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キミの幻影  作者: yuiki
11/12

生命の譲渡

 「ばあちゃん、話、終わったぞ」


 「あら、そう。じゃあ、次の話を……「……ばあちゃん。『生命の譲渡』の条件と方法は知ってるのか?」

 もしそれが俺にもできるのなら。


 桜庭に使えるのなら。

 

 「やっぱり聞いて来たかい。そう言うと思ったよ。」

 すると、桜庭が先に口を開いた。

 「『生命の譲渡』の条件は、簡単だよ。双方が、()()()()()()()()()()()()()。その条件さえ揃っていれば、口から口へ、生命の息吹を流し込むだけで生命は譲り渡される。だけど、それは譲る側はもちろん、貰う側も譲る側の寿命が縮むことを望むってことだから、初代が行ってからは、その条件を満たす者がいなかったから。さらに完全な譲渡、つまり完璧な秘術となると、条件がもう1つ加わる。『お互いが相手を愛していること』で、初代はこれも満たしていたから、完璧な秘術を行って、相手の寿命が延びて、初代のも縮まなかったって訳。分かる?」

 

 ああ。今の話はすぐに飲み込めた。

 でも。


 「桜庭。今の話は、2週間前から知っていたのか?」


 「? そうだよ?」

 

 じゃあ。

 じゃあ。

 なんで。

 「何で俺にそのことを教えてくれなかったんだ? 俺がそれを知っていたら2週間前にお前に身体を救えたはずだ‼」


 「もー、キミは話を聞いていなかったかい? 生命の譲渡は、()()()()行われるんだよ。キミにファーストキスを奪われるのは……って思ったから」


 おどけるように答える桜庭。

 冗談じゃない。


 「ふざけるのも大概にしろ‼ そんな、そんな下らないことで自分の身体1つ見殺しにしたのか‼?」

 流石に俺が本気で怒っていることに気付いたのか、桜庭は本当のことを言った。

 

 「冗談だってば。生命の譲渡は1生に1回しか使えない。そして、寿命っていうのは肉体に依存するもので、よく聞くように運命とかで決まってる訳じゃないの。要は肉体に作用して命を延ばすっていうこと。私は身体を持っていたけど、あれはあくまで仮初の身体。普通の幻影だったら戻るのかも知れないけど、私みたいに中途半端になっている状態で譲渡を施したとしても、無駄になるだけだった。だから、キミには教えていなかったの。ごめんね」


 そんな。

 

 最後の。

 桜庭を世に戻す最後の手段が。

 

 「……っ……」


 消えてしまった。





 「さて、時間も遅くなったし、今日は帰りましょう‼」


 「あら、そう。じゃあ、今日はこれで1度お開きにしましょうか」


 「……ああ。」

 そうして、桜庭は去って行った。



 その日の帰り道。

 「クソッ……」

 桜庭を救う手段は、もう無いのか。


 すると。


 「やぁやぁ悠君。またお会いできるとはねぇ」

 二度と聞きたくない声が辺りに響く。


 「……またお前かよ」


 「もう、いい加減に口調を改めたらどうかね。最近の若者はこれだから……まぁいいや。じゃあ早速だが2週間前の続きだ。祖母に命を分けて貰って傷は治ったけど体中が疲れていてね。まあ手短に終わらせようじゃないか。」


 こいつは……こいつの祖母から生命の譲渡を受けたのか……?

 「嘘つけ。生命の譲渡の方法はもう廃れていたはずだろう」


 「いやはや、その狭い視界で全てが分かっていると思っているとはねぇ。確かに本家では廃れたよ。でもね。分家の方は報復のために何百年と調べ上げたんだよ。君達が知らないことを知っていて当然だろう。さぁ、戯れはここまでにしておいて、消えてもらおうか」


 「断る」


 「往生際の悪いことだ……君が拒否しても結果は変わらないんだから……」

 そう言いながら男は胸ポケットから怪しい金属光沢を放つ拳銃を取り出した。


 「本当に撃つ気か……?」

 

