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呪魂転生  作者: 社会の墓場
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第三話 悪夢

 父さんから武術を見せてもらってから俺は外で運動がしたくてたまらなくなっていた。

 数日が過ぎたあとも消えない欲望に我慢の限界を迎えて、俺は母さんに直談判を始めた。


「母さん、外へ散歩に行ってきてもいい?」


「外へ行きたいの?なら一緒に行きましょうか」


 母さんが身支度を始めようとするのを慌てて引き止める。


「あっ、いや、一人でちょっと出かけてみたいな~って」


「駄目に決まっています。急にどうしたんですか?」


 恐らく武術に必要なのは技の経験値が必須なんだろう。ならゲームみたいに特定の行動を繰り返す必要があるはずだ。だから素振りを何回すれば良いのかは分からないが繰り返せばやがて身につくと思うのだが、それを母さんや父さんに知られるのが何となく嫌だった。


「別に、ただ一人で外を散策してみたくなっただけだよ」


「・・・そうですか。リベルは賢いので色々考えてるのかも知れませんね」


 母さんが目をつむりながら思案にふけた後に答えを出す。


「それでも村の中とは言え子供を一人で外に出すわけにはいけません」


 きっぱりとした物言いだ。流石に厳しかったか。俺が親でもこんな要望されたら跳ね除ける。だけどここで諦めるほど俺の意思は弱くない。


「母さんの言ってる事が正しいと思う。でも、何時までも母さんの迷惑をかけるわけにはいかないから、どうすれば認めてくれるの?」


「何を考えているかと思えば、そんなことですか。それこそ気にしなくて良いのですが・・・。そうですね、魔法を一つでも使えれば村でもある程度の安全は保証されと思いますのでそれを条件にしましょうか」


「魔法を一つ・・・うん、分かった。ありがとう!約束だからね」


「何となく丸め込まれた気もしますが、良いでしょう。では、今日も練習を始めましょうか」


 俺は母さんと約束をした後にいつもの練習を始めた。

 子供の体だからなのかどうかわからないが、一晩寝るだけで魔力の操作が成長しているのを肌で実感する。何というか身についているのだ。手足のように使えるという例えが本当にぴったりだ。


「・・・」


「・・・」


 いつも通り母さんと手を握り合い、魔力を流してもらう。

 母さんの激流の魔力を俺はイメージで追いかけていく。最初こそ壁のように感じた母さんの魔力も今では押し返せるようになっていた。


「ふう、少し休憩しましょうか」


「・・・はい」


 魔力の流れが途絶えた事で俺の意識も現実に戻ってくる。

 いつもの寝室から食卓の方に席を移し、母さんが魔法で出した水をコップに入れて飲み込みながら一息つく。


「それにしてもリベルの成長は凄いですね。欲を言えばもう少し厚みが欲しいですが、朝の件もありますし魔法の使い方を教えておきましょうか」


「やった!」


 ねだって見るものだと俺はガッツポーズをする。


「ふふふ、全く・・・そうね、難しい話を抜きにすると詠唱という魔法の前段階をこなせば魔力が適切な量に達してさえいれば自動で使えるわ」


「詠唱?」


 俺の中でいくつか気になる疑問が吹き出すが、ここでは堪える。


「ええ、慣れると必要が無くなるから私は言ってないけど、この水を発生させた魔法も本来は詠唱があるのよ」


 無詠唱って難しいイメージだけどここではそこまでマニアックでは無いのだろうか。確かに母さんが詠唱をしているのを見たことが無い。


「いい、よく覚えておいてね」


 机の上で俺に向けて右手を突き出し詠唱を始める。


『全ての元となる水よ。顕現せよ。水の球(ウォーターボール)


