美徳(2)
私は小学二年生でサッカーを始めた。三つ上の兄がサッカーをしていて憧れを感じていたからだ。兄のいるサッカースクールに通い、私の学年は人数がなかなかいなかったので二個上の学年の練習に混ざっていた。兄の学年は人数も多く、県大会でもベスト4に残る程だったので、私はそっちに混ざりたいと不満を垂らしていた。
サッカーを続けて一年が経ち、また一年が経った。兄はサッカースクールと小学校を共に卒業した。私はもう四年生でサッカースクールにも人数が集まっていたが、既に二年が経過した私にとっては練習のレベルが低くて退屈だった。イツキと出会ったのはその頃だった。
小学校の昼放課、やっと高学年となった私はグラウンドを使った遊びができるようになった。サッカーをしようとチャイムを合図にスタートダッシュを決める。すぐに下駄箱に置いてあるサッカーボールを手に取り、外に出る。後ろから肩を叩かれた。振り返ると知らない子が私に話しかけていた。
「サッカー好きなの?おれサッカーのクラブ行ってて、上手いよ!一緒にやろうよ!」
体操服には一稀と書かれていた。
「おれもクラブ行ってるよ!サッカーしようよ!」
と私は相手の言葉をなぞる様に返した。しばらく待っていると、一稀のクラスの人と私のクラスの人が集まってきた。その日はクラス対抗という形でサッカーをした。
「遥希くんってサッカーうまいね!どこのクラブ?おれね、藤枝SC!」
語尾を強くして一稀は話しかけてくる。
「おれは、JSC。一稀くんくらい上手な子こっちにはいないよ。」
一稀は自分が褒められていることを理解していないようだった。
自分と同年代で同じくらいサッカーが上手い人に出会ったことがなかった私たちが意気投合するのに時間はかからなかった。私は母親に、一稀がいるサッカークラブに移りたいとお願いした。母親としても、兄がクラブを辞めていて、送迎が増える訳でもないので了承してくれた。一稀がいるクラブに初めて足を運んだ。
『JSCから来ました、藤田遥希です。ポジションは右サイドバックです!』
母親から大きな声で挨拶するのよ。と言われていたので律儀に守るのが小学生らしい。幸い昼休みにサッカーをする人が多数を占める、地域密着のクラブだったので初日から楽しくサッカーをすることが出来た。一稀以外はそれほど上手くはなく、間違いなくチームで見るとJSCのが強かったと感じた。しばらく経つと藤枝SCとして私が経験する初めてのサッカーの大会が来た。私は入ってまもなかったが、スタメンを獲得していた。入ったばかりで少し申し訳ないと思いつつも、心底サッカーが好きだったので嬉しさでいっぱいだった。一稀とは普段チームが分かれるので初めて一緒のチームでプレーする試合でもあった。試合で私と一稀は2人だけで敵チームを崩しながら攻めることが出来た。快勝とは行かなかったが、私と一稀で3点を決めて勝つことが出来た。この頃を語るには私には一稀が、一稀には私が枕詞のようについてまわるだろう。