 男はあっけらかんと言う。

 「ん? ああ、私は君が死ねばそれでいいから。私もその後に君を追うよ。雪辱を果たせるのならそれで私は人生に満足だ。2人仲良く冥土旅行と洒落こもうじゃないか」


 「ふざけてるのか? 俺は絶対に御免だからな?」


 「あったま悪いなぁ。だ‼ か‼ ら‼ 君が何と言おうと君は死ぬの‼」


 「いやそんな駄々をこねるように言われても……」


 「あー、もう面倒だから素直に撃たれてよぉ」


 「だから無理だっつってんだろ‼」

 そしてそのやり取りは数分間続き、

 もうこのうちに逃げ出してしまおうと思った。


 近くに交番があるはずだ。

 

 そこに逃げ込めば何とかなるだろう。


 俺は全力で逆方向に駆け出した。

 「あー‼ 逃がすものか‼」


 後ろから銃声と走る音が聞こえる。


 ここまで数発撃ったようだが、まだ1発も当たっていないようだ。


 この命中精度なら何とか逃げ切れるだろう。


 「……なーんてねっ‼」



 今までとは比にならない重低音が響く。

 「…………っ‼?」

 


 突如背中から胸にかけて熱が走る。

 1拍遅れて激しい痛みが襲う。

 足が止まり、

 地面に手が付く。


 「今までのは全部空砲だよ? 全く、こんな簡単な策にハマっちゃうなんて、本家も堕ちたねぇ」


 「……………」

 声が出ない。


 「じゃあ、あの世でまた会おうね‼ バイバイ」

 そう言って男は闇の中に消えた。



 くそ、体が言うことを聞かない。

 喉から熱いものがこみ上げ、口から溢れ出る。

 瞼が重い。



  

 そして、遠くから足音が聞こえて来た。

 「どうしたの……さっき変な音が……え‼?」

 

 桜庭だった。

 「どうしたの‼? 暗くて良く見えないけど……血‼?」

 

 あいつだ。

 近くにいる。

 撃たれた。

 

 「しっ……て‼ ……きゅ……しゃ……から‼」


 なんて言った?

 耳が音を拾わない。

 

 口が上手く動かない。


 あいつだ。 

 まだ近くにいる。

 気を付けろ。


 伝えなければ。

 危険を。 



 ……眠い。

 瞼が引きつる。


 

 そのまま、俺の意識は途絶えた。




 

 

 

 ……どこだ? ここは。

 

 暗い。

 寒い。


 何も分からない。

 何も見えない。

 

 怖い。



 そんな単語が頭の中で浮かんでは消えて行く。



 ……ん?


 遠くに1筋の明かりが見える。


 暖かい光が。


 

 その光に向かって歩いた。

 何が起こるかも分からない。


 でも、何起こらないよりはマシだろう。


 

 光に向かって歩いて行くと、光が急速に近づいて来た。


 そして、意識が光の呑まれて行く――




 そして。

 次の瞬間に立っていたのは、自分の部屋だった。


 体も動く。

 声も出る。

 「俺は……どうしたんだ?」

 そんな言葉が零れ出る。


 「母さん、俺って……」


 そう言いながら階段を下りると、腕の中に顔をうずめている母さんがいた。


 「母さん?」

 

 返事がない。


 突然玄関のドアが開き、父さんが駆け込んで来た。

 「……父さん、俺って……「悠は‼ 悠はどうしたんだ‼」

 俺の言葉を遮り、父さんが叫んだ。


 「……道で撃たれて、意識不明の重体だって……どうしたらいいの……」

 そう言い母さんは泣き出した。


 

 ……俺の言葉が、聞こえていない――? 





