王妃1
その知らせは思っていたよりも早く届けられました。
エドワード殿下とその婚約者が共に亡くなったという知らせ。
悲劇的な事故。
地方を初めて訪問したエドワード殿下は随分と羽目を外されていたようで、夜の外出は禁じられていたにも関わらず婚約者を連れて護衛も付けずに王都の市井同様にお忍び視察を始めてしまわれたのです。
結果、二人揃って身包みを剥がされ、遺体を森に捨てられたのです。発見されたのは翌日の昼。既に遺体は野生動物に食い荒らされた後というではありませんか。身に着けていた装飾品も何一つとして残されていなかったため、金品目的の犯行であると現地警察に判断されたのです。遺体は、若い夫婦が運悪く犯罪に巻き込まれたという事で話がまとまり、その地の領主が慈悲として二人を一緒の墓に入れさせたのです。
遺体の回収はさせませんでした。
死んだのは飽く迄も旅行に来ていた平民夫婦なのです。国の王子とその婚約者が殺された事は伏せました。二人が亡くなったのは王宮に戻ってから。慣れない長旅の疲れもあってエドワード殿下は病にて没した、という筋書きです。アリス嬢は献身的な看病の末に婚約者の死のショックで倒れて後を追うように亡くなった。
これが公式発表される内容。
数日後、二人の葬儀は王家の手によって行われました。
ブロワ公爵夫妻が参列する事はありませんでした。
「何時まで泣いていらっしゃるのですか?」
陛下は寝室でエドワード殿下の死を嘆き悲しんでいました。側妃は今もベッドから起き上がれない程に憔悴しています。
「王妃……」
「こうなる事は分かっていたではないですか」
王子達の死は予定通りだったのですから。
「私はこんな事は望んでいなかった!あれほど……頼んだではないか」
「離宮への幽閉の件ですか?」
「そうだ!」
「宰相は許可しなかったでしょう」
「……王妃の許可がいると言っていた。何故だ。何故、許可を出してくれなかったのだ」
「陛下のご指定された離宮は幽閉場所として適さなかったからです。幽閉するのなら最北端の修道院でなければ許可しませんと申し上げたではありませんか。それを無視した結果です」
「あ、あんな山中の……雪に覆われた場所に息子を送れというのか」
「一番安全な場所ですよ?」
「どこがだ!入れば生きて出られない場所だ!生きながら死んだようなものではないか!」
「そうする事が『可哀そう』と思ったからこそ、陛下は『無視』を決め込まれたのでしょう?」
「……王として国を正常に戻す必要があると言われたからだ。市井に出向くことでアレがよからぬ連中と親しくしているとの訴えがあったから……」
「陛下、陛下は御自分が正しいと思った道をお選びになったのです。嘆く必要はございません」
嘆くべきは最初からこうしなかった事です。
キャサリン様が王国を出て行かれる前にエドワード殿下に毒杯を与えるべきでした。




