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キミの幻影  作者: yuiki
7/12

最後の一手

 享葉君を送ってから一週間。

 そろそろ夏休みも終盤だ。

  

 「お~い‼今日はどっかに行くよ‼」

 そして当然のごとく桜庭がやって来る。

 しかも今度はずかずかと家の中にまで入って来る始末だ。

 まぁ、今回が初めてのことじゃあないが。


 「どっかって……せめてどこ行くか決めてから来いよ」

 

 「えーー……だって考えんの面倒だからキミに押し付けようと思ってるんだから……」


 「押し付けるのが普通とかおかしいだろ」

 

 「と言う訳で考える時間もお金も手間も面倒だからキミの家に居座り続けようと思う‼ だからお茶とお菓子ちょーだい‼」


 「お前なぁ、もてなされる側の立場っていうものを分かってんのか?」


 「お‼このゲーム持ってるの? やろうやろう‼」

 

 「…………はぁぁぁぁ……」

 コイツの言う"このゲーム"とは、日本一有名なゲーム会社が出した対戦型アクションゲームだ。

 1999年に初代が登場し、当初1対1が普通だった格闘ゲーム界の中で4人対戦を可能とした革新的な作品だ。最新作では8人対戦やオンライン対戦も可能。そして使用できるキャラクターはその会社が歴代で排出してきた有名なキャラクターばかりだ。例えば、大魔王にさらわれた姫を取り戻す旅にでる赤い帽子をかぶり青いつなぎを着たちょび髭のおじさん、100年の眠りから目覚め滅びた王国を救うべく旅にでる英傑、恐竜族の生き残り、ネクタイを締めたゴリラなど、世界的に有名なものばかりだ。


 「おっ、キミ追加キャラ持ってるんだ。じゃあパッ〇ンフラワー使お。よしじゃあ早速戦いの幕開けだ‼」


 「待て待て。まだ俺キャラ選んでねえよ。んーじゃあガノ〇ドロフ使うか」

 

 「よしじゃあ今度こそスタート‼」

 そして俺と桜庭の戦いの火ぶたが切られた――


 

 

 GAME SET‼

 という軽やかな音声が流れ結果画面に切り替わる。


 「えーーー?‼ キミってそんなにゲーム強かったの?コンボ上手すぎ……」

 

 「まあほどほどにやりこんではいるからな」

 

 「しかしここで引かないのが桜庭さん‼ キャラ選間違えで今回は勝ちを譲ってしまったけど‼ 次は魂の持ちキャラ、ファ〇コンで勝負‼」

 

 「お前には負けんよ」

 そうして第二ラウンドが始まる……


 

 「あ、ちょっとその確定技はズルい‼」


 「当てたもん勝ちだ。何回横スマ後の13Fのスキに付け込まれるんだよ」


 「いやちょ待…………ぎゃあああ‼ ……」

 

 『GAME SET‼』

 「この私が……また……負けた……だ……と……???」


 「『この私』って言うほどお前強くないだろ」


 「くくっ……褒めてあげよう……この私に本気を出させたことを……思い知らせてあげよう。敗北の2文字をッ‼」


 「まだやる気かよ……」


 「当然だッ‼ 今日だけで100試合はするから覚悟するがいい‼」

 

 「どんだけやるんだよ‼」

 という訳で、一日中家の中に

 

 『GAME SET‼』

 

 が響くことになった。






 そしてその次の日。

 「おお~い、次に標的にする幻影が決まったよ~ん‼」


 「ひょうてっ……お前言い方考えろよ……」


 「いいから行くよっ‼」


 「…………」

 もう何も言うまい。もうこのノリにも大分慣れた。


 

 「え……? こんな広い家、いや屋敷なの?」


 「そうだよ……あ、いたいた。こっちですよー‼」

 そう叫ぶ桜庭の先には、厳格そうな和服姿の男性がいた。

 

 「あの子が昨日言っていたもう一人かね?」


 「そうです‼ ほら‼ボケッとしてないで自己紹介‼」


 「あ、はい。花崎 悠と申します。桜庭と同じく亡くなられた方を見ることが出来る者です」

 

 「私は(かつら) 棋祥(きしょう)だ。こう見えて棋士の端くれだ。悠君、よろしく頼む」


 「よろしくお願いします。棋士さんですか……このお屋敷に住まっていらっしゃったんですか?」

 

