宰相の息子
王都の屋敷は荒れ果てていた。
窓は破られ、窓ガラスが室内に散らばっている。よほど暴れたのだろう。壁が壊され家具も壊されていた。明らかに金目のものと分かる絵画や装飾品がなくなっている。暴徒達に持ち去られたのだろう。屋敷にいた使用人たちは誰もいない。逃げたか……あるいは殺されてしまったか……遺体がないので判断がつかなかった。
母とその愛人は殴り殺され、遺体は庭に放置されていた。
ここで暮らす事はできない。
「ヴィクター」
荒れ果てた庭を眺めているとジュリエットに声を掛けられた。
帝国と公国の軍が占領して暫くの後、ジュリエットも王都にやってきた。戦後処理のためだ。
「会議が終わりましたわ」
「王都はどうなる?」
「帝国の占領下に入ります。いいえ、少し違いますわね。ここは最終的に中立地帯になりそうですわ」
「中立?帝国軍の軍事拠点になるのではないのか?」
「それは帝国側から断られましたわ。既に帝国の軍事拠点は多数あるからという理由で……」
「そうか……」
旧王国の尻拭いは御免だと言う事だろう。
王都の民は今は静かだが、いつまた暴徒化するか分からない。その前に共和国の密偵が地下に潜ったという話もでているのだから仕方がない。思いを巡らしているとジュリエットが僕の手を取った。
「ヴィクター。公国に帰ったら、私と、結婚式をあげてください」
まさかのプロポーズだった。
「僕達は婚約者同士だが……」
「ええ。でも、ずっとドタバタしてたでしょう? 何処かのアホ王子のせいで、このような場所にまできてしまいましたわ。この先も何事もなく平穏無事に済むとは到底思えませんし……ですから、急ぎ婚姻届けだけは提出して参りましたわ。後は結婚式だけすればいいように!」
ん?
一部おかしな事を言わなかったか?
婚姻届け? 提出してきた? え? え?
それって――
「もう既に結婚しているのか!!!」
僕は雄叫びをあげ、ジュリエットはコロコロと楽しそうに笑っている。
いつの間にか婚約者の手によって既婚者にさせられていた事実に驚く他ない。
「アテナ様が一日も早く世継ぎの顔を見せるようにと仰ってくださいましたわ。家族の了承はとうの昔に取り付けていましたから今更ですわね。一人だけ『早すぎる』と仰って中々了承してくださらなかった白豚が居ましたけど、その方はアホ王子と同類っぽい方でしたので既に土の中ですし、問題ありませんわ!」
美しく微笑む婚約者……、いや、妻よ、今……恐ろしい言葉を言わなかったか?
僕の気のせいだろうか?




