騎士団長の息子6
バートンの話では幼少期の父上は素直で思っている事が何でも顔に出てしまう子供であったそうだ。これから貴族社会で生き抜くことが極めて困難なほどに。他の貴族も厳しい状態だったが、我がベデヴィア伯爵家は族滅寸前までいっている。ここで次代の父上が転べばまず再興の余地はない。一族を守るためにも祖父は鬼になった。
まず、父上を何が起こっても冷静かつ迅速に動けるように『体』に叩き込んだ。お陰で父上の首から下はどんな状況下に置かれようと「貴族当主」として「武人」として正しく行動できる。本人はパニックに陥って全く覚えていない状態にも拘わらずに。父上が人間らしい感情を抱けるようになったのは母上との婚約とその後の結婚生活からだ。
バートンが常々、「奥様は正しい子育てをなさっておられました」と呟いていたので、母上が父上の情緒を育てたのだろう。
父上ほど酷くはなくても大多数の貴族はスパルタ教育を徹底した。
親や家に反発して家出する者もいれば、家督を継ぐことを拒む者もいた。が、それらの末路は更に悲惨だ。一族で「始めからいなかった」とされ人知れず「処理」された件は枚挙に暇がない。
当然、弊害も起きる。
スパルタ教育によって「結果重視」の人材が増えたことだ。成果を出せばその過程は重要視しない、といった偏った考えの者が増えてしまった。確かに結果は大事だ。だがその過程が違法行為すれすれでは話にならない。国内だけならなんとなるかもしれないが、諸外国の者を相手に行えば国際問題になる。過程も重要視する教育がなされたのが私たち世代だ。お陰で親世代よりも自由度があり、精神を病む者も少ない。