 家の外で頭を冷やしていると、足音がした。


 俺は、この足音の主を知っている。


 

 「もう、誰もキミに気付けないし、聞こえないよ。」

 桜庭だった。


 


 「どういうことだ? 俺は死んだのか? 俺はもう幻影になっているのか?」

 もうそうとしか考えられなかった。



 少し考え込んで桜庭が言った。


 「んー、たぶんまだ生きてはいる。でも、もうすぐ死んじゃって、魂の幻影になる。」


 くそ。俺は本当に何をやっているんだ。


 このまま俺が死んだら。


 世界に、桜庭が生きていたという証拠が無くなる。


 何としてでも、それは避けなければ。


 「……どうしたらいい。」


 「え?」


 「どうしたら俺は幻影にならずにすむ。」


 「……本当にわからないの? 分かっているでしょう?」


 そう。分かっている。

 でも、絶対にやりたくない。


 「それ以外に方法はないのか?」


 彼女は悲しそうに笑った。


 「あったらとっくに試してるよ。キミが助かるにはキミの残り少ない寿命じゃ、傷付いた身体じゃあ足りない。だから、私がキミに生命の譲渡を施す。」


 「絶対にダメだ!」

 桜庭にしか聞こえない、大きな叫び声をあげた。


 「でも……」

 桜庭が何か言いかけたが、そんなの関係ない。


 「それをやってお前はどうなる? もともと死んでいるような状態でそれをやってどうなるんだ‼?」

 無茶苦茶に叫んでいた。


 「それは……やってみないと……分からないでしょ‼」

 桜庭は少し詰まる言い方で叫んだ。

 

 「じゃあどうなの? このまま嫌だと言って駄々をこねていて、何か解決するの? このままじゃ私もキミも幻影のまま。それじゃあどっちも助からない。だったらどっちかが確実に助かる方に賭けなきゃ‼」


 初めて桜庭が声を荒げて言った。

 反論のしようがない。


 「だったら‼ 死にかけの俺の命を削ったほうが‼」


 「生命の譲渡は肉体がなきゃできないの‼ そして今キミの肉体はボロボロで病院の治療室の中。どうやったって秘術をする時間なんかない。でも、私なら。私だけは幻影のまま仮の肉体、身体を持てる。結局は私が動くしかないの。」


 「っ…」


 桜庭はさらに続ける。


 「そしてキミの命は今どんどん弱っていっている。早くしないと手遅れ。時間がない。」


 「そして」


  そして。


 「何よりも」


 あぁ。何よりも。


 「キミの心からの同意がないとできないの‼ キミが同意してくれれば‼ 生命を受け取ってくれたら‼ 私はそれでいいの‼」


 「俺は良くないんだよ‼」


 「そんなこと言っても何も変わらないでしょ‼」


 「じゃあどうなんだ? さっきの言い方だと何が起こるのか知っているんだろ? それを教えてくれ。それによる。」

 

 

 桜庭は大きく息を吐いた。



 「……分かった。実はさっき言った予言にも続きがあるの。『いずれ世に御使いと幻影の両の使命を持つ者現れん かの者の魂天上に還るとき、全てが元に戻らん しかし、かの者が生命を他と分かち合い、秘術が再び完全になる時、魂は世に残されん。全てが元に戻れど、かの者はこの世に新たなる生を受けるであろう』って。私がキミに完全な生命の譲渡を施したら、私は存在が世界から忘れ去られる。ここまでは普通に天に還るのと同じ。でも、その後私はこの世のどこかに新たに生を受ける、つまり生まれ変わる。でも、それがどこの誰になるかは分からない。キミと二度と出会えないかもしれない。でも、私にとってはキミが死ぬよりは絶対にその方が良い」


 「完全な生命の譲渡を……? そんなこと無理に決まって……」

 そう言いかけて思い出す。

 桜庭の言葉を。

 『私は、キミのことが、好き』

 『嘘だよ』

 『…………嘘だよ』


 "嘘だよ"を2回言った意味。

 ただ冗談で強調しているだけだと思っていた。

 

 でも。

 『俺のことが好き』ということが嘘。

 

 それが更に嘘なのだとしたら。



 「桜庭……お前は……」

 彼女は顔を下に向けて上げない。


 俺はどうなんだ?


 こいつに、一方的に言わせて終わりか?