 母さんが詠唱を終えると確かに、手のひらから水の球が出来上がる。

 だが俺が現在飲んでいるコップの水よりも大分量が多い。


「おっとっと」


 母さんが手のひらをかざしたまま立ち上がり、流し台の方に走っていき、水の球を落とす。


「自動だからキャンセルも量も調整は出来ないけど発動は楽なのがミソよ」


「・・・なるほど」


 俺はいくつかの可能性を考えるが、結局は唱えてみない事には机上の空論と思い。俺も母さんに続く形で詠唱をしてみる。

 右手を突き出し、確か詠唱はこうだったかな。


『全ての元となる水よ。顕現せよ。水の球(ウォーターボール)


 俺の全身から魔力が物凄い勢いで右手に流れ込んでいくのを感じる。あれ、これ母さんの激流よりも長い。というか、たり、ない。

 俺の視界が暗くなっていき、体から力が抜けるのを感じると共に意識が飛んだ。


 全身を心地よい感覚で包まれている気がした。疲れた後に長時間寝て起きた時のような充足感が俺の体を満たしている。

 もう少しこの気分でいるのも悪くないが、俺は目を開ける。


「おはよう。まだ動いたら駄目ですよ」


「おはようございます・・・」


 布団の上で寝かされている俺を母さんが近くに座って頭を撫でてくれる。


「ふふふ、しばらくは魔力が無いと思うから今日はゆっくりしていなさい」


「・・・うん」


 確かに魔力の感覚が完全に消えている。それにしても長時間寝ていた気がしたが、外はまだ昼のように明るいので単純に疲れていただけだったんだろう。

 母さんは俺が大丈夫だと判断したのか、寝室から出ていき家事をする音が聞こえた。

 しばらくは俺もはっきりとしない意識で木で出来た天井を呆然と眺めていたが、やがて意識が覚醒し、退屈になる。

 それでも体は上手く動かせない。まるで燃料の切れた機械のように力が入らないのだ。

 今までは魔力が無いのを当たり前だと思って過ごしていたが、常に纏い、意識して特訓をしていたせいで、何も感じないのが新鮮に感じた。

 そう言えば、最初はここから無理やり魔力をイメージしたんだっけな。

 俺は思いつきで再度試してみることにした。


 何も感じないところにその感覚は確かに存在すると思い込み、体から湧き立つように想像する。

 それから少し時間が経過する。だが、一切の反応がない。それでも俺は無限に感じるこの時間を使って諦めずに延々と同じことを繰り返していた。

 右手、左手、右足、左足。色々な部位で魔力があると思いこむも反応は見られなかった。

 頭、右肩、左肩、心臓・・・あれ?

 順繰りに魔力をイメージしていく中に今まで気づかなかったが心臓に魔力がある気がした。

 一度魔力を纏った状態を経験した後でもようやく違和感を感じる程度。それでも俺は不思議に思い、そこへ意識を集中する。


 それは突然だった。

 今まで通り魔力があると仮定してそこを起点に徐々に全身へ魔力を流す。その過程が吹き飛び、胸から今まで感じたことのない重苦しい魔力が吹き出し、全身へなだれ込んでくる。

 俺は咄嗟のことで反応が送れたが、ギリギリのところで意識的に抑え込むことに成功する。

 何だこれは。

 訳が分からないがとてつもなく嫌な物なのは間違いない。

 今も意識に反して襲ってくる魔力に俺は歯を食いしばって耐える。

 冷や汗を流しながらギリギリのところで抵抗を続けたが、一切衰えること無く、むしろ勢いを増していく魔力に俺は首がしまっていく感覚に襲われ、意識が飛んだ。


 俺は夕暮れが照らす赤い校舎の廊下に立っていた。人の気配が無い空っぽな廊下で俺は何故ここにいるのかを考える。

 何で俺はここにいるんだ?

