騎士団長の息子2
新国王が即位して半年、王宮から引っ切り無しに「夜会」や「茶会」の招待状が届く。よっぽどお目出度い貴族でない限り欠席だ。今なら『前国王夫妻の喪が明けていない』という理由付けができる。流石のエドワード王も前国王夫妻の事を出されるとそれ以上は何も言わない。
それよりも、あの夫妻は王都の貧民街に炊き出しを行っている。しかも頻繁にだ。何でも「貧しい人々への救済」らしい。
「アホか?」
「アレックス、言葉が過ぎるぞ」
「いや、どう考えてもアホな行動だ。ヴィクターもそう思っているだろ?」
「……何らかの意図があるのかもしれない……とは思っている」
「あの二人の事だ。何も考えていないと思うぞ?」
「……名目上は民への救済だ」
「あの夫婦が言うと白けるな。彼らのせいで貧しい民が増えたというのに」
「……それでも貧民街の住人は喜んでいるそうだ。これで王都では新王夫妻の評判は益々上がっていくだろう」
「その分の皺寄せがこちらにきそうだがな」
「まさか!」
「無い、と言い切れるか?」
「それは……」
「国庫だとて限りがある。今は良いが、このまま炊き出しを続けていたら底が尽きる。何しろ『善意あるボランティア活動』に過ぎないからな。材料費も馬鹿にならないだろうに。貧民街の住人に必要なのは施しよりも働き口の斡旋だ。そして税金を払ってもらう。なのに、彼らのやっている事は民から働く意思を奪うのに等しい。何しろ、働かなくともタダで食事が出来る状況にしているのだからな。この調子だと貧民街の住民がどんどん増えるぞ。お優しい新王夫妻には想像できないようだがな」
ヴィクターは苦笑した。
口に出さないだけで想っている事は一緒だろう。
エドワード王に進言した者がいる。
市井の出の者なら良いが……リベルタ共和国の間者だとすると厄介だ。
帝国には既に伝えてある。
静観するべし――。
沈黙を保てという返事だった。
決め手がないのかもしれない。
それとも、別の思惑があるのか……。
かの帝国はどこまでも静観を決め込んでいる。
それが却って不気味だ。
大きな反動が起こらなければよいのだが。
新王夫妻の皺寄せは地方に来た。
度重なる民への施しは思っていた以上に国庫に打撃を与えていたのだ。
新王即位一年後に王都以外の地域住民に対しての増税が発表された。




