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キミの幻影  作者: yuiki
9/12

最後の御使いと報復

 棋祥さんを送って、再び新学期が始まった。


 「最近ヒマだよぉ~」


 「だからと言って俺に付き纏うな」

 

 学校が始まっても相変わらず桜庭は俺に付き纏う。

 正直に言っていい迷惑だ。

 秋の匂いがしてきたとは言え、まだまだ残暑が厳しい季節だ。

 その上こんな暑苦しい奴がずっとそばにいたら堪ったもんじゃない。

 

 「何か面白い話してよ~」


 「その話さえすれば俺から離れるのか?」


 「さあね」

 

 「話す気失せた」


 「え‼? 本当にあるの? 嘘嘘‼ 聞いたら離れるから‼ 絶対に近づかないから聞かせて‼」


 「お前本当現金だな。分かった聞かせてやるよ」





 「これは俺が小学2年生の時の話なんだがな。



 俺が幻影を見ることができるようになって間もない頃だ。


 俺は幻影と生きている人とを段々区別できるようになっていった時、なんかどっかの家の前で


 『おばあちゃん…………おばあちゃん』

 ってすすり泣いていた女の子がいたんだよ。


 で、見ていたらいたたまれなくなってきて、幼かった俺は

 

 『どうしたの?』


 って声をかけたんだよ。

 そしたら、


 『見えるの?』


 って聞いて来たから、


 『見えるよ』


 って返したら、


 『助けてくれるの?』


 って聞いてきた。

 でも、その時の俺は何もできなかった訳だ。


 だから、

 『ごめんね、僕には出来ない』

 って答えた。


 そしたら少し悲しそうな顔をしたけど、


 『わたしの、灯火(あかり)になって』


 って突然言われた訳だ。

 俺は訳が分からなかった。


 だから、とりあえず

 『どうすればいいの?』

 って聞いたら、


 『ゲームをしよう』


 『ゲーム?』

 

 『わたしを、見つけて』


 って言われて唐突にかくれんぼが始まった。


 だから必死で見つけ出して、

 『見つけた』

 を言った。


 そしたら、その子が負けのはずなのに


 『ふふっ、ありがとう‼』


 って満面の笑みで言われたんだ。

 その後何回か遊んだんだけど、途中でいっつもいなくなる。

 でも次の日に行ったらまた居たんだ。


 結局中学2年生くらいまで一緒に遊んでたけど、急にいなくなったんだよ。

 今度は次の日も、また次の日も、1週間後も見なくなった。


 未だにその子の名前も、どうなったかも分からない。


 まあ子供の時の幻みたいなもんかなって思ってた。


 こんなもんかな」

 

 「……………………」

 桜庭が何も言わない。


 「おい」


 「おい、桜庭?」


 「桜庭‼」


 「ひゃっ‼? ああびっくりした」


 「お前大丈夫か? 何回か呼んだのに全く反応しなかったろ」


 「い、いや、私は大丈夫。大丈夫…………」


 「どう見ても大丈夫じゃねえんだよ」


 「……………………」

 どうやらまた自分の世界に入り込んでしまったようだ。

 

 …………こいつがこんなに物思いにふけるなんて珍しいな。


 

 まぁ放っておくか。





 そして次の日。

 教室に入ると、いつもと変わらない桜庭が居た。


 「やあやあ補佐君。今日は少し話があるんでね。放課後にキミの家の前で待ち合わせね。絶対来てよ‼」


 「無理やりだな…………」


 「来るの? 来ないの? Yes or NO‼」


 「うるせえよ。行く。行くからその騒がしい口閉じろ」


 さて何気に桜庭からそんな話など珍しいな。




 ――放課後――


 「ちょっとおばあちゃんに聞いた話があるんだよね」


 「何だ?」


 「御使いは世界で1家系にしか生まれないってこの前言ったよね」


 「ああ。確かお前が残された家系の最後の御使いだってな」


 「でも、実は御使いの家系っていうのは"分家"っていうのが存在するの。で、その分家の中に現御使いの力や命を狙う者がいるって」

 

 「命を…………狙われる?」


 「そう。現に、私は1回奴等に襲われている」

 心臓が止まるかと思った。


 こいつは、桜庭は、

 いくつのしがらみを、

 いくつの重荷を、

 いくつの危険を背負っているのだろうか。


 「…………これからとても大事なことを話す。絶対に、良く聞いて」


 桜庭は、何を明かそうとしているんだ?


 「分かった」


 「前にも言ったよね。この世に残る御使いは、1人だけ」


 「ああ。それが…………どうしたんだ?」


 さっきから何度も何度も"1人"を強調してくる。

 何だ?

 何なんだ?


 「キミは、キミこそが、この世に残る、最後の御使い。花崎家が、この世に残った最後の御使いの血を引く家系なの」



 「……………………は?」

 どういうことだ?


 桜庭は御使いのはずだ。


 桜庭のおばあさんもそう言っていた。


 その時の言葉が、フラッシュバックする。


 『確かに精霊の御使いだ』

 『"この世に残る"最後の御使いだ』


 そうだ。

 桜庭のおばあさんは、

 ()()()()使()()()()()()()()()()()()()


 "この世に残る"


 俺が、この世に残る最後に御使いなのだとしたら。


 桜庭のおばあさんが言っているのが、俺のことなのだとしたら。




 目の前にいる桜庭は何なんだ?