 「ああそうか。その様子だとまだ私のことは説明していないようだね」


 「そーーの通りです‼」

 誰にでもこういうあっけらかんとした態度――図太いのか肝が据わっているのか――にはある意味頭が下がる。

 

 「ではまず私のことを知ってもらうことから始めよう。一度屋敷に上がって座りなさい」

 

 「え、あの、入って大丈夫何ですか?」


 「まあ大丈夫だろう。つまみ出されそうになったらその時は私が何とかしよう」


 「ありがとうございますっ‼」

 

 "どうやって"という疑問がここで浮かび上がるがそれを口に出すのは無粋だろう。

 「ありがとうございます」

 意外と優しい人なのかもしれない。




 「取り敢えず私の生い立ちから聞いて貰うとするか。今茶と茶菓子を……と言いたいところだが出来ないのでな。申し訳ないが好きにとってくれ。急須と茶葉はあそこの棚に入っている」


 「分っかりました‼ ……っと、ここかここか。……………………んあーー‼ ぎりっぎり届ない‼ちょっと手貸して‼」


 「いやそこに踏み台あるからそれ使えよ」


 「はぁ~、もうそこは『しゃーないな……ここか? 』って後ろからさり気なく手を伸ばして胸キュン‼っていうシチュエーションだよ?全く、キミは本当に空気の読めない根暗だなぁ」


 「空気の読めない根暗で悪かったな。こっちはそんなこと微塵も考えちゃいないんだよ。」

 いつもの(?)やり取りをしていると……



 「…………ふっ…………」

 後ろから笑みが零れるのを感じ、ハッとして後ろに振り向く。

 

 しまった。

 桜庭のペースに乗せられていつものやり取りを適当にこなしてたけど今は人の前、しかもすこぶる厳格そうな人だ。

 流石にいつものノリでやっていく訳にはいかないな。


 「すいません、見苦しいところをお見せしまして……」

 すると棋祥さんは少し笑いながら、

 「いや、久々に愉快な物を見たな……夫婦漫才のようだ」


 「ちょっとやめてくださいよぉ~」

 と言いながらもほくそ笑みながらこちらをチラ見してくる桜庭がいる。


 冗談じゃない。

 ったく。


 「はは、済まない済まない。戯れ言は一旦置いておいえそろそろ本題を話すとしようか。


 私はかなり裕福な資産家の下に生まれた。

 まあこの屋敷をみればわかる通り、私の父は豪勢な生活をするのが好きだった。私はその生活に勿論不満を抱いていた訳では無い。ただ、やたらと見た目と体裁を気にする生き様に疑問を抱いただけだった。まぁその話は後でするとしよう。家が裕福で更に父には人望があったから頻繁に著名人が訪れることがあった。


 私が小学1年生の時、家に将棋の棋士がやって来たことがある。その時に父とその棋士の対局に引き込まれてしまってな。そこから将棋の世界に足を踏み入れた。


 金には困っていなかったため家には様々な物が揃えられていた。将棋を始め囲碁、オセロ、貝独楽、独楽にブラックジャックなどの賭け事の備品まであった。父は色々と私に挑戦させようとしたようだが、飽き性の私は何をやっても長続きしなかった。だが将棋は私の求めていた何かに丁度嵌まったようで、私は直ぐに将棋の魅力に溺れていった。今から思うと父は大層喜んだだろうな。その時まで何一つ長続きしなかった私がやっと熱中する物が見つかったのだからな。


 時々訪れる棋士に手ほどきをしてもらいながら、父と詰将棋・対局で少しずつ力をつけて行った。初めてできた将来の夢は当然プロ棋士。我ながら楽観的だったとは思うが、後悔はしていない。実際今では棋士の端くれに上り詰めたわけだ。


 まあここまでは良かったのだろう。

 逆にここからだ。


 私が恐らくはこの世に留まった理由が。ある程度名を上げる様になった私の元には時々対局をしにやって来る者達がいた。ほとんど、と言うか真っ当な者は規則(ルール)を守り、駒落ち(ハンデ)などの手加減はせど、真剣に真向勝負ができた。()()()()()()、な。世の中には君達の様に真っ直ぐに生きている者もいれば、どうしようもないような卑怯者やならず者もいる。嘆かわしいことに私の元を訪れる者の中にもそのような輩がいた訳だ。