 そうじゃないだろう。


 俺は、桜庭に会えないと思った時、地獄のような思いをした。



 今なら分かる。


 「……俺も、だ」


 「……そっか」

 桜庭が嬉しそうに微笑む。



 

 「受けるよ」


 「え?」

 

 「俺は桜庭 舞子の生命を貰い受ける」

 ただの自惚れかもしれない。

 でも。


 可能性が0じゃないなら。


 桜庭の言う通り、賭けるべきだ。


 

 1人でも多く助かる方法に。



 「……うん‼ わかったよ。ありがとう‼」

 

 「礼を言われるようなことはしていない」

 本当のことだ。

 俺は貰う側。


 本来なら、俺が礼を言うべき側なんだ。



 「よし‼ じゃあ行こう‼ キミの身体のところに」


 「ああ」



 

 そうして、俺達は夜の帳に包まれた町の中を歩き出した。





 「……ここだね」

 「……ここだな」


 一応手術は終わったようだが、『面会謝絶』のカードがかかっている。


 「よし、行くか」

 「……うん」


 

 そして。

 扉を抜けて中に入ると。



 何本ものチューブの囲まれ、機械の無機質の音が響く部屋に、




 俺の身体は横たわっていた。

 

 「……酷いな」

 思わず声がまろび出る。


 「じゃあ、早速。キミは身体に入って」


 「? 入るってどうすれば?」

 

 「たぶん身体に触れれば、すぐに入り込むと思う」


 「そうか」


 「じゃあ、ここでお別れだね。……でも、いざとなったらやっぱり寂しいな……いやいや、私ったら何言ってんだよって感じだよね。自分から言い出したくせに。」


 そう言った桜庭の声は、震えていた。


 俺はもう、桜庭を悲しませたくなかった。

 この少女に、辛い思いをさせたくなかった。


 だから、この震える少女を、思い切り抱きしめた。


 「……もう最後かもしれないんなら、溜め込まないで全部吐き出せ。我慢するな。」


 「っ……本当はすごく寂しいし悲しい。キミ以外の誰にも覚えていられず、何も覚えていられない世界に行くことになるかもしれないんだから。寂しいよ。本当はもっと生きていたい。キミのそばで他愛ないことで笑っていたいよ。でも、私には許されないわがままなのかな……?」


 「桜庭……」

 

 声を殺して泣きじゃくる彼女に、俺は何も言えなかった。





 ひとしきり泣いて落ち着いた桜庭が、こう言ってきた。

 「ねぇ、最後に、1つだけ、わがまま言っていいかな。」


 「何だ?」


 「ゲームをしよう」


 「は?」


 「生まれ変わった私をキミが見つけられたらキミの勝ち」


 「……ああ、良いよ」


 「ふふっ、ありがとう。キミは、本当に優しいね。」

 今度は、何も言わない。


 桜庭は、『負け』のことは言っていない。


 これは、彼女なりのメッセージなのだろう。


 『絶対に私を見つけて』

 という。

 

 「じゃあ、またね」


 「ああ、またな」


 ここで『さよなら』を言わなかったのが、俺と桜庭のゲームのスタートだった。


 

 俺はゆっくりと俺の身体に近づき、手をその上に置いた。


 そして、俺の意識は無に帰して行った。








 


 

 

 そして1か月後。

 俺は無事に退院した。

 

 院長曰く、『奇跡』らしいが、俺はこれが奇跡ではないことを知っている。


 俺のために、生命を分け与えてくれた少女がいたのだから。



 でも、世界は俺の淡い期待を完全に打ち砕いた。


 学校で桜庭の話をすると、

 「大丈夫か? そんな奴はもとから居ないぞ?」

 と心配され、


 最期の希望を賭けて桜庭のおばあさんのところまで話を聞きに行った。


 でも。


 「孫はずっと前に死んだよ」


 と虚ろな顔で言われた。



 やはり、桜庭はもうこの世にはいない。


 そう、思うしかなかった。

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