 記憶を探るが一切覚えがない。

 見覚えの無い学校の廊下にぽつりとある異物。制服だけは生前に俺が通って高校のものだが、この廊下を俺は知らない。

 とりあえず、誰か人に聞いてみよう。でもなんて切り出せば良いんだろうか。

 そんな事を考えながら俺は歩く。歩き。歩いた。

 だが、空っぽな教室に無人の職員室。机や椅子は気持ち悪いほどに整然と並べられており、人が活動している気配はまるでなかった。

 徐々に得体の知れない感情が胸の中で焦燥が湧き上がっていくのを感じた。

 それから逃れるように俺は普通を求めた。誰でも良い。何でもいい。ただ、この世界を否定できる物があれば、日常を感じるものがあれば救われるんだ。

 そう思うと自然と足は早く動いた。

 ひたすらに誰かを求めて校舎の中を走り回る。校舎を走り、いくつもの扉を空けた。しかし誰かに合うこともなく、胸の中で焦燥ばかり募っていく。

 くそ、何で誰もいないんだ。このままだとやばい。何かは分からないが、良くない方向に進んでいる気がしてならない。

 くそ、校舎が駄目なら外だ。

 俺は校舎を見て回っている時に通った下駄箱を目指して、階段を降りる。その後、左に曲がり廊下の突き当りを右に行くとすぐに一階の下駄箱にたどり着く。

 俺は下駄箱を見て少し安心する。

 ここから外に出ればいつもの日常があるはずだ。この背中を追いかけてくるような焦燥感は消えてなくなるはずだ。


「確か手前から三個目の下駄箱に俺の靴が入ってたっけ?」


 俺は記憶を引き出しながら手前から頭の中で下駄箱を数えながら歩く。

 一つ。二つ。

 本来なら下駄箱の下には靴で歩ける通路と履き替えるためのすのこが置いてあるはずだった。

 みっ?!

 だが俺の靴が入っている下駄箱のすぐ下にはすのこなんてものはどこにも無く、代わりにどでかい鉄で出来たハッチが居座っていた。

 一見しては目立った汚れは無いが、ところどこにサビが浸食しており、長いことそこにあったかのように伺わせられる。

 俺は現代的で古くもない下駄箱の近くに忽然と存在するハッチを不気味に思いながらも好奇心から取手の部分を握り、開けた。


「うっ・・・」


 不思議と重さは感じなかったが、開けた先は暗闇で見渡せない暗闇で満たされていた。かろうじてこちら側の光を取り込み見えた光景は通路がコンクリートで作られており、下へと続く階段から一本の道が伸びている。そして壁面は凹凸があり、コンクリートが出ているところの裏は影になっているせいで何も見えないということだった。


 俺は暗闇の通路が続く通路を見て妙に怖くなり、ハッチを開けた手を離す。

 しかし、重さがないと思った扉は手を離した瞬間に猛然と落ちて、鈍い音を学校中に響き渡らせる。


「・・・・・・」


 歩き回っても物音一つしなかった学校に鳴り響く音に俺自身が敏感になり、耳を澄ませる。

 緊張が張り詰める中、何かの音を聞き取る。


 ・・・っず


 俺が玄関まで来るために降りてきた通路の先、階段の方から何か聞こえた気がする。


 ・・び・・・ず


 今度は聞き逃さず、確かに音がしているのを確認し、俺は後ろに振り返り、通ってきた通路の方へと足を向けた。


 ・・・び・・・ず・・・びたんっずずずず、びたんっ!ずずずずず


 近づけばそれが異様な音だと分かる。日常生活では聞く機会が無い聞き覚えのない音だ。素足で何かを引き摺る音にも聞こえるが、こんな音にはならない。まるで巨大な質量が落ちて、砕け散り、引き摺るそんな異音だ。

 俺はそれでも足を止められなかった。体の主導権を取られたかのように俺の足は音に向かってまっすぐ歩を進める。


 くそっいやだ!


 踵を返して逃げ出そうと思おうにも足はスタスタと前に進む。


「・・・!」


 歯をガタガタと鳴らしながら大きくなる音に俺は思考を占領される。


 何が、何がいるんだ?!