 桜庭が御使いではないことは、ありえない。

 

 だとしたら。


 

 『この世に残る最後の御使い』

 同じフレーズが何度も頭の中を反響する。

 

 桜庭が御使いだとしたら。


 桜庭は。


 桜庭は、もう。


 「桜庭。…………お前は…………?」

 震える声で、そう問いかけようとした、その時。



 「なぁーんだ。余計な忠告してくれちゃって。そのままの方が()りやすかったのに。余計な警戒しちゃうんじゃーん」


 突然ひょうきん声が後ろから響く。

 俺達の背後に、高校生くらいの男が立っていた。


 「どうも初めまして! 花崎君! そして、桜庭さんは…………久しぶり、かな? あの時の車の感触はどうだった? 中々鋭くて良かったでしょう。まあでも残念ながら今日用事があるのは桜庭さんじゃなくて、君。花崎 悠君の方なんだよ」

 

 様々な疑問が頭の中に渦巻くが、今一番聞きたいことがある。


 「とりあえず1つ聞く。お前誰だ?」


 「いやー、痛い言葉だ。しかもタメ口の命令形。こう見ても僕27歳なのに」


 「嘘つけ。どう見ても高校生かそこらだろ。」


 本当にそうとしか見えなかった。

 身長も俺達とほとんど同じだ。


 「ん? この身長のことかい? これも君達の、いや君達のご先祖様のせいなんだよ? だから少しは報いを受けて貰わなきゃだめなの。分かる?」


 「いや1つも分からん」


 「まぁ分かんなくていいんだよ。君はもういなくなるんだし。戯言はここまでにしてそろそろ本題に入ろうか。悠君。君には僕からの報復を受けて貰おう」


 「は? 何だそれ」


 「簡単なことだ。君には死んでもらう」


 「馬鹿なこと言わないで。さっさと失せて」

 こう言い放ったのは桜庭だった。


 「あのね、桜庭のお嬢ちゃん。我々に逆らったらどうなるか、文字通り身に染みて分かってるよね? 前回は大がかりに車を使ったけど、次はバーンってっやっておしまいだよ?」


 「分かってる。あなた達が敵に回したら厄介なことくらい。でも、過去の過ちを私は繰り返そうとは思わない」

 鋭い視線を放ちながら、桜庭が静かに言う。


 「んーでも結局同じことだよ? 花崎君が1人で死ぬか、君と花崎君が一緒に死ぬか。それだけの違いなんだから…………」


 「逃げて。キミは早く逃げて‼ 私がここは何とかする。だから逃げて」


 「何を言って…………っ!」

 そう言い放つ桜庭の手には、小さなナイフが握られていた。


 「早く‼」

 桜庭の叫びに押されるようにして、俺は駆け出した。


 

 「はぁぁー、結局殺さなきゃいけないのか…………だったらさっさと死ねこの死に損ない(御使いの面影)が‼」


 今までの物腰と打って変わり、殺意をむき出しにした男が胸ポケットから黒光りするモノを取り出すのと、桜庭がナイフを持って駆け出すのは、同時だった。







 3本ほどの道を駆け抜けた後、背後から乾いた機械の音が響いた。


 やはりここは逃げるべきじゃない。



 俺は、あいつに全力で協力すると誓ったのだから。


 

 

 そして、あの場所に戻って目に入ったのは。


 こちらから遠ざかるように伸びる朱い線と、



 朱を地面に広げて立った桜庭だった。

 



 足が地面に張り付いて動かなかった。


 桜庭は朧気な眼をこちらに向けた。

 そして、強張った顔を綻ばせて


 「ごめん……仕留め……切れな……かった。でも、良かっ……たぁ。無事……だった……んだね」


 そうして、桜庭は微笑んだまま地面に崩れ落ちた。

 



 「さ、桜庭‼」

 朱い水溜まりを少しずつ広げていく桜庭にやっと駆け出せたのは、桜庭の身体の力が抜けてからだった。

 

 「キ……ミが無……事なら……良かっ……た」

 口からも朱い線が迸る。


 「桜庭‼ もうしゃべるな。いま救急車を呼ぶ。だから少しでも体力を保て‼」


 「もう……良い……の。私が……この身体……が生きて……ても、何も変わ……らない。この身……体が死んで……も、何も……変わらな……い」


 「何を言ってるんだ‼ 口を閉じろ‼」


 「もう……分か……った、でしょ?」

 分からない。


 何一つ分からない。

 「分からないよ……俺はお前のことが分からないよ‼」


 「ひどい……なぁ。じゃあ……ヒン……トを言うよ。私……は、暗いの……が嫌い」

 桜庭の一言一言で、命が流れ出て行っている気がした。


 「もうこれ以上しゃべるな‼ 桜庭‼」


 「もう、鈍……感だなぁ。じゃあ……最後の……ヒント……でも、もう……無理……だね。ごめんね、何……も伝えられ……なくて。大丈夫……直ぐに……会える……から。最期に……一言だけ……言わせ……て」


 「何だよ‼ 何なんだよ‼」

 

 「あの時……見つけ……てくれて……灯火に……なってく……れて……ありが…とう」

 

 冷たい風が横を吹き抜けた。


 次の瞬間、桜庭の目はもう何も見ていなかった。


 「桜庭‼ 桜庭‼ おい‼」




 サイレンの音が虚しく響いていた。

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