王子2
民を知る事は国を知る事だ。僕は精力的に市井に足を延ばし下々の者達の暮らしぶりを肌で感じ取っていた。
「最近ちっともアリスに会いに来てくれないのですね」
「アリス……?」
「今も何だか上の空……。私との茶会は退屈ですか?」
「いや、そんなことないよ」
王妃様の妃教育の賜物か、アリスはスッカリと貴族の令嬢だ。立ち居振る舞いも粗が無くなってきている。これなら高位貴族の令嬢と遜色ない。
「なら、もっと会って話がしたいです」
「でも……王妃様がお許しになるかな?」
「それなら大丈夫です!王妃様もエドワード様との交流が最近減って心配してくださってます!妃教育の時間を減らしてエドワード様との時間を作ってもいいと仰ってくれているんですよ!」
「王妃様が?」
俄かには信じがたい事だ。
「はい!お義姉様の時も交流が段々と減って最後には別れる事態になってしまったから私にはそうならないように頑張って欲しいとも言ってました!こうやってスケジュールの調整までしてくださるなんて……私、王妃様をずっと嫌な女と思ってましたけど良い処もあるんですね」
アリスが差し出してきた一枚の紙。
それに記されていたのは僕とアリスの一日のスケジュール表だった。
「アリス……これはその……」
「私とエドワード様の一日の主なスケジュールです。多少変更があっても構わないと王妃様が仰ってましたけど何か問題でも?」
不思議そうに首を傾げるアリスに「問題あるだろ!」とは言えない。
一見、特に問題がないように調節されている。僕の市井を視察する時間がアリスとの時間に回されているだけで……。
「エドワード様が構ってくれなくて寂しかった……でもこれで寂しくありませんよね!」
上目づかいで見つめてくるアリスの目には涙が溜まっている。泣くのを我慢しているなんて今までのアリスからは考えられない事だった。それだけ寂しい思いをしてきた証拠だ。僕の責任だ。
「アリスと一緒で僕も嬉しいよ」
「エドワード様!!」
感極まって抱きついてくるアリスにまだまだ淑女とは程遠いと思いながらそんな処がより一層愛おしいとも思った。友人達には悪いが暫くの間はアリスを優先させてもらおう。「良い夫」、「良い恋人」とやらは妻や恋人を蔑ろにはしないと言うからな。三人も納得してくれるだろう。