 そして遂に曲がり角へ到達し、俺は音の主と直面する。


「・・・うわあああああああああああああああああ!!!」


 俺が見たのは先が見通しにくい暗闇に浮かぶ木の天井だった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 俺は過呼吸気味に息を吐き出しながらも寝室の天井であることに帰ってきたという感覚が宿り、落ち着きを取り戻していく。


「リベル、大丈夫?!」


 そして息を整えようとしたところで母さんが寝室へ飛び込んできた。

 日は落ちて夜になっていたせいで、リビングの方から寝室へ光が差し込んでくる。


 俺は母さんの顔と明るい光、いつもの光景であることに心底安心する。


「ごめん。何だか・・・悪い夢を見ちゃって」


 俺の気分はまだまだ優れないが、首だけを母さんの方に向けて返答する。


「すごい汗よ。ちょっと待ってて」


 母さんはそう言って、一度リビングの方へ戻り何やら忙しなく動き始めた。

 俺はそれをじーっと見つめ、帰ってきたことを実感する。

 本当に酷い悪夢だ。まだ胸の中がぐわんぐわん揺れている気がして気持ちが悪い。


「はい、お水」


 母さんはコップに水を入れて持ってきてくれた。他にも濡れた布を持ってきてくれて、体を拭いてくれる。

 俺は母さんの言われた通りに動き、汗を拭き取ってもらう。さっぱりしたところで再度、俺は横になった。


「ありがとう」


 俺がポツリとつぶやくと母さんはベッドの正面に椅子を持ってきて座った。

 まだ夕飯までには時間があるらしい。


「本当に大丈夫?」


 母さんが心配そうに訪ねてくる。


「うん、何だか落ち着いてきた」


 俺は意図的に夢のことを思い出さないように母さんの事をじっと見つめ何も考えないように努める。


「そう・・・」


 母さんはなにかを言いたそうにしてはいたが、切り出すことはなく、沈黙が訪れた。

 俺はそれが怖くなり、母さんに聞いてみた。


「ねえ、母さん。何かお話を聞かせて」


「お話?」


「うん。何でも良いよ」


「お話ね・・・」


 母さんは指をこめかみに当てて、思案を始めた。ちょっと無茶振りしてしまっただろうかと脳裏をよぎった頃に母さんが話を始める。


「・・・うーん、じゃあ、むかしむかし」


 そう切り出し、母さんの話が始まった。

 話の内容はなんてことはないよくある人を救う物語だった。

 ある日、貧しい村に生まれた一人の少年がおかしな事をやり始めました。

 腹をすかせて育ったせいで頭でもおかしくなったかと村のものは考え放置していると、やがて少年は奇跡を村にもたらした。

 手から火が出て、薪に火をつける手間が省けた。どこからとも無く水が現れ、井戸へ水を汲みに行く必要がなくなった。無風で蒸し暑いときでもその少年に近づくと何故か風が吹き始めた。硬い土を耕す際はスキを下ろしもせずにふかふかな土を作った。

