表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/70

王子7

血の気が引くとはこういう事をいうのか。

恐ろしい事実に直面してしまった。目の前にいるアレックスはいつもと変わらない涼し気な表情のままだ。そんなアレックスの隣にいるヴィクターの顔色は悪い。僕と同じ位に酷い顔色だ。きっと僕同様この事実を知らなかったのだろう。


「キャサリン様を侮辱するという事は即ち()()()()()()()するも同然の行為。殿下が五体満足でいられるのは国王陛下が帝国に()いつくばって許しを乞うたからです」


「え……?」


「何を驚かれる事があるのですか?陛下が恥も外聞もかなぐり捨てて皇帝陛下に謝罪なさったからこそ殿下は()()()()にお過ごしになられているのですよ?」


父上が?

僕のために謝罪を?

グランデン帝国の皇帝陛下は恐ろしい人物だと伝え聞く。気に入らない相手には容赦しないとも……。



「殿下は御自身が国王陛下の唯一人の御子であるという自覚が乏しいのではないかと思われます。帝国の事もそうですが、迷惑を被ったキャサリン様に対して一度でも謝罪なさった事がありましたか?私の記憶ではなかったと存じます」


アレックスの言う通りキャサリンに謝っていない。

キャサリンは婚約が白紙になって直ぐに()()()()()してしまったのだ。謝るも何もないではないか!だが謝罪が必要な事は理解した。帝国は僕がキャサリンに謝罪しない事を根に持っているんだろう。


「分かった。キャサリンが国に戻ってきたら改めて謝罪しよう」


本当は謝りたくはない。

僕は何も悪い事はしていないのだからな。自分に正直に行動をしただけだ。だが、それが帝国にとって許しがたい行為だというのなら頭を下げよう。


「その必要はありません」


ピシャリと断られてしまった。

何故だ!?


「キャサリン様に謝罪出来る時期はとうに過ぎております」


「へ?」


謝罪に早いも遅いもないだろう。気持ちの問題だ。


「キャサリン様が国をお出になられる前ならばまだしも、一年以上過ぎた今になって謝罪なさっても意味がありません。寧ろ、問題が悪化するだけです」

 

「え?」


何の話だ?

問題の悪化?


「陛下が帝国に()()()()()を押し通したお陰で帝国からのペナルティは最小限に抑える事が出来ましたが、それ以外の国々からはより一層厳しい目で見られています。それは下々の間でも同じと言えるでしょう。我が国の商店との取引が突如キャンセルされたり取引停止になったりとあらゆる面で被害が出ました。ある貿易商などは家族で夜逃げしましたし、王都の商店も何軒かは店を閉めました。なかには一家離散した処もあります。もっと言えば責任者が首を吊った処もありました。働く場所をなくし、再就職もままならず貧民街にまで堕ちた者も何百人といます」


「は……初めて聞いたぞ」


「そうでしょうとも。今話した内容は()()()()()()()()()()でしかありません。特に商売関係ですからね。自由貿易に政治が絡むことは稀です」


「なら、やはり僕はキャサリンに……」


「今更謝罪した処で失った()()は元通りにはならないのです。それに貴族たちの中でも被害にあったものは大勢います。領地経営の当主などは税金を上げて当座を凌いだ位です。殿下が遅まきながら謝罪した処で更にややこしくなりますし、貴族たちの恨みつらみが殿下に集中致します」


「いやしかし……」


キャサリンとの婚約がなくなった事でそんな事態が起こるなど……考えもしなかった。人の人生を左右する、ましてや生き死にまで直結する事になるなど……。婚約がなくなった事で少々混乱が起こるとは思っていたが……まさか王国全体に不利益を被るほどの影響を及ぼすとは想像もしていなかった。


「それと、殿下は先ほど、『キャサリン様が国に戻ったら謝罪する』と仰いましたが、その事自体に無理があります」


「何故だ?」


留学したばかりだ。

直ぐには帰国しないだろう。

長期留学だったのか?

不味いな。

留学した事しか知らない。

父上からも「暫くは戻らない」としか聞いていない。


「キャサリン様は()()()()()という形を取っておりますが、本当はグランデン帝国の皇帝陛下に直々に呼び出されたのが原因です」


はっ!?

呼び出された?

 

「ちょっと待て!なんだそれは!?」


どうすればそんな事態になる!

まさか、キャサリンは皇帝陛下の不興を買ったのか!?


「殿下との婚約が白紙撤回になったからです」


「はぁ!?何故僕との婚約がなくなったから呼び出されるんだ!?」


「……殿下はキャサリン様との婚約が整った経緯を覚えていますか?」


「経緯?父上と叔父上(ブロワ公爵)とで決めたのではないのか?僕()()キャサリンが相応しいと父上が仰って決まったと……」


「なるほど。そこからですか」


「何だ?違うのか?」


「殿下とキャサリン様の婚約話が出る以前に、帝国がキャサリン様を皇帝陛下の養女に迎える話が浮上していたんです」


「……どういうことだ?」


「当時、ブロワ公爵夫人は病気がちだったため皇帝陛下がキャサリン様を養女に迎え入れる話があったんです。皇帝陛下が大変乗り気で、キャサリン様を手放したくなかった公爵夫妻と国王陛下が頭を悩ませながら殿下との婚約を急遽調えたのです」


「姪だからといって養女にまでするものなのか?」


皇帝陛下にも娘はいるだろう。

何故、姪を養女にするんだ?


「皇帝陛下も他の姪御様なら養女にしようとはなさらなかったでしょう。キャサリン様が『特別』なのです」


アレックス?

それは一体……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 王子の教育担当どうなってんだ? 『政治』のほんのカケラも理解してないし… 国王である、父王が文字通りの『土下座』までした意味の深刻さを何も感じてないじゃ無いか? まぁ実際父王含めての『甘やか…
[気になる点] これ王子がダメダメなのはもちろんあるけど、その辺りの教育や情報共有すらちゃんとしてなかった上層部皆の責任もかなり大きいのでは。
[一言] 帝国に土下座芸が受けたから辛うじて命脈保ってるけど土下座などという一発芸は二度は使えないよね あれ?何れにせよ代替わりしてやらかしてこの国終わるんじゃね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