騎士団長の息子1
国王夫妻と側妃の逝去の知らせが遠く離れた王都から報告が入った。
そして、死んだはずのエドワード殿下が即位した。
「死んだはずでは?」
「国葬でしたから死んでいた事は間違いないかと」
「では何故? 影武者を仕立てていたのか? いや、それはないな」
はい、王太子でない王子に影武者はつきません。
となると本人である可能性が大いにある。
しかし……。
「誰が助けたというんだ? 今の時世で殿下を助けたい者など貴族にも平民にもいないだろう?」
「はい。殿下を助けるメリットがありませんから」
「あ、アレックス。そういう意味では……」
ではどういう意味ですか?
「殿下には親しくしていた貴族はいなかったから……おかしいと……」
あ、そっちですか。
殿下と以前親しくしていた貴族は既に距離を取っていますからね。
「殿下を助けるとなれば何処かの間者でしょうか?」
「それか、我が国の不穏分子だろうな」
「殿下はヴィエンヌ王国滞在中にリベルタ共和国人と親しくしていました。王都に戻ってからも身分を隠して市井の者達と交流していたと報告を受けています」
「リベルタ共和国か……。奴等なら何でもやりかねん」
「はい」
通常、国王陛下が在位中に逝去した場合は三年間喪に服さなくてはならない。
だが何を考えているのかエドワード殿下は「国王逝去」を宣言した一週間後に「国王即位」を宣言した。
宣言すれば「国王」になれるという訳ではない。
その前に、国王夫妻の急な死を受け入れられていない国民には寝耳に水の情報が次々と入ってくるので混乱状態だ。一ヶ月後に婚礼を上げるという宣言まで出されたのだからな!
一体何処の女と結婚するのかと訝しんでいたら、結婚相手はあの婚約者だった。
「ゴキブリ並みの生命力だ」
父上、感心する処が違います。
更なる情報が入ってきた。
はっ!?
「戴冠式と結婚式を一緒にするだと!?」
アホの考えている事は理解できない。
詳しく聞くと、どうやら戴冠式のやり方が分からないために「自分達のやり方」を模索したという。
やり方を知らないとはどういうことだ!?
「アレックス様、主だった貴族は既に王家を見限り領地に帰っております。宮廷貴族も避暑地の方に移動済みです。恐らく王子に教える者がいなかったのではないかと……」
「歴史で習っただろう」
「あの王子殿下の事ですから忘れているのでは?」
「それもそうだな」
実に納得のいく答えだった。
極端な話、王冠を被ればOKというものだからな。
もっとも式典に来てくれる王侯貴族は一人もいないだろうが。
「結婚の件はアリス嬢が強請ったようです。戴冠式と結婚式を一緒に行えば経費も浮いて一度に全てが終わるので一石二鳥だと言って」
頭の痛くなる話だ。
それは良い考えだと賛同する王子も王子だ。
一ヶ月後、エドワード殿下の戴冠式と結婚式が行われた。
国王夫妻の死に疑問を持つ王都民であったが、王家からの恩赦や、支給された祝い酒や御馳走の前では「新国王、万歳」をした。
その後、三年間の王都民の税免除を施行し、王都民からの非難の声はなくなった。




