宰相の息子3
王家は何をやっているんだ!
妃教育は順調に進んでいるはずではなかったのか!?
「前提がそもそもの間違いですわよ?」
はっ!?
なにがだ?
王妃殿下の指導の下で一歩ずつ成長していると聞いている!
「……それ誰から聞きましたの?」
勿論、王宮勤務の者達からの情報だ!
女官や侍従に聞いたのだから間違いない!
それよりもジュリエットは何時から僕の心の声が読めるようになったんだ!?
「先ほどからずっと声にだしてますわよ?」
「……ずっと?」
「はい」
「え……と。いつから?」
「アレックス様と話されていた時からですわね」
「最初からじゃないか!」
全身から力が抜けそうだ。
気を張っていないと無意識に声にだしてしまっているらしい。
「そんなことよりも、ヴィクター。貴方は前提から間違えているようですね」
「間違えている?」
「ええ。ヴィクターは妃教育が進んでいる事を前提に話しているけれど、その『前提条件』がヴィクターと王宮の者達の間に大きな溝があるんだわ。ヴィクターはアリス嬢が基本の教育を終了している事を前提に話をしているんでしょうけど、それは違うわ。アリス嬢は高位貴族令嬢の作法の基礎がギリギリで及第点を頂けている段階なのよ?当然、それ以外の教育を身に付ける段階には入っていないわ。アリス嬢の知識は今も下位貴族のままなの。王宮の者達はそのことを踏まえて話しているのよ」
「下位貴族の知識のまま?」
「そうよ。貴方も聞いた事があるでしょう。アリス嬢が高位貴族としてのマナーも知識も全く身につけていないまま王宮入りを果たした事を。王妃殿下の教育でなんとかマナーだけは身につけられている状況でしょう」
「聞いてはいたが……てっきりマナーと同時に勉学もしているものと……ばかり」
「普通はそうですわね。ですが、アリス嬢に関してはそのような常識は通用しないと理解しておかないといけないわ。そうでなければ貴方と王宮の者達との勘違いは加速する一方よ?」
「学園に通っていただろう?そこで学んでいなかったのか?」
「ヴィクター……私たち高位貴族にとって学園は今までの教育の復習と成人後の人脈づくりが主だわ。その中にアリス嬢が入っていくには相当の努力が必要なの。教師達も学び終えた事の応用を教えているんですもの」
確かにその通りだ。
学問は専ら応用か更なる高度なものを求められた。
「それでも共通語は話せるだろう?」
アリス嬢が今も下位貴族としての知識しか持ち合わせていないとしても、それ位は出来るはずだ。
現に下位貴族の文官は多い。
彼らは高位貴族に劣らない綺麗な共通語を話している。
「高位貴族ならば話せて当然の事でしょうけど、下位貴族はそうではありませんわ。寧ろ、流暢に話せる人材は限られているはずですよ?彼らは私たちとは違って他国と交流する者は少ないのだもの。学園でのテストに合格さえすればいいと考えているはずだわ。運がいい事に学園のテストにリスニングはありませんしね。だから、下位貴族の殆どの者達は共通語の読み書きは出来ても、話すことの出来ない者が大半なの。当然よね、会話をしなければ外国語なんて話せようもないんですもの。ヴィクターがいう下位貴族はエリート集団。私たちのように出来て当たり前の人材ですわよ」
気付かなかった。
だが、ジュリエットの指摘通り、僕の知る下位貴族は文官が大多数だ。
当然、国内外に精通している者達。国有数のエリートだ。いずれは優秀な官僚になる者達ばかり。
よくよく思い返してみたら僕はアリス嬢の事も下位貴族の事も知らなさすぎた。
王宮で侍従や女官を務めるのは貴族だ。
その中でも下位貴族出身者は有能さを求められる。
僕も殿下の事を言えない。
世間知らず過ぎる。




