王妃5
「陛下と初めて会ったのは結婚式の時です。私が十五歳、当時王太子であった陛下が二十歳。瘦せすぎて小枝のような小娘に食指が動かなかったのは致し方ありません」
亡命、家族と親しかった者達の処刑、祖母の病死。
全てが一度に起こり、あの頃の私の精神は限界だったのです。食べては吐くを繰り返し。
「国を失い親を喪った王女にする態度ではありません」
「仕方ありません。陛下は何も御存知なかったのですから」
「それでも『公爵家は食事もまともに出来ないほど困窮しているのか?このようなみすぼらしい娘が正妃だなどと見栄えがしないではないか』と本人を目の前にして言う言葉ではありませんよ」
「よく……覚えてますね」
「私もあの場にいた一人ですから」
思えば、彼とも長い付き合いになりますね。
次期宰相として父君と共に修道院にいらしていました。
「陛下は昔から素直な方ですから。あの後、真摯に謝ってくださいました」
「今まで見た事のない公爵令嬢の存在、結婚時期。普通は疑いますけどね」
「生まれた時から病弱で静養のため国外に居た公爵令嬢、そういう触れ込みにしていましたけど……陛下が知らなかった事は迂闊でしたわ」
「結婚相手の事を知らない陛下が悪いですよ。先代の国王や宰相であった私の父からも伝えてあったというのに。それでも……全く疑いませんでしたね、陛下は」
「公式発表に疑問一つ抱かない方でしたわ。陛下は今でも私が病弱だと思っているのかもしれませんね」
「あれから十年以上経ってますよ?」
「最初の印象は中々拭えないものです。健康体になった姿を見ても私と関係を持つ事は一切なさいませんでしたから。もしかしたら行為自体が体に負担だと思っているのかもしれませんね。ましてや子供の出産に耐えられないと考えたのかも……」
「……それはいいように捉えすぎです」
「そうかしら?」
「そうです!」
呆れる表情の宰相。
彼のこんな顔も久しぶりに見たわ。
何時も冷静沈着で薄ら笑いを浮かべる人だったから。
陛下の私に対する態度を怒ってくれる数少ない人でもあった。
彼が思っている程、私に対する対応は酷くなかったのだけれど……。
陛下を愛することは出来なかった。男としても家族としても……。