 そう、現代で言う魔法の始まりです。

 少年はその奇跡を使い村は潤いました。

 そして少年は告げます。

 この奇跡が自分だけのものでは無い。努力すれば皆も使えるはずだ。

 少年に教えてもらった人たちはたちまち同じ奇跡を見に付けたました。ですが、同じ方法でも身につけられないものもいました。

 それでも村は奇跡に祝福され繁栄しました。


「それを見た少年は村を出て、行く先々で奇跡を伝え人類を繁栄させましたとさ・・・」


 母さんが区切りがついたかのように話を終える。


「ぱちぱちぱち」


 俺は体がダルくて動かなかったので口で手をたたく。


「ありがとう」


 母さんは無事に話しきれたことに安堵するように一息つく。


「その少年は一人で魔法を作ったの?」


 俺は疑問に思ったことを母さんに聞く。


「ええ、そうよ。でも、神様のお告げがあったと言われているわ」


「神様?」


 突然怪しくなった話に俺はオウム返しになってしまう。


「少年に魔法を教えた神様はズドー様と言って魔法を広めた神様とも言われているわ」


 へー。

 俺は回らない頭で心のなかで相槌を打つ。


「・・・実はこの物語には続きがあるの」


 母さんが間を取って話を再開させ始める。


 少年は行く先々で奇跡を伝え、いくつもの人々を潤しました。ですが、とある村で予想外の事態に直面します。

 その村には別の奇跡がありました。

 今までそんな事が無かったので、少年は深く驚きますが、交流を図り教えてもらおうと考えます。

 最初こそ上手く仲良くなれましたが、少年の奇跡を見た村人は突然態度を変えて少年を村から追い出しました。

 少年は心に傷を負いながらも理由を聞きましたが、村人は頑なに答えません。


「村人の態度を見てこれ以上は関わらないと決め、少年は次の村へと向かいました」


「・・・・・・」


「・・・めでたしめでたし」


「あれ?これで終わり?」


 目をつぶって話し終わった感じを出す、母さんに思わず質問をぶつける。

 あまりにも突然過ぎる。しかもその物語は必要だったんだろうか。


「ええ、そうよ。ただ、一つ付け加えるなら」


 母さんは一度区切り、俺の頭を撫でて、髪を触る。


「その追い出した村人は皆が皆、黒い髪をしていたそうよ」


 あーなるほど。よくある村で付け加えられるやつだ。多分、他の村では別の話が出来上がっているんだろうな。

 それでも母さんは信じているみたいなので、俺はそれに合わせる。


「すごーい!」


「でしょう?リベルもいつか物語になった時に恥じない行動をしなさい」


「はい!」


「ふふふ」


 母さんはそう言って俺の頭を再度撫でてくれる。

 こうやって物語は教育に使われるんだろうな。それにしても何で追い出したんだ?


「母さん」


「・・・リベル、この魔力どうしたの」


 質問をしようとしたら母さんが突然真剣な顔になる。

 魔力?魔力はなくなったはずだ。

 俺はそう考えるも確かにこのぐわんぐわんした気分は気分だけじゃなく、本当に体もだるい。

 夢のせいで体が疲労しているのだろうと勝手に思いこんでいた。


「リベル、夢ってどんな夢だった?」


 いつもの母さんと、いや、先程までの昔話をする母さんではない。至極真面目な母さんが俺に向かってまっすぐ問いかけてくる。まるで俺の話を吟味し、間違いを許さないかのような圧だ。

 だが、俺もすぐに答えることは出来ない。学校やハッチなど、この世界には存在しない前世の記憶だからだ。


「・・・」


「・・・」


 それでも俺は黙り、必死に夢を思い出し、母さんに分かるように伝えようとする。


「・・・あまり、覚えてないけど、建物中を歩き回って、そしたら・・・」


 奴が・・・。そこから先を俺は具体的に言えなかった。心が拒絶し、脳が停止する。

 怖いのだ。思い出すのがどうしても怖かった。


「ごめんね、辛い事を思い出させちゃって」


 俺は気付かない内に目から涙がこぼれ落ちていた。


「良いの、分かったわ。今日はもうゆっくりしていなさい。ね?」


 母さんがいつもの母さんに戻り、必死にあやしてくれる。子供みたいで情けないが、嬉しかった。


「・・・母さん、ただの夢だよね?」


 それでも俺は母さんにすがらざるを得なかった。あれがただの夢だと。


「もちろんよ。ただの悪い夢よ」


 そう言って、母さんは俺の頭を撫で続けてくれた。


「そろそろ夕飯の支度をしなくちゃいけないから、母さんは行くけど何かあったら読んでね?」


「うん、ありがとう」


 母さんは椅子から立ち上がり、リビングの方へ歩いていった。

 ドアは開けたままなので光は寝室に差し込んだままだ。正直この気遣いは助かる。

 だが俺の頭の中は疑問で埋め尽くされ、心は不安が掻き立てられていた。

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