宰相の息子2
その日から注意深く殿下の動向を気に掛けていると、アテナ嬢が言っていた通り殿下はリベルタ共和国出身者と思しき人物と親しく話されている姿が度々見られた。殿下だけでなく相手側も親しくしているのを隠す気がない行動の数々に溜息が出た。
「知っているか?ヴィクター。リベルタ共和国は数十年前に悪しき為政者から国民を解放し、新政府の元で正しい政治を行っているそうだ。何でも国民の全てが『国』という中で平等であり自由を保障されているというではないか!どんな階級のものであっても法の下では対等であるなど驚くべき事だが素晴らしい政策でもある。そう思わないか?」
きりきりと胃が痛む音が聞こえてくる。
「殿下、我が国とリベルタ共和国では土地に根差した文化も国民感情も全く違います」
「……そなたもか」
「はい?」
「アレックスもリベルタ共和国の事を褒めてはくれなかったのだ。いや、逆に非難していた。ヴィクターはアレックスとは親しい友人らしいな。その辺の理由を知っているか?どうもアレックスはリベルタ共和国に関して厳しいのだ。かの国の者と親しくする事にも良い顔をしなかった……。何か知っている事があれば教えて欲しいのだが……」
「申し訳ございません。如何に友人といえども込み入った事情までは把握しておりません」
「そうか……。突然こんなこと聞かれても困るものだな。すまない」
「いいえ。殿下が謝られる事ではありません。気になるようならアレックスに詳細を尋ねてきますが……」
「いや、それには及ばない。少し気になった程度だ。アレックスもリベルタ共和国人に対して苦手意識があるのだろう。余計な詮索はしない。人にはそれぞれ好き嫌いがあるしな」
「さようですね……」
その後、殿下から疑問の言葉は聞かなかった。




