王妃4
「久しぶりに本名で呼ばれましたわ」
「殿下……」
「殿下はよしてください。私はもう王妃でも王女でもないのですから」
「では、なんとお呼びすれば宜しいのですか?」
「テレサ、で良いのではないかしら? 陛下と離縁した今、私は只の公爵令嬢に戻ったのですもの」
「公爵令嬢ですか……」
「間違ってはいないでしょう? コムーネ王家の血を引く公爵家の娘ですもの。この国に足を踏み入れた瞬間から私はテレサ・ウェーズルになったのよ。リベルタ王国のテレジア王女は死んだ。家族と共にね……それが公式記録だわ」
あの日。
全ては偶然だった。
民衆が王宮になだれ込んできた時、私だけがそこに居なかった。おばあ様のお見舞いで郊外の離宮にいたため難を逃れる事が出来た。
離宮は、王領であり、領民達は「王家派」と言ってもいいほどに王族を敬愛していた。彼らが時間稼ぎをしてくれている間に私とおばあ様は国境を越え、最北端の修道院に辿りつきました。途中で、報告を受けたコムーネ王国側の私設警備隊と合流し、彼らに守られながら向かったのです。
両親達が民衆の手によって公開処刑されたのは一年後のこと。
用心のために私とおばあ様は最北端の修道院で三年ほど過ごす事になったのです。
三年の間、おじい様は修道会を極秘で度々訪れていた。着の身着のままで脱出してきた孫娘が傷一つ負わずに無事だった事を酷く喜ばれていたのです。
「先代達の目論見もご破算ですわね」
「殿下……」
「そうでしょう? 私を陛下に嫁がせたのも目的があってのこと。私と陛下の間に子供が出来ればコムーネ王国の王位は無論のこと、リベルタ王国の継承権をも主張できるんですもの」
もっとも、それが本当に成功するかどうかは別として……。
おばあ様とおじい様の間でどんな密約があったのかは知らない。どちらも最後まで口を閉ざしていたし、私も無理に聞こうとは思わなかった。
「先代国王が、というよりもその忠臣達が何やら計画していたのは確かですけどね。ですが、その彼らも既に墓の下です。でん……テレサ様は自由の身です」
「今更、自由と言われてもね」
「人生これからですよ!テレサ様はまだまだお若いのですから何だって出来ますよ!」
「……何ができるのかしら?」
「クスッ。それこそ何でも。恋愛をするも良し、子供を産んで育ててもいい。普通の家庭を持つのも楽しいかもしれませんよ」
「普通ねぇ」
「ええ、陛下との結婚は『白い結婚』でいらしたので、今度こそマトモな結婚生活を送るのも一興ですよ」
やはり気付いていましたか。
食えない方ですね。




