そして今にいたる
転げ落ちた以降の記憶はない。気づいてみればおっさんに囲まれてここにいる。
おっさんたちはワイの次の発言を待つかのようにみんなこちらを注視している。
あれ、これってさ? 例のやつか? 流行りの例のやつがワイに発動しちゃったやつか? もしかしてタイムスリップしてる? 流れ的に今ここ、戦国時代? これで平安時代とかだったらウケる~。
いや笑えない。
ワイはうろたえつつ声を振り絞る。
「あ、あの」
「おう。申せ」ボス猿的なおっさん
「今いつですか?」
「は? 辰の刻じゃが」
「あ、いや。な、何年ですか?」
「は? 天正12年に決まっとろうが。緊張して年も忘れたか?」
てんしょう! 来ました、てんしょう! 令和じゃない! 昔っぽい! でもいつかわかんない!
「どうなのだ。命を預かる覚悟があるのか?」
いやないです。まったくないです。
「信吉よ」
え、ちょ待って。誰に話しかけてるの? さっきから孫七郎とか信吉とか。ワイに対しての話じゃなかったらめっちゃ恥ずかしいんですけど。
左のスキンヘッドおっさんを見る。目が合う。ワイは自分の鼻を指差す。今度は怪訝そうな顔でおっさんはうなづく。
もうしょうがないからボスに答える。
「い、いえ」
「ん? 今、いえと申したか。まあそうであろう。若年のそなたにはまだ早かろう。昨年とは話が違うのだ。今度の相手は一筋縄ではいかん」
スキン氏
「孫七郎殿! それでよろしいのか。 先程の意気込みはどうなさった?」
いや先程の意気込みがわかんねえ。るんるんでブドウ食べに1階に降りてっただけなんだが。こんなおかしな場所に降り立つとは。
「あ、はい」
ボス
「うむ、そうか。そうであるか。聞き分けがよいな。うむ。それがよい。
って、それでいいわけあるかあああああ!」
突然にボスが叫びだした。こちらはビクッとなる。
「そなたが言ってきたんだろうがあ! 別働隊の大将になりたいと! そしたらいったんこっちは断るじゃん? それでもなりたいってそなたが言うじゃん? ちょっとかっこいいこと言うじゃん? そこまで言うならってやってみろって流れじゃん? 1回断られたくらいであきらめてんじゃねーよ! 物をもらうときだってさあ、1回は断るだろ? 礼儀として。 2回言われて初めてもらうだろ? 流れを汲めよ」
「え、え、え」
「もうわかった! 怒った! ワシ怒った! 怒ったもんね!」
この人の一人称ワシだ。リアルでワシって言ってるのを聞いたの初めてだ。今のこの状況がリアルなのかよくわかんないけど。
「信吉は大将にはしない! 絶対しないもんね! 危険な任務じゃがその中ではもっとも安全な最後尾に置いてせっかく大将にしてやろうと思ってたのにさ。もうあかん! そなたは最前線じゃ! 紀伊守殿とともに最前線で手柄を上げてこい!」
スキン氏
「よろしいのでござるか? 孫七郎殿は貴殿の一門でござろう? 最前線は命の保証ができませぬぞ」
「紀伊守殿ほどの人と一緒ならば問題あるまい。もし死んだならそれはそれまで。さあ、支度に戻られい。信吉もさっさと行け」
「……承知つかまつった。さあ、孫七郎殿参ろう」
隣のおっさんがワイの脇を取って一緒に部屋から退出するよう促した。流れに逆らわずに去ろうとすると背中側から
「あ、信吉本陣を守らせるつもりだった兵9000は紀伊守殿に預ける。ほら、最前線は何かと兵が必要であろう」
とボスが言ってきた。
廊下でともに歩きながらスキン氏は「やはり甥っ子に甘いのお」と言っていた。