。使用条件を満たしているか? 有効期間は大丈夫か? 思わせぶりで曖昧な表現は無いか、など、ここに来るまでに何度も確認していますが、確認しないと不安で買えないので、最終確認です。
「いらっしゃいませー」
何回買い物をしても慣れないのが、クーポンやお買物券を出すタイミングです。
早すぎても駄目、遅過ぎたら論外。いまだに正解がわかりません。
「……あの、これ使えますか?」
何十回も確認しているから使えるのはわかっているのですが、万一使えなかった時にダメージを軽減するための自分なりの処世術です。
「はい、使えますよ~……」
レジのお姉さんの視線が私の買い物かごに釘付けになっている。なにか信じられないものでも見たかのようなそんな表情。
しまった……よりにもよって買い物かごには『きのこの山』と『たけのこの里』しか入っていない。めちゃくちゃ好きな人みたいで恥ずかしい。
いや……違う、そうじゃない。きっとお姉さんはどちらかの派閥に属しているんだろう。両方買うなんて何考えているんだこの野良猫は? なんて思っているに違いありません。
「違うんです、私本当は『たけのこの里』派なんです!! 信じてください!!」
そう訴えられたらいいのですが、お姉さんが『きのこの山』派だった場合、さらに蔑んだ目で見られてしまうし、何よりも言い訳がましくて格好悪いです。
くっ……たかがお菓子を買うだけなのにまさかここまで心理的なハードルが高いなんて。
早く終わってくれ……そう思いながら会計を待っていると―――――
「お釣り出ませんけど大丈夫ですか?」
しまったあああああ!? あまりにも緊張していてそのことを忘れていたああああ!!!
まだ74円分買えるのに……涙。
普段なら迷わず戻って会計をやり直したでしょうけれど、今の私は火薬庫を抱えているようなものです。他の買い物客にバレたら大変なことになるかもしれません。
「じゃあこれください」
とっさにレジ脇にあったチロルチョコを三つ買います。種類を選んでいる精神的な余裕などありません。
「はい、わかりました」
お姉さんの目が少し優しいような気がした。
ふふふ、この人本当にチョコが好きなのね、お可愛いこと。
うわあああ!!! 違うんです、別にチョコが好きなわけじゃ……いや好きだけど。
チョコばっかり買って帰宅。
まずは並べてパッケージを見比べてみる。
ふむ、きのこの山は黄色い背景、たけのこの里は黄緑色で、それぞれ商品の世界観に合ったのどかな里と山の風景が描かれている。
「んんん? あれ……こんなパッケージだったっけ?」
気になって調べてみると2019年にリニューアルされたらしい。なるほど。
パッケージデザインはきのこの山の方が好きかもしれない。少しだけだけど。
特にこのおむすびころりんの絵がさりげなく入っているのが遊び心があって良き……って、もしかしてこれレアな奴かもしれない!!
テンション爆上がりで調べてみると、どうやらそれぞれ15種類の隠し絵が用意されていて、集める楽しみがあるのだとか。さすが明治……細かい遊び心が素晴らしい。
残念ながら特に絵の種類によって、レアとかシークレットみたいな差はないらしい。
でも、買う時にパッケージを選ぶ楽しみはあるなあと嬉しくなったり。
ちなみにたけのこの里の方の隠し絵は、たけのこだった……ええ……隠し絵じゃないじゃん!?
さて、それでは食べてみますか。
まずは『たけのこの里』からいただきます。
あれ? こんなに小さかったっけ? もしや原材料の値上がりで実質値上げ……調べたら発売以来金型は変わっていないらしい。ということは私が大きくなったんだね。
ふふふ、たけのこの里の土台のクッキー生地が砕けて粉まみれになっているのはいとおかし。嫌がる人もいるかもしれないけど、私は好きなのです。
さて、上から食べるか下から食べるか? まるでイチゴのような悩ましい命題が存在するけれども、私は空中に放り投げて口でキャッチする派だ。
ただ、今回は厳密に味わうために、両方から食べてみる。
食べてみた感想ですけど……味はどちらも同じだった(当たり前)ただ、クッキーの食感と味をより味わいたい私のような人は、下から、つまりクッキー生地の土台方向から食べる方がおススメかも。
「チョコレート美味しいなあ」
安定の明治のチョコレート。
実は私、仕事で一年間、世界中のブランドチョコレートを販売していたことがあるので、高級チョコレートは飽きるほど試食で食べてきたのです。その経験を踏まえた上で、やはり明治のチョコレートのコスパ最強は揺らがない。
次にクッキー部分だけを食べてみる。
美味しい……ほのかな塩分がたまらない。この塩味がチョコの甘さを引き立てているのですよね。あっという間に口の中でほどけて溶けてゆく見事なクッキーでございました。
クッキー → チョコ
チョコ → クッキー
それぞれ順番を変えて楽しんでみましたが、どちらも変わらぬ美味しさ。クッキーとチョコレートのバランスを考えた人は間違いなく天才。チョコだけじゃない、クッキーもしっかり主張してくる。それなのに個性が喧嘩をしないで互いを引き立てながら調和している。この一体感こそがたけのこの里の魅力なんでしょうね。
ふう……久しぶりに充実した夜となりました。うっかり調べてみたら、なんとイチゴ&ショコラのたけのこの里があるらしい。見た目がめっちゃ可愛い!!
でも行った店に置いてなくて良かった。あったら小一時間どちらにするか悩んでいたところでしたから。
そして一番気になったのが、『厳選素材のたけのこの里』です。コレ絶対美味しい。ビジュアルがもう高品質。やばい……ここがたけのこの里沼の入り口なのか? 私にお金があったなら、間違いなくア〇ゾンで即ポチっていたところでした。
さて、読者諸氏はきっとこう思っているでしょう。
『きのこの山』どこ行った?
ふふふ、たしかに食べ較べると言いましたが、同じ日にとは言ってない。
味覚をリセットしてできるだけフラットにするために、『きのこの山』は翌日に食べるのです。
さて翌日の晩。
『きのこの山』を開封します。
たけのこの里と違って、土台部分がクッキーではなくクラッカーなので、粉まみれということはなく綺麗な箱入り娘といった風情ですね。粉好きの私には少し物足りないけれど、指が汚れないという意味では一般的には長所といえるかもしれません。
食べ方は『たけのこの里』と同じ方式で行いました。
たけのこの里の場合は、どの方向から、どんな順番で食べても味わいは変わらなかったのですが、きのこの山の場合、クラッカーとチョコレート部分の主張が強いため、かなり印象に差が出ましたね。
個人的には、チョコレートの方から食べる方がバランスが良いと思いました。
クラッカー部分は、食感は良いんですけど味がほとんどしないので先に食べるとちょっと残念な感じになります。例えるならば、嫌いなおかずから先に食べて、最後に好きなものを食べるというあの感覚に似ているかな?(例えが下手でごめんなさい)
今回食べてみて思った。きのこの山の最大の売りはやはりチョコレートです。
たけのこの里に比べてチョコレートの香りと味わいが強く感じられるんですよね。だからチョコレートをガッツリ食べたいという願望に寄り添った商品なんじゃないかな。
たけのこの里が、チョコ5:クッキー5だとするならば、きのこの山は、チョコ7:クラッカー3、という感じ。あくまで私の主観ですけれど。
何かに似ているな~と食べながらずっと思っていたんですけど、わかりました、きのこの山ってポッキーっぽい。
やはり手を汚さないでチョコレートを食べられるようにという部分に本領があるのであって、そもそも開封した時点から粉まみれのたけのこの里とはコンセプトからして違うのだろうなと思う。
正直に言えば、私はずっと思い違いをしていました。
この姉妹は成形が違うだけで同じ素材だと思っていたんですよ。だから味なんてどちらも大して変わらないんだろうと甘く見ていました。
事実は違いましたね。両者は異なるコンセプトで作られた別のお菓子で、双子では無かったのです。
三日目、私は最後の仕上げに入りました。
コーヒー、紅茶、緑茶を用意して食べ合わせを確認するのです。
交互に飲んで食べて……実に楽しい時間が過ぎてゆく。こんな至福の時間が実質無料で楽しめるとは……明治は無料だと信じていた幼い頃の私は間違っていなかったのかも(間違っています)
三日かけた検証の結果、結論は出ました。
今回あらゆる角度から本気で食べ較べてみましたが―――――
やはり私は『たけのこの里』の方が好きらしい。
きのこの山も美味しかった。それは間違いない。よりたけのこの里の方が好みだったというだけの話ですね。
結果的に変わることはありませんでしたが、これで私は堂々と『たけのこの里』派だと胸を張って生きていけると思います。
そして、知らなかったきのこの山の素晴らしさもちゃんと知ることが出来ました。
世界中で信仰の違い、価値観の違いで争いや戦争が起きています。
だからこそ訴えたいです。好きなものは好きで構わない。好みは人それぞれ違うのだから。
でも理解できないから、自分と好きなものが違うからと言って、他者の好きを否定したり排除しようとすべきではないのだと。
仲良く売り場に並んでいた姉妹を見て思いました。たまには推している方だけでなく、一緒に買って欲しいなと。そうすれば姉妹は別離を経験することもなくなりますし、明治は売り上げがアップして、ずっと作り続けてくれるに違いありません。
明治さん、私からお願いです。両方同時に楽しめる『きのことたけのこの山里』を製品化してください!!
と思ったら、すでに似たような商品がありました。
ハロウィーン仕様のパッケージには、なんと両方入っているのです。
さすが明治さん。皆さまも世界平和のために、ハロウィーンバージョン買いましょう(回し者じゃないです)
それではハッピーハロウィン!! 良い月末をお迎えください。