 門下生――まあ勝手にそう呼ばれていただけなのだが――の中に硲坐(はざまざ) 卑楊(ひょう)と言う者がいた。彼も他の奴等と同じく将棋の道を志す者だったのだが……な。彼の性格は少し、と言うよりかはかなりねじ曲がっていた。駒落ちの手合いで勝ったことを町の者に触れ回り、自分より強き者とは対局せずに弱者のみをいたぶる奴だった。私も幾度か手合いを受けたが、平手(ハンデなし)で負けたことは勿論ない、駒落ち戦では……1度だけ、敗北した。下らん理由でな。


 ある時、卑楊が対局を申し込んできた。彼は平手を望んでいたが、実力で勝てるはずも無かったから4枚落ちを提案した。私には及ばなくとも少々の力は持っていたからな。だが彼はそれを断り、強引に対局を始めた。当然私に有利な局面で進んで行く訳だが、ここで卑楊は棋士としてのプライドを捨てて最悪の下策に出た。


 手の端で駒の位置をずらそうとしたんだ。


 将棋や囲碁は『不正が無い』という大前提の"信用"が互いにあって初めて成立する。囲碁将棋での不正は、その信用を踏みにじる最悪の行為だ。しかも、卑楊のやったことはそれだけでは無かった。



 彼は、不正を私に押し付けたんだよ。


 彼が駒をずらそうとした瞬間、私は声を上げようとした。その時、私が声を出す前に彼は、"棋祥先生が駒を動かそうとしました"と大きな声で叫んだのだ。

 生憎そこで見ていた者は誰もおらず、反証できる者が誰も居なかった。私は皆を説得しようとしたが、私が彼を嫌っていたことが若干有名だったようで私が完全に悪者になってしまった。


 ……以前話していた通り父はやたらと体裁を気にする人だった。もう分かるだろう。父は私が汚名を喰らったことに激怒し、私を一家から勘当した。私は、その時に終わった。


 多少父も私自身も著名だったこともあり、社会的に私は死んだ。いや、卑楊に殺された。そんな状態でそのまま生き恥をさらすのにも忍びなかった私は、その3日後に入水した。そのまま私の魂だけが、この世に引き留められた、と言ったところだろうか。そして、肝心の未練というのがね。」



 "人生の最後に満足な一手を打ちたかった"



 「私の人生最後の対局は、あの卑楊との対局だった。私には、それがどうしても納得いかなかったんだよ。人生の最後くらい、自分が真に納得できる一手が打ちたかった。これで私の話はお終いだ。長くなって済まないね。」




 

 享葉君の時とは全く異質の虚しさと嫌悪感が込み上げてきた。 


 「……何ですか、そのクズは……」

 そいつには嫌悪感しか覚えなかった。


 「ちょ、ちょっと言い過ぎじゃないかなぁ~。ほら、仮にも人の教え子なんだから……」

 

 「関係無い。誰の何だろうとそいつがクズであることに変わりは無い」


 「悠君。それは少し言い過ぎだろう」

 棋祥さんの少し窘めるような言葉も、耳に入らなかった。


 「そいつは自分の行為で人一人を殺しているんですよ‼? それもあなたを‼ あなたはそれに対して何も感じないんですか‼?」


 「何も……何も思わない訳ないだろう‼」

 初めてここで棋祥さんが声を荒げた。


 「私の人生は奴に狂わされた挙句私は社会と家を追われたんだ‼ 奴が居なければこんな目に合わずに済んだ‼ こんな……こんな目に………………」

 俺と棋祥さんは黙り、とても気まずい空気の中に桜庭が取り残された。


 「……とっ、とりあえず今日はお暇いたします。失礼しました――っ‼」

 半ば……というか完全に強引に手を引かれ屋敷を出て行った。


 

 「もうっ‼ キミ熱くなり過ぎ‼桂さん怒らしてるじゃん‼」


 「ああ……済まない。」


 「全く……そんなんで私の補佐が立派に務まるかねぇ~」


 「そのいやらしい目やめろ」

 

 くそっ、初っ端から大失敗だ。


 次に合わせる顔が無い。

 



 夏の暑さが走り去り、秋の涼しさの気配を感じた。

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