王子6
「我が国にとって殿下とキャサリン様のどちらに重きを置いているのかと申せば、当然キャサリン様の方を重要視いたします。何故とは仰らないでください。伯爵家出身の側妃を母に持つ殿下よりも、王弟であるブロワ公爵を父に帝国皇女殿下を母に持つキャサリン様の方が血筋的にも上であり正当性がございます。殿下が何処まで御存知なのか存じませんが、側妃腹の王子が『王太子位』になるには一定の条件がございます。第一に王妃殿下の猶子になること。第二に王家の嫡出の血を受け継ぐ令嬢を王太子妃に迎えること。この二点です」
「だが…僕は……」
「エドワード殿下は国王陛下の唯一の御子という事と、国王陛下のたっての願いによってキャサリン様との婚約が幼くして結ばれたが故に王妃殿下の猶子に為る事もなく『王太子候補』と為りました。あのままキャサリン様と御成婚なさった暁には殿下は晴れて『王太子』に為られていたでしょう。キャサリン様なら殿下が愛妾を持ったとしても笑って許してくださったはずです」
流石にそれは……。
有り得るのか?
父上にも散々言われた。キャサリンの何が不満なのかと。どうしてキャサリンを正妃にしてアリスを愛人に据え置かなかったのかと。
「僕はアリスを妻に迎えたかった……正妃として。それがそんなにいけない事なのか?」
「いけなくはありません」
アレックスは否定しなかった。
「問題はやり方です」
「やり…かた?」
「そうです。殿下はキャサリン様と話し合うべきでした。キャサリン様と話し合って両家、両国の許可を取った上で婚約を円満に解消するべきだったのです」
「言った処で許されるはずない」
「直ぐには許されなくとも長い時間をかけて許してもらうべきでした」
「冗談じゃない!そんなやり方じゃあ僕たちは何時までも結婚できないじゃないか!僕は一日でも早くアリスと共に居たかったんだ!」
「ならば王位継承権を放棄し王籍離脱すれば宜しかったのでは?殿下が平民の身分になれば心置きなくアリス嬢と共に居られましたよ?」
有り得ない事を言われた。
今まで考えた事すらない。
僕が王位を捨てる?王族を辞める?
どんなジョークだ!?
「この僕に…平民になれっていうのか?」
「アリス嬢と結婚されてランカー男爵家をお継ぎになれば貴族籍を有します」
「そういう問題じゃないだろう!僕以外に誰が王位を継ぐっていうんだ!!」
「キャサリン様がいらっしゃいます」
「ふざけているのか!キャサリンが帝国皇女の地位に居る事は理解した!だが、我が国の王位継承権は持っていないだろう!キャサリンでは王にはなれない!!」
「帝国が許可を出せばキャサリン様が次の王です」
はっ!?
帝国の許可?
なんだそれは?
「グランデン帝国の属国は王位に就く際に帝国の許しが必要なのです。勝手に即位する事は出来ません。極端な話、帝国の許可さえあれば王族の血を引く者は誰でも次のコムーネ王に成れるのです」
な、んだと……。
そんなバカな話がまかり通るのか?
ではなにか?帝国の許可が無ければ僕は何時まで経っても国王になれないという事なのか?




