元国王
いったいどれほどの月日が経ったのか分からん。
何故、こんなことになったのかもさっぱり理解できん。
王家に生まれ、当たり前のように国王になった。
なのに、今は何者でもない。
あの男は言った。
『あなたの国なくなったよ』
嘘だとは思わなかった。
男の目は真実だと語っていたからだ。
息子は言った。
王妃は死んだと。
彼女がいないなら国は亡ぶだろう。
完璧な王妃だった。
およそ、公爵令嬢とは思えない程に。
まるで生まれながらの王族かのように振る舞っていた。己の責務をわずか十代半ばの少女が理解していたのだ。私とてバカではない。彼女の方がずっと「王」に相応しいことは分かっていた。
ずっと苦手だった。
私を映すことのない目が。
観察されるかのような眼差しが。
それだけではない。
王妃は優秀過ぎたのだ。
全てにおいて、私の遥か上をいく。五歳下の少女に負ける屈辱を彼女は知らないだろう。やせ細った少女が美しくなるたびに感じるのは畏怖だった。
なのに、何故か今思い出すのは王妃の姿だ。
どんな時でも凛と立つ姿が思い浮かぶ。
もし、もしも、彼女との子供がいれば……こんな事にはならなかったのではないか?
王妃の子なら間違いなく優秀な息子だったはずだ。
父親を売る様なマネはしなかった……。
王妃は義理堅い性格だ。
誠意を示せば、それに応えてくれた。
ああ……。
後悔だけが募っていく……。




