王子3
「エドワード殿下、国によって法律が違うように王族の在り方も違うのです。我が国では国王一家以外は自動的に臣籍降下致します。ですが他国でそういったケースは少ないのです。大抵の国で国王一家以外の王族は貴族の爵位を持ちますが王位継承権も持ち続けます。王家の直系が途絶えたとしても代わりになる存在が後継者になる仕組みです。我が国は王位継承に伴う争いが絶えなかった歴史を持つがために王にならなかった王族の王位継承権は自動的に失われる仕組みになっているだけなのです。ヴィエンヌ王国の場合は国王の息子なら公爵位と王位継承権を持ちます。勿論、王族の数が増え続ければそれはそれで問題になりますので、三代目が公爵家を継ぐ時点で臣籍降下と王位継承権の放棄の手続きを取るのが習わしとなっております。殿下が、感情的になって叱責しようとした相手は王弟殿下の御子息にあたるのです」
アレックスの説明に愕然とした。
彼らは挨拶の時に『ヴィエンヌ王国の公爵位を持つ父の息子です』と言っていたからだ。
最初から『王弟の息子』と名乗ってくれていればいいものを!紛らわしい!
頭の中だけで彼らを罵倒した。流石に口に出すことの不味さは理解している。
「思った事をそのまま顔に出すような真似はおやめください」
苛ついた顔をしていたらしい。
アレックスに注意された。
「ここは戦場なのです。殿下の失敗は即ち国の失敗と見做されるのです。殿下の過ちもまたコムーネ王国の過ちと捉えられるのです」
頭を鈍器で殴られた気がした。
考えた事も無かった。
使節団としてアリスと共に活躍して他国の者達に認めさせる……と、そればかりを考えていた。それ以外の事など考えもしなかった。
「殿下にはお辛いかもしれませんが、これはヴィエンヌ王国に限った事ではありません。キャサリン様を知る他国の方々にエドワード殿下とアリス嬢は常に比べられます」
「何故……僕まで。普通比べるのはアリスだけだろう?」
「それは我が国だけの話です。他国では殿下もアリス嬢と同じと考えられているのです。いえ、アリス嬢よりも殿下の評価は低いといえます」
「な、何故だ!僕が一体何をしたっていうんだ!」
何もしていないではないか!
僕が何時他国に迷惑をかけた?評価が下がるほど親しくはないだろう!
「瑕疵一つないキャサリン・ブロワ公爵令嬢を裏切り大勢の前で晒し者になさいました」
アレックスの言葉にヒュッと息を呑んだ。
「殿下とキャサリン様の婚約は我が国だけの問題ではありません。お二人の婚約は帝国と王国、二つの国のための婚約なのです。それを殿下は勝手極まる理由で破棄されたのです。国にとって何が大事なのかも分からない王族をどうして他国の王侯貴族が受け入れると思うのですか?国同士の約束事を守ることが出来ない殿下を信用する者はおりません。殿下に対する信用のなさはそのまま我が国の信用問題になるのです。よろしいですか、殿下。我が国は『今最も信用ならない国』と評価されているのです」
何時も優しく微笑んでいるアレックスの目は冷ややかだった